6-7 車の行方
「どうしてそう断言できるんです?」
「ここはかつて、産業廃棄物の不法廃棄場だったのだ。産業廃棄物と言うのはね、熟すると硫化水素ガスを発生し、時には過剰に発熱して火災を起こすこともあるんだ。君たちはここへ来た時、おならのような匂いがしなかったかい?」
「ええ、夢の中で『お前屁こいただろ』などと互いに言っていました」
「それが硫化水素ガスの匂いなんだよ。イオウの匂いなどと言われるが、本来イオウは無臭なのだ。ともかく硫化水素は猛毒なので大量に吸い込めば命を落とす」
「では、匠、田辺、宮地の三人は硫化水素を吸い込んで倒れたということですか?」
「おそらくそうだろう。土中で熟成されたガスが何かの拍子で地表に噴き出した。そこに運悪くぶつかってしまったのだろう」
「では、もし彼らがここで事切れていたとしたら、この廃棄場の中に遺体があるということですか」
「ああ、出てくるだろう。しかし、むやみにここを掘り返そうとすればまた権威筋から圧力がかかってやめさせられるだろうな」
しばらく黙っていた直戸が疑問を呈した。
「何故だね。もう使っていない廃棄場だろう、何が問題なのだ」
「ここはオーナーが夜逃げしたことによって管理者のいなくなった穴場で、業界ではここに捨てに来ることはタブーとされている。しかし、中には掟破りのならず者もいて、今でもここで用を足す輩もいる。ある時、その筋の絡んだかなりヤバイ物件を、こともあろうにここで捨てて裏社会で大問題となった。その物件てのが、綾小路さん、あんたが追ってたパインが絡んでるブツなんだよ」
「パイン、つまり松田泰造か? 奴は何を捨てていたんだ?」
「おっと、ここから先は機密事項だから外部の者には口外できんな」
「やい、同じ部なのに水臭いで」
阿部は雁屋に返事の一つもせずにその場を後にした。
†
帰りの車で雁屋がしみじみいう。
「影山ン圧力で刑事課を追われたけぇが、逆に事件を追えるようなったで、影山のおかげやま〜」
「おかげかどうか知らんが、松田は影山の下請けだからな。事件を探っていけば影山に辿り着けるだろう」
「一つ気になるんですけど」
喜一が疑問を呈した。「夢の中で僕らは自動車で現場に到着したんですが、僕は結局運転できずに走って逃げてきたんです。もしそれが事実だとすると、乗り捨てた自動車があるはずなんですが、さっき見たら跡形もなく消えていたんです。いったいどこへいったのでしょうか」
「キーを差しっぱなしで捨ててきたんでしょ? 誰かが盗んだんじゃないかしら」
「穂香の言う通りなら、盗難車としてどこかをさまよっていることになるな。天草君、夢の中では田辺というガキが無免許運転してんたんだろう? それなら田辺の家の自家用車と考えるのが妥当だ」
直戸の意見に頷いた雁屋は、署に戻ってから、田辺家からの捜索願の情報の中に車に関することは出ていないか静岡中央署に尋ねてみた。すると、次のようなことがわかった。
悟の母、田辺涼子は輸入雑貨店の店長をしており、度々ジュエリーの買い付けでインドネシアに出張中していた。事件当日も出張中で彼女が帰宅してみると車が無くなっているばかりか高校生の息子までいなくなっていた。ちなみに田辺家は母子家庭で留守宅には一人息子の悟しかおらず、悟は涼子の留守中に時々こっそり車を持ち出して友達とドライブに出かけていたことがわかった。運転の仕方はバイト先の先輩から悪戯半分で教わったようで、だんだん無免許運転が病みつきになったようである。そんな背景で今回の事件が起こった。ちなみに田辺涼子が所有していた車は燃えていたのはダイハツ・ミライースのグレードB、ボディーカラーは白でAT車とのことである。
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