第2話 街の外で出会ったのは?

 冒険者ギルドに着くと、ギルドの中に入り受付のお姉さんに声を掛ける。ちょっとカウンターが高くて背伸びしてやっと頭がちょこんと出るくらいだ。


「あの、すみません。ギルドカードを作りたいのですが……」


「あら、可愛い冒険者さんね。冒険者ギルドの登録でいいのかな?」


「はい、お願いします」


 手続きをするための用紙を渡された。日本語でまずは書いて出してみようかな。年齢……一応7歳で出しておく。日本語で心配しだけど、大丈夫だったみたいだ。


 無事に登録が出来て安心した。お姉さんにギルドカードを受け取り、ギルドの注意点なども聞いた。10歳までは討伐依頼は受けられないのだって。薬草の採取とか街の中のお手伝いしかできないのだって。

 

 今日は薬草の採取をしてみようと思う。今日も1泊宿に泊まって明日早くからアズライトの街へ出発しよう。薬草の形や場所などを聞いてから冒険者ギルドを出て、西門へ向かう。門番さんに手続きをして貰い外に出る。


 少し歩くと森の中に入る……。


(ちょっと怖いな……)


 どしん! と背中に衝撃が走った!


「きゃーっ!」


『みつけたくまっ!』


「な、なにっ?!」


『ぼくは神獣のくまなのくま。サラに会いたくて来たくま!』


(神獣のくま? くまって食べられちゃう!?)


「た、食べないでー!」


『えぇぇ?! 食べないくまよ!?』


(本当かなぁ……怖い……けど……)


「え、えっと……降りて貰って良いですか? お顔が見えないので……」


『あっ、そうだったくまね。ごめんくま』


 背中の重みがなくなって、正面から見る為に恐る恐る顔を上げてみると……くま? ぬいぐるみ? 目の前に50センチくらいのぬいぐるみのくまが動いている。


「えっと……ぬいぐるみですか?」


『ぬいぐるみって何くま? ぼくは神獣のくまなのくまよ』


「しんじゅう? って神獣? 朱雀とか白虎とかよく聞くあれ?」


『そうくまよ。この世界の神獣は3神いるくまよ。朱雀、白虎、そしてぼくくま!』


(いやいやいや、白虎とかと一緒にぬいぐるみのくまな訳ないでしょう!?)


『あっ、信じてないくまね?』


「あっ、ごめんね。あまりにも可愛いからびっくりしちゃって……」


 だって、50cmくらいのぬいぐるみのくま、そのまんまなんだもん。そして、動くぬいぐるみとか萌え死にそうですよ?


 ぬいぐるみ好きとしてはもう、萌え萌えキュンキュンしちゃうんです! 抱っこして良いですかね? 抱きしめても良い? 良いかな?


『サラの目がなんか怪しいくま? な、なにするくまー!?』


(きゃー! 首をかしげる仕草、なんて愛らしいのー!?)


「可愛いっ! 大好きっ! もふもふすりすりさせてーっ!」


 目の前のぬいぐるみくまちゃんを抱っこしてすりすりもふもふしちゃった。


(気持ち良すぎる……)



『サラ、ぼくが来たからもう大丈夫くまよ』


「えっ?」


『こっちに来た時に、すぐに一緒にいれなくてごめんくま。でももうずっと一緒にいるから大丈夫くまよ』


「ずっと……一緒? 本当に?」


『そうくま! だって、サラはぼくの言葉分かるでしょう?』


「うん」


『ぼくはサラに会うために来たのくま。だからもう大丈夫くま!』


「うぅ……ふぇ……」


 くまちゃんに抱き着いて散々泣いてしまった。こっちに来てからずっと心細かった、怖かった……このくまちゃんのいう事はすっと心に入っていった。



「うぅ……大泣きするとか恥ずかしい……」


『ふふ、大丈夫くまよ。ぼくしかいないくまよ~』


「そうだ、貴方のお名前を教えて?」


『サラが付けてくまよ』


(まさか私が付ける事になると思わなかった……)


「じゃぁ……くっきーってどうかな?」


『ふふっ、ぼくの名前はくっきーくま。よろしくくま~!』


「私は青木沙羅だよ、サラって呼んでね。これからよろしくね」


 私のくま語理解とくまの友愛はくっきーの事だったそうだ。ただ、私が召喚された所から離れた所に居たから、急いで飛んで来てくれたんだって。


『サラはこれからどうしたいくま?』


「とりあえず、この国から出たいの。聖女じゃないからって追い出すんだもん。あんな王様のいる国に居たくないから、隣のアレクシス王国へ行こうかと思っていたんだけど、どうかな?」



『うん、確かにアレクシス王国の方が平和くまよ。アレクシス王国は魔物が増えているみたいだから、サラとぼくが行くとちょうど良いと思うくまよ』


「ちょうどいい?」


『ぼくには浄化能力があるから、魔物がぼくの近くに来ると消滅するくまよ』


「えぇぇぇ!? 消滅しちゃうくらいくっきーの力は強いんだ! 凄いねぇ」


『えへへっ。サラに褒められるの嬉しいくま~!』


 照れるくっきーが可愛くて、ついなでなでしちゃう。もう可愛すぎるっ!


「でも、私本当の年齢分からないけど今7歳だし……何も能力がないんだけど……アレクシス王国まで行けるかなぁ?」


『それはぼくが付いているから大丈夫くま! ゆっくり行けばいいくまよ~』


「そっか、ありがとうね」



 それから、冒険者になった事や、明日アズライトの街へ向かおうと思っている事をくっきーに伝えた。馬車に乗っても良いけど、歩いて行った方が、冒険者ギルドで買い取って貰える物が採取できるというので、明日は歩いてアズライトの街へ向かう事にした。


 今日はまずは薬草を採取しないとね。くっきーが私に魔法を掛けてくれると、見える景色が変わった。視界の色々な所に矢印が出て、薬草の場所を教えてくれている。後は買い取りが出来る物も教えてくれているんだそう。


「わぁ、くっきー凄いっ!! よし、採取がんばろー!」


 次々に薬草を採取していく。ふと、気がつくと……少し先に鹿みたいな動物がいた。えっ、魔物!?


「くっきー、あれ……」


『あっ、その子は動物だから大丈夫くまよ。アイテムを持ってきてくれたのくまよ~』


「アイテム?」


『ぼくの周囲500メートルは浄化されて魔物は生きてられないくま。倒した魔物からはアイテムがドロップするのくま。それを近くの動物に持ってきてくれるようにお願いしておいたくまよ~』


「えぇぇぇ?! くっきーはそんな事が出来るんだっ! 凄すぎる! さすが神獣様っ!」


『ふふふっ、もっと褒めてくま~!』


「あはは。でも本当に凄いね!」


 鹿さんはアイテムを地面に置くと、また森の奥へ戻って行った。


「鹿さんありがとう~!」


 鹿の後ろ姿に声を掛けると、一瞬振り返って1つ頷いた。言葉が通じるのかな?


『サラ、このアイテムはぼくが仕舞っておくくまね』


 そういうとくっきーはアイテムをどこかに仕舞ったみたいだ。


「えっ? どこに行ったの??」


『ぼくはアイテムボックスの魔法も使えるから荷物も任せてくまよ!』


「わぁ、本当にくっきーは有能だねぇ。私こんなに何も出来なくてどうしよう……?」


『ふふっ、サラはいてくれるだけでいいくまよ』


「よし、でも出来る事はがんばる!」


 そう話ながらも薬草の採取をしていく。その後も次々と色々な動物たちがアイテムを持ってきてくれる。たまにお肉も持ってきてくれるんだけど、何を倒したの?! ここの世界は魔物を倒すとアイテムをドロップするんだって。うん、死体を見ないのはとても助かるね。


 薬草とか沢山採ったので、街へ帰ろうかな。くっきーが歩くのを見ているの可愛いんだけど、可愛すぎるからつい抱っこしちゃう。


 だって、しろくまの赤ちゃんとかぬいぐるみのくまちゃんが動くんだよ! 抱っこしたくなるでしょ!? むしろ脳内で歩くときゅっきゅって音を鳴らしちゃうよ?


 何歳だったか分からないけど、今7歳だから、くっきーを抱いて歩いていても違和感なさそうだよね。うん、深く考えるの止めよう。考えるの怖い、思い出せない事を考えていると怖くなる……やっぱり考えないようにしよう。


 くっきーを抱っこしてお話しながら街へ向かう。門番さんに手続きをして貰っていると、くっきーを不思議がられた。


『ぼくの声は聞こえないから、ぼくはサラの従魔ってことにしておくくまよ~』


「えっと、この子は私の従魔になりました」


「おぉ、そうなのか。だったら冒険者ギルドで従魔登録して貰うんだぞ」


「はい、分かりました。ありがとうございます」


 冒険者ギルドで登録が必要みたいだ。


「でも、従魔登録しちゃって良いの?」


『大丈夫くまよ~』


 冒険者ギルドに着いて、まずは買い取りカウンターへ向かう。そこで薬草や他の採取した物も買い取りして貰う。依頼達成票を受け取ったら、受付のお姉さんにギルドカードと一緒に出して、手続きをして貰う。


「すみません、後、この子の従魔登録をお願いします」


「あら、可愛い子ね。お名前をお願いします」


「くっきーです」


「はい、登録完了したわ」


「ありがとうございます」


 冒険者ギルドを出て、街を見て歩く。


「そういえば、食事はどうしたら良いかな?」


『サラのご飯は買っておかないとくまね。ぼくのアイテムボックスに入れておけばいいくまよ』


「そっか。じゃぁ、少し食材と調理器具を買っておこうかな」


 お金が心配だから少しずつ買う事にしよう。まだ昨日あのローブの人に貰ったお金はあるけれど、宿に泊まることを考えるとあんまり使うのは不安だ。


 小型コンロとお鍋、調理道具、後は食材と調味料も最低限買う。買った物はくっきーがアイテムボックスに仕舞っておいてくれる。


 お買い物が終わったら宿に行く。今日も泊まれるか聞いてみたら、空いていたのでもう1泊お願いする。昨日と同じ部屋だったので、まずは部屋に向かおう。


 お夕飯はくっきーと一緒に食べた。7歳の身体じゃ、あんまり入らない。くっきーと一緒に1人前を食べるだけで十分だった。


 部屋に戻ると、くっきーがクリーンの魔法を掛けてくれて、身体がキレイにさっぱりした。そのままベッドに入ると、くっきーを抱っこする。


「明日は朝からアズライトの街へ向かおうね」


『ふふ、楽しみくまね』


「おやすみなさい」

『サラ、おやすみくま』

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