最終章 呪いのカラクリ
7-1 解体物件
次の日、直戸と雁屋は浜松中央署の生活環境課の近くに陣取り、阿部が出てくるのをこっそりと待った。そして阿部が動き出すと、直戸たちは慎重にその後をつけた。阿部は警察車両を使わず、道端で拾ったタクシーで移動した。直戸たちもタクシーを拾い、雁屋が運転手に警察手帳を見せた。
「前のタクシー、追ってくりょ」
「了解しました」
やがて阿部の乗ったタクシーは松新建設という会社の前で停まった。そして阿部は車を降りると松新建設の建物の中に入って行った。少し間をおいて直戸と雁屋も松新建設に足を踏み入れた。阿部は受付のところで何か用件を告げていたが、間もなく従業員の一人が出てきて阿部を奥の方に引き入れた。そしてしばらく時間が経過すると、阿部とその従業員が出てきた。阿部はそのまま出口へ向かい、対応した従業員は恭しく頭を下げ続けていた。阿部が完全に去ったのを確認すると、直戸と雁屋は、先ほど阿部の応対していた従業員を捕まえた。その名札には池安と書いてきた。雁屋は池安に警察手帳を見せた。
「俺は阿部の上司だに。阿部から何を訊かれただか?」
「本当に上司なんですか? 警察内部のゴタゴタに巻き込むのは勘弁して下さいよ」
池安が協力を渋っている様子なので、直戸は周りに見えないように万札二枚を池安のポケットにねじ込んだ。すると池安は小声で言った。
「どうぞ、こちらへ」
そして先ほど阿部にしたように奥の方へと直戸たちを案内した。そして会議室に入り、窓のカーテンを閉めると池安は語り始めた。
「阿部さんは、一通のマニフェストのコピーを持ってきたのです。それはウチが解体した物件の廃棄物のものでした」
「マニフェストに記載された、その物件というのはどんなものだった?」
「B県立大学の実験用原子炉が廃炉となりまして、その原子炉施設の外壁です」
「原子炉施設の外壁となると、どこか特別な処理施設へ持って行くのか?」
「ウラン廃棄物などの低レベル放射性廃棄物は
「ここから直接埋設センターへ運ばれるということかね?」
「いえ、一旦中間処理業者に渡され、きちんと廃棄できる状態にした上で埋設センターへと運ばれます」
「その中間処理業者は何という業者だ?」
「影山興産という会社です」
「影山興産……あの影山徳治のところか。その先はどこの埋設センターへ行くかは把握しているのか?」
「いえ、そこから先は中間処理業者の決めることですので……」
池安は語尾をやや濁して答えた。何か事情を知っている風であったが、直戸たちは敢えて問い詰めないことにした。
直戸と雁屋は日本国内にある低レベル放射性廃棄物埋設センターに連絡し、影山興産から搬出されたクリアランスレベル以下の放射性廃棄物を受け入れていないか確認してみた。ところが日本全国どこのセンターでも影山興産から放射性廃棄物を受け入れた事例はないと言う。そして業者の一人がこのように漏らした。
「今の日本の現状を考えると、クリアランスレベル以下の放射性廃棄物を低レベル放射性廃棄物埋設センターで受け入れるというのはあり得ないです。何しろ福島の事故以来、放射性廃棄物が怒涛のように溢れかえっていて、どこのセンターも飽和状態なんです。そんな時にクリアランスレベル以下の廃棄物など受け入れる余裕なんてとてもありませんよ」
それを聞いて、直戸と雁屋は思った。松田泰造が請け負ったのはこういったクリアランスレベル以下の放射性廃棄物に違いない。依頼者はクリアランスレベル以下放射性廃棄物の浅地中処分を公約に掲げながら、埋設センターに拒まれ行き場のない廃棄物を持て余しているB県知事周辺、また同様の状況に置かれている政治家たちだ。彼らはその尻拭いを影山に依頼し、実際に手足となって動いていたのがパインこと松田泰造だ。
「しかし状況証拠だけで物証あらへんで。それに俺の仕事はあくまで三人の行方不明者ン捜索で、本来は終わっていることになってるだに」
「うむ。やはり阿部さんに頼んで捜査に協力させてもらうしかないだろうな。気に食わん奴だが仕方あるまい」
「ほうだら……」
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