第2話 なりきり子供、成人になる。

 〜転生後の世界、ジョブラス リーイン村〜


 おれが転生した世界、ジョブラス。


 その世界のリーイン村にある一本の木の下にいつもの二人で明日の話をしていた。



「ユウキいよいよ明日だね!成人の儀。」


「ごめんなホーク、長いこと待ってもらって……」



 おれの名前はユウキ。【ユウキ=ノヴァ】。


 転生前と偶然にも同じ名前だった。今は14歳。二回目の14歳だ。

 明日15歳になって成人の儀を受けるのだが、おれには前世の記憶がある。10歳の時に近所に住んでいる幼馴染のホークと遊んでいた時に、ホークの振りかぶった剣が頭に直撃し、その衝撃で前世の記憶、そして創造神プライとの約束を思い出した。


 前世のおれは日本で超売れっ子の俳優だった。だが、演技に没頭しすぎて、死ぬ演技の時に本当に死んでしまった。我ながら間抜けな死に方だ……


「気にしなくていいよ!いつか二人で冒険者になろうって約束したじゃん!それよりユウキの職業はなんだろうね?」


 おれの幼馴染のホーク。【ホーク=バロル】。

金髪のツンツン頭の15歳の少年。熱血で突っ走るが、まっすぐで純粋な性格だ。少し子供っポイ所もあるけど、おれの大事な友達だ。

 成人の儀で貰った職業は双剣士だった。おれより二ヶ月早く成人の儀を迎えたのだが、一緒に冒険者になるって約束のために待っていてくれた。


「チート能力ってのは確定してるんだけど……職業はなんだろうな?」


 転生する前にプライが言っていたおれだけのチート能力…おれにしか使えないとも言っていた。

 だが現状チート能力など出ていない。転生物にありがちなステータスを見ようとしてみたけれど、見れなかった。

 調べてみるとどうしてそんな仕様なのかまではわからなかったが、どうやら成人の儀を受けて初めてステータスが見れるようになるそうだ。



「いっつも言ってるよね?そのチート?能力って一体なんなの?」


「ズルい位強い能力って事だけど、内容まではおれにもまだわかんないよ。

ステータス見れないし…だけどそれも明日全部わかるんだ!楽しみだなぁ。

でも本当にいいのか?おれと一緒に行くって事は魔王と戦うって事なんだぞ!?」


 おれは魔王を倒す為に旅に出る。ダンジョンに行ったり、他の危ない場所にも行かないといけないかもしれない。ホークを巻き込む様な事はできるだけしたくない…。



「あったりまえだろ!ずっと一緒に生きてきたんだもん!魔王だって一緒に戦って倒そうよ!それにいくら強い能力を貰ったって一人じゃ限界があるかもしれないよ?一人より二人でだよ!」


「本当によく考えてくれよ!おれと一緒に来たら怖い目にも、危ない目にも、下手したら死んでしまうかもしれないんだ…おじさんやおばさん達も説得しなきゃいけないし…」


「おれは元々ユウキと旅に出るって伝えてるよ!貴族でもないんだ成人したら好きにしろって言われてる。

畑は兄ちゃんが継ぐし…妹達もいるから大丈夫だよ!

それに説得しなきゃいけないのはユウキの方だろ。一人っ子だし、魔王討伐の事まだ信じて貰えないんでしょ?」


 両親は魔王なんていない。の一点張りだ。

 だけどおれは創造神であるプライから直接頼まれたんだ。これは間違いなく真実だ。

 村の人達にも魔王の事を聞いて回った事があったけど、誰もが魔王なんて大昔のおとぎ話だと笑っていた。



「そうなんだよなぁ…どうやったら信じてくれるんだろうな……。」


「まぁそんな固く考えるなくてもいいじゃん!魔王の事を信じて貰えなくたって、旅に出る事を許して貰えれば一緒に冒険者になって魔王を倒せばいいじゃん!」


「そうはいかないよ!今まで育ててくれたんだ!おれはちゃんと伝えるよ!わかってもらえるまで何度だって…」


「ハハッ、相変わらず変なところで頑固だよね。まぁ、それがユウキか…。」


 笑いながら立ち上がるホーク。そろそろ帰るのだろう。



「それじゃあ今日はもう帰るよ!明日の成人の儀にはおれも付いて行くからね!」


 と走って帰って行った…。



「ちゃんと伝えないとな…」











「父さん、母さん、おれは明日で15歳になる!成人の儀を受けるんだ!」


「知ってるわよ。私が産んだんだもの。」


 おれのこの世界での母親。【マーリス=ノヴァ】。おっとりしているが、芯の強い人だ。


「また魔王を倒すって言いたいんだろ?魔王なんて大昔の話で、復活なんてしない!何度言えばわかるんだ?」


 そしてこっちがおれのこの世界での父親。【ラルク=ノヴァ】。頑固親父だが、優しい人。



 この通り両親は魔王なんていないの一点張りだ。だが今日は伝えなくてはならない事が他にもある。



「魔王の事もそうなんだけど、聞いてほしいほしい事があるんだ。成人の儀を受ける前にどうしても伝えたくて…父さんと母さんには本当に育てて貰って感謝してるんだ。それでその…今まで黙っていたけどおれは………」


 転生した人間だと伝えると決めていたのに悲しませてしまうと思うとうまく言葉が出て来ない。



「誰であってもあなたはユウキよ。」


「えっ!?」


「親を甘く見るな!帰ってきたあの日からわかっていたさ。ユウキお前…転生人てんせいびとなんだろ?」


 転生人…この世界に稀に現れる違う世界の人間の事だ。その中には転移して来た人間も含まれてたりして、まさに日本から転生したおれみたいな人間の事をこの世界の人は転生人と呼ぶ。



「!!! どうして……」


「あれは10歳の時だったわね……そっかぁ、あれからもう5年も経つんだ…。」


「そうだな…ホークと剣の修行をするって出て行って帰ってきたら別人みたいに性格が大人になってたもんな…。最初はおれたちもビックリしたぞ。」


 おれには、一条勇気としての23年間の記憶がある。


 だが、ユウキ=ノヴァとしての10年間の記憶もおれにはある。いつか言わなきゃと思いながら悩むこと約5年。おれは10歳のユウキになりきって生活していたのに、両親には最初からバレていたらしい。なりきり俳優が聞いて呆れるよ……



「騙す様な事をしてごめんなさい。確かにおれは転生人です。でも本当に父さんと母さんの子でもあります。」


「わかっているわよ。だからユウキはユウキなのよ!例え転生人のあなたがユウキの体に入った別人だとしても私達には紛れもないユウキなの。」


「お前はおれたちの息子だ!血の繋がった歴とした本物の家族だ!例え悪魔だろうが天使だろうが構いやしない。そうやって育ててきたんだ気にする事なんてない。」


「父さん…母さん…」


 両親はわかってておれを育ててくれたんだ…。その優しさに泣きそうになる…



「ユウキも明日で成人になるのね…15年ってすっごく早いわね…」


「あぁ少し前まであんなに小さかったユウキがもう成人になるんだもんな。」


 二人共産まれた頃のユウキを思い出しているのだろうか…



「私達ね、なかなか子供が出来なかったのよ。

この食べ物を食べると子供ができやすくなるって聞けばそればっかりを食べたり、このアクセサリーをつければ子宝に恵まれる。そんな与太話を信じたりもしたわ。」


「この運動すれば妊娠に効果があるなんてのもあったな。」


「もう私達に子供ができないんじゃないかって諦めかけていた時に私達の元に来てくれたのがあなたなの。あなたが私達を選んでくれた。例え転生人だったとしても、私達を親にしてくれたのはユウキあなたよ。」


「ユウキができたとわかった時は二人で泣いて笑って大騒ぎだったな。それだけ念願の子供だったんだ。おれたちと家族になってくれてありがとう。」


「父さん…母さん…ありがとう。」


 この優しい両親の元に産まれたと言う幸せと、この優しい両親の元に産まれてしまったと言う申し訳なさで耐えきれず泣いてしまう。



「ほら泣かないで。いつかあなたが話してくれるって覚悟はしてたもの。」


「最初に言ったろ親を甘く見るなって。本当のお前を知る覚悟もおれたちにはできている。

おれたちに教えてくれないか?自分の子供の事はなんでも知っておきたいんだ。それが親ってもんだからな!」


「ヘヘッ…わかった。長くなるからね!」




 おれは転生する前の一条勇気だった時の事を二人に話した。俳優をやっていた事。演技に没頭しすぎて死んでしまった事。名前が今と一緒で勇気だった事。

 そして転生の時の事。創造神プライの事。この世界の魔王を倒してほしいと頼まれた事。おれに凄い能力が備わっているかもしれないこと。


 今まで隠していた事全てを両親に明かした。二人は驚いたりしていたが、夜遅くなっても最後までちゃんと聞いてくれた。






 翌朝、成人の儀を受けるため、村にある唯一の教会へと向かう。

 神様に見守って貰えるようにといった願掛けみたいなものらしいが、村や街を作るには、教会を建てるのがこの世界の常識だそうだ。



「私達もプライ様に感謝してお祈りしなきゃね!」


「あぁ、存在が知れただけでもおれたちは幸せ者なのに、ユウキにも出会わせてくれたお方だ。」


「そんな大げさな……でもまぁ二人もお祈りしてくれたらプライも喜ぶと思うよ!神だけど見た目子供だったし。」


 神は信者や祈りが多くなるほど神としての力が増すってなんかの漫画で読んだ気がするし…。


「お〜〜〜い!ユウキ〜〜!」


 ホークが教会の前から大きく手を振りながら呼んでる。おれも手を振り返し両親と協会へと到着した。



「ユウキ!とうとうこの日が来たね!おれ緊張して昨日あんまり寝れなかったよ……」


 おれよりも、ホークの方が楽しみにしてたようにワクワクしている…



「なんかホークの方が成人の儀を受けるみたいだな…」


 ホークの元気に呆れていると、騒がしい事に気付いたのか、教会からシスターが出て来た。



「あまり教会の前で騒がないで下さいね。」


 怒られてしまった…



「すいませんね、今日成人の儀を受けるので浮かれちゃってるみたいで…ほらお前たちも謝れ!」


「「ごめんなさい。」」


「いえいえ…わかっていただければ構いませんので。成人の儀を受けると言う事は、ユウキ=ノヴァさんでしょうか?」


 父さんが教会に今日来る事を伝えてくれていたのでシスターはおれの名前を覚えていたようだ。



「はい。おれがユウキです。よろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いします。では、神父様の所にご案内致します。こちらへどうぞ。」


 シスターはニコッと挨拶を返してくれた。おれたち四人は教会の中の礼拝堂へ案内され、おれだけ別の部屋へと案内された。部屋に入ると初老といった感じの神父が待っていた。



「ユウキ=ノヴァ君ですね。待っていましたよ。」


 座っていた神父が立ち上がって挨拶をしてきた。



「今日はよろしくお願いします。」


 何をするのかはわからないが、皆普通にしてたし変な事はされないだろう…。



「では早速始めましょうか。こちらの台に乗ってくださいね。」


 部屋に置いてある台に乗る。目の前には台座に載せられたかっこいい石像が飾ってある。

 全長3メートル位はありそうだ。ここの教会が祀っているのはプライとは別の神様なのかな?



「準備ができましたね。これより成人の儀を行います。ユウキ=ノヴァ。あなたがこれまで生きてきた感謝と、これから健やかに生きていけるように願いをこめて目の前の創造神プライ様に祈りなさい。」


 そう言うと神父はなにかを唱え始めた。


 ん?今プライ様っていった?この石像プライなの?似てねぇ……ってか全くの別人じゃん!あぁダメだ、お祈りしないと!目を瞑り、プライに成人になった事を報告する。



(プライ覚えてる?転生させて貰った一条勇気です。おれもこの世界で成人になったよ。)





「やぁ久しぶりだね。」







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