第48話 <学園祭開幕です!>

 花火が空に上がり、皆の声が盛況に響いている。

 さぁ、遂に開幕学園祭! 準備を重ねていよいよこの日がやって来ました!

 私たちの劇までは少し時間があるから、それまではイリヤとデートします。あっ、ちゃんとリリスも連れて行くよ。

 ここだけの話、先にネタバレしちゃうといつの間にかリリスもしっかり役割を与えられていたんだよね。この子、学園に連れて行ったことはないはずなのにどこからイレーネ様は情報を仕入れてきたんだか。

 ちなみに、演技については心配ないよ。家でお姉様がしっかり指導を……。

 もしかして、お姉様経由で採用されたとか? ちょっとあり得る……。


「リリ様? 先ほどからどうしました?」

「あーううん。なんでもないよ」


 イリヤが心配そうにしてくれてた。

 今日は周囲にたくさん人がいるってことで様付けになってる。ほんとは名前で呼んでくれた方がいいのにね。

 今は仕方ない。いつか、イリヤと結婚したら同じ立場になるんだし名前で呼び合えるようになるんだからね。


「あっ、あれ見てくださいリリ様。チョコバナナですって」

「今話題のあれか。買う?」

「……興味があります」


 イリヤが見つけたのは、先輩が露店を出しているチョコバナナ。

 ずいぶん前にパーティーで一緒に踊ることになった勇者がいたでしょ? 確か名前が……そうそうユウヤ! やっと思い出せた。

 で、そのユウヤが西南地域に遠征に行ったとき、そこでバナナを見つけてチョコに浸したのがチョコバナナブームの始まりだって聞いた。

 瞬く間に帝都まで情報が広がって、商業区では専門店まで開かれてるんだってね。若い女子に大人気。

 私からするとチョコバナナなんて縁日のイメージがする。専門店が開かれるなんて想像もしなかったわ。

 てか、ユウヤって多分だけど甘党でしょ。そうじゃなきゃバナナ見つけてチョコに浸すなんて思いつくわけない。私だったら皮剥いてそのまま食べる。

 とまぁ、どうでもいい話は置いといて、私とイリヤ、それからリリスの分も合わせた三つをお買い上げ。

 近くに座ってチョコバナナを渡し、一緒に食べ始める。

 一口食べてみたイリヤがわずかに目を見開いた。口を手で隠してる。


「美味しい。パリッとしたチョコがこのバナナのほんのりとした甘みの後にきいてきますね」

「イリヤ食レポ上手いね」


 そんな細かく分析しながら食べたことないや。

 なんだか新しいチョコバナナの良さを発見した気分になる。当たり前だと思っていたものがない異世界での初反応って新鮮で面白い。

 っとと。イリヤの頬にチョコが付いてる。中々付きにくいとは思うけど、どういう食べ方したんだか。

 普通、こういう時は指で取るのが普通かもしれない。けど、私はあえてキスで取る。

 頬に口づけし、舌先でチョコを優しく取ってあげる。

 やってから思ったけど、割と大胆なことしたな私! 周りから黄色い声が聞こえてくる。

 真っ赤になったイリヤが慌てたように私との距離を開ける。

 私が舐めちゃった場所を手で押さえ、必死にあたふたしていた。漫画とかなら目の中がぐるぐるのあの表現になっていることでしょうね。


「り、リリ!? ななななにを!?」

「ごめんごめん。チョコが付いてたから取ってあげただけ」


 慌てていたからか様が消えてるし。

 焦っちゃうイリヤもとても可愛い。普段がこうピシッとしてるから、たまに見せるへにゃへにゃ感が萌えるのよね。

 可愛らしい姿に笑っていたら、いきなり両頬を掴まれた。

 イリヤがちょっと拗ねたように覗き込んでくる。ふくれっ面も少し可愛いけど、なんか唇がぷるぷる震えているのに妙な予感が。

 小さくかみきったチョコバナナを口にくわえると、顔を近づけてくる。


「ほ、ほうはっへはへるとおいひいでふよ」

「イリヤさーん!? 皆が見てるからあまり大胆なことは避けましょうね~?」


 なんて、私の忠告はどこへやら。

 グッと顔を寄せ、口移しの形でチョコバナナを食べさせてくれた。ただ、冷静さを欠いていたのか歯が当たってちょっと痛い。

 でも、そんな痛みをかき消す甘みが口の中いっぱいに広がった。これは、チョコなのかバナナなのかそれともイリヤの……。

 なんにしても悪い気はしない。このまま見つめ合って……。


「お二人さーん。お熱いところ悪いけどいいかな?」


 声を掛けられ叫びそうになった。

 私もイリヤもすごい勢いで飛んでベンチに座り直す。


「お、おぉう……いい反応」

「セ、セレイナ……何かな?」


 リリスを抱きかかえて笑っていたセレイナに、問い返す。


「そろそろ劇の準備を始めたいんだけど……もう少しご休憩してから来る? ここらに人払いの結界張るし、その、一回くらいならヤッても時間的には」

「「それはしない!!」」


 見事にハモる私とイリヤ。

 セレイナに連れられ、劇の準備を進める講堂へ。さて、ちょっとあの先を期待していたけど、気持ちを切り替える。

 やる気満々なイレーネ様のためにも、しっかり頑張らなくっちゃ。

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