第47話 <学園祭まであと少し!>
もうすぐ学園祭が始まるということで、私たちは大忙しだった。
午前までは普通に授業を受け、午後から劇の準備を本格的に進める。大道具は作り終えたから、あとは背景や小道具などのちょっとした演出に使う大事な道具の製作中。
それと並行して、私たちは台詞の確認。気合いの入るイレーネ様のためにも頑張らないと。
「さあさあ! 私の魔法でお城までひとっ飛びだよ」
「わぁ……! ありがとうございます魔女様!」
お姉様とイリヤの練習を見ながら、黙々とサクレツダケを袋に詰めていく。
にしても、上手いな。やっぱりイリヤには演劇の才能があるよね。
と、思っていたらセレイナが作業の手を止めて笑いを噛み殺していたんだけど、どうしたんだろう?
視線の先を追ってみると……。
「おーっほっほっほっほ! 貧乏貴族が身の程を知りなさい! ……違うわね。この金なしの下層民風情が! これもいまいち……」
上手い台詞回しを考えているのか、イレーネ様がさっきからずっと叫んでいる。
ただねぇ、あの言葉遣いは絶対に私かイレーネ様が担当してる役だと思うのよ。貧乏貴族とかいう口汚い罵倒はまさに悪役令嬢……もう少しこう、手心を加えてほしい気もするけど。
最後の一つを詰め終え、サクレツダケの小道具はすべて完成っと。私も劇の練習をしておいたほうがいいわよね。
いや、受け身の練習でもしておこうかな?
「姫様の想い人になんたる無礼! 我が剣は貴様等の悪を決して見逃さないぞ!」
「み、見逃さないぞ~!」
ちょっと可愛さが残る騎士見習い役のキルアちゃんと、勇ましい勇敢な女騎士隊長役のエルサの練習。二人は、イリヤに嫌がらせをする私とイレーネ様を取り押さえるシーンを練習してるんだと思う。
ただね、動きがもうガチなのよ。お芝居の軽い動きとかじゃなくて、実際に犯罪者を制圧するときにグラハムさんやうちの騎士団が使ってた極め技で人形の首を固めてる。
あれ喰らうと下手したら意識持っていかれそうだから、上手いこといなすやり方の方を先に練習するべきかもしれない。
エルサの動きに合わせて体を動かしてみる。
マズい……助かるビジョンが見えない……!
「命懸けの演劇とかどうなのよ」
「? リリ、どうかしました?」
「全然。ちょっとした考え事だよ」
「そうですか。あ、実は少し話したいことがあるけど大丈夫ですか?」
イリヤのためなら無理でも話を聞くのがこの私! 時間なんて気にせずすっと話しかけるの大歓迎!
さぁ! イリヤ専用都合の良い女に何の用かな!?
「リリのその顔はなんだか変なことを考えている顔ですが、いいです。それでですね、その……」
頬を赤らめ、指を組んでもじもじしている。
ちょっとその表情エロい。こんなこと考えているのバレたら叩かれそうだけど。
「リリ。劇が始まるまで、一緒に学園祭を回りませんか?」
意を決して言ったであろうお誘い。
でも、私は思わずぽかんと口を開けて固まってしまった。まさかそんな話だとは思いもしなかった。
いや、ほんとごめん。私、てっきり勝手に私とイリヤは二人で巡るものだとばかり思ってた。それがまさかお誘いありで約束するものだったとは。
「いいよ。私たちはずっと一緒だものね」
「リリ……!」
「いいわね~。私もいけたらいいんだけど」
「それはダメ。エーちゃんは私と一緒に舞台のセッティングがあるからね!」
お姉様も会話に入ってくるが、すぐにイレーネ様が連れて行った。
お姉様は忙しいのか。となると、二人だけのデートという事になりそう!
「楽しみにしてるね。私たちのデート!」
「デッ……!?」
「何を赤くなってるのよ。今の誘い方はどう考えてもそういう誘い方でしょうが」
「私、人通りの少ない秘密の場所を知ってるわよ。軽く買物をしたらそこでご休憩でもしてから劇に出る?」
「からかわないでください!!」
からかってくるセレイナとエルサに、顔を真っ赤にしたイリヤが叫ぶ。
こういうところが可愛い子なのよ。私の彼女だぞ羨ましいだろ~。
劇の準備も進んでるし、当日の約束も取り付けた! あとは学園祭の始まりを待つのみ!
忘れられない思い出をたくさんつくるぞ! えいえいお~!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます