6-8 白い軽自動車

 雁屋は早速ナンバーを控え、Nシステムの記録と照合した。しかし、失踪当日に新東名の四大地出口で通過が確認されて以降、Nシステムには記録されていなかった。

(町中には出ていない……すると、山間部のどこかで消えた可能性があるだに)

 雁屋は例の旧廃棄場の捜索は後回しにして田辺涼子のミライースを先に探すことにした。阿部が忠告するように、旧廃棄場をいじると掘り返して欲しくない連中が権力を傘に邪魔をしてくる可能性があるからだ。浜松中央署の安全企画課のメンバーは総出で白いミライース探しに乗り出した。天竜署や細江署も協力して人員を派遣した。その結果、天竜区某所の不法投棄された廃車が山積みになっている場所で、廃車にしては新しすぎる白いミライースが発見された。雁屋は直戸を伴ってその現場に急行した。

 発見したのは天竜署の井尻巡査だった。

「中央署の雁屋だに。井尻巡査、発見した経緯を教えてもらえるけ?」

「発見した場所は自動車の不法廃棄で問題になっていた場所でした。パトロールはしているんですが、警察の目を盗んで性懲りもなく廃車を捨てにくる連中が後を絶ちません。私も何度かパトロールに来ていますが、最近廃車の山積みの形が変わったんです。変だなと思っていたのですが、今回のミライース探しの話を聞いてピンと来ました。もしかしてここじゃないかと思って来てみたら、案の定白いミライースがあったんです」

「ほんで、くだんのミライースはどの辺にあるだね?」

 雁屋がきくと、井尻巡査は廃車の山へと案内した。車の形をした鉄屑の山。雁屋はあれがかつては公道を颯爽と走っていたのだと思うと、間もなく定年を迎える身としてはやり切れない気持ちになる。

「あの下の方で下敷きになっている白い車があるでしょう。あれ、ミライースですね」

「最近捨てられたにしちゃあ、随分下ん方だに……」

「そうです。わざわざユンボ(パワーショベル)で掘り返してその下に埋めたんです。私はしばしばパトロールに来ていますので、この山が人為的にいじられたことがわかります」

「ほんだえらいことまでして隠す必要あっただか。車の側ン近づいて確認出来るけ?」

「出来ないことはありませんが、このまま山の中に入るのは危険ですね。やはり重機でどかさないと」

ないとかない、というわけだら。わかった、手配するで」

 雁屋が署に連絡すると、しばらくしてパワーショベルを乗せた平台トラックがやって来た。そしてパワーショベルはボロボロになった廃車を一つ一つ山から除去していった。そして下敷きになった白いミライースが姿を現した。

「ナンバープレートは外されているが、車台番号は田辺涼子の所有車両と一致する」

「うっ……!」

 雁屋は死臭に思わず顔をしかめる。外部から車内を覗くと後部座席は倒されて、養生シートで覆われていた。その下に何があるかは推して知るべしである。

 廃車の山に捨てられたミライースから出てきた三体の死体は、匠、田辺、宮地のもので間違いないと断定された。そして死後時間が経過して死因の断定は困難であったが、予想通り硫化水素中毒の可能性が高いとされた。そして喜一の供述と状況判断から、三人はまず旧廃棄場で硫化水素中毒死し、その後何者かによって廃車の山まで彼らの車で運ばれ、車ごと捨てられた。

「どうして三人の死体を移動せにゃならんかっただに?」

「そこだな。硫化水素で中毒死するのは、言い方は悪いが自己責任だ。だが、こう考えたらどうだろう。あそこにまずいものを持ち込んだ人物にとって、そこで死体が上がること自体不都合だったのではないか? そのまずいものによって死んだという噂を立てられること自体が困るといったような……」

「松田泰造が死んだ今となっちゃ死人に口なしだもんで、何を運ばせていたのかわからなくなっただに……」

「生活環境課の阿部をつけてみたらどうだろう。松田の扱ったブツに関してどうも何かを掴んでいる様子だ」

「そうだけぇが……」

 雁屋は直戸に同意したものの、あの隙のない阿部の尾行が成功するものか……そんな心許ない気持ちが顔色にあらわれていた。

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