第46話 <打ち合わせをしよう!>

 森での一件をギルドに丸投げして、私たちは学校に戻ってきた。

 ちょうど、御姉様たちが小道具作りを急いで進めているから、早くサクレツダケを届けてあげないとね。

 妙な刺激を与えないように注意しながら、生徒会室の扉を開ける。すると、開けた瞬間に私の顔を掠るように雷閃が通り過ぎていった。


「リリ!?」

「え、何今の……」


 まさか、暗殺?

 さすがに怖くなり、恐る恐る部屋を覗くと……


「落ち着こう! 話せば分かる!」

「私はとても落ち着いてるわよ。ええ。落ち着いてるわ」

「落ち着いてる人はプラズマランスなんて撃ってこないんだよ!?」


 さっきのあれ、プラズマランスだったんだ。

 掠って生きてるって事は致死量の電力ではないんだろうけど、それにしても危ないなぁ。貫通力は落としてると思うけど……落としてるよね?

 相も変わらずお姉様とイレーネ様が喧嘩している。今度は一体何があったんだろうか?

 すると、ため息をつきながら呆れ顔のセレイナが劇の台本を持ってきてくれた。


「これが原因だよ。エスナ様がこれ読んでめちゃくちゃキレちゃって」

「へ? どんなの?」


 渡された台本を読んでみる。

 えーと。主人公への嫌がらせが判明した姉は、お姫様の手により奴隷になって惨めな暮らしを送ることに……か。


「百歩譲って劇だからとこの台本はいいわよ? でも、ここでリリに何着せようとしてくれてるのかしら?」

「えっと……ボロ布?」

「……死にたいわけ?」


 笑顔を浮かべ、手にテニスボールサイズの火球を出現させるお姉様、恐ろしい……!


「こんな所でインフェルノバレットなんて使ったら死んじゃうって!」

「それだけじゃないわよね。こんなリリのあられもない格好を使ったグッズも売ろうとしてない?」

「ッ! ナンノコトデショウ?」

「“インフェルノ……」

「すみませんすみません! リリちゃんが人気なので計画してました!」


 綺麗なジャンピング土下座を決めるイレーネ様。

 なんだろう。皇族のイメージがどんどん崩れていく気がする……。

 火球を消し、イレーネ様の頭にビンタをかましたお姉様。

 すぐに台本を取り上げて、赤インクで衣装の項目を書き直していた。


「せめて普通の人が着る服にして。いいわね?」

「ハイ……」

「リリも、これでいい?」

「もちろん。農作業用のぼろい服があるから、それ取ってこようか? 転移魔法を連続で使えばすぐだし」

「なんでそんなの持ってるのよ……」


 なんかセレイナに苦笑いされたけど、いいじゃん!

 農作業を手伝うのにドレスでやる人いないでしょ。一回やってお母様にしこたま怒られたもん。

 さて、こちらの問題は片付いた。ここからは小道具を作って練習もしていかないとね。


「あ、そうだ。小道具はリリちゃんたちに任せてもいいかな? 私たちはグッズの製作をやりたいから」

「そういえば、グッズなんて売るんですね」

「グッズの売り上げで、皆でどこかに旅行に出かける資金を作っておきたくてね。バカンスに行こうよ!」


 どこまでも自由なイレーネ様だ。


「というわけで、グッズは私とエーちゃんで作るよ」

「どうして私も?」

「知らないの? 結構お騒がせなリリちゃんだけど、美人だから結構人気高いんだよ?」

「……分かる」


 分かるんかい!

 え、私ってもしかして大人しくて黙っていれば美人っていう残念ちゃん? そんな予感はしてたけど。


「だからさ、主人公のイリヤちゃん、人気者のリリちゃん。あと、イリヤ×セレイナのカップリンググッズとリリ×イリヤのカップリンググッズを作ろうよ!」

「確かに売れそう。手伝うわ」


 まじですか。

 お姉様が乗り気だった。すごいものを作るぞって顔で語っているもの。

 これは、私たちも頑張らないと。私たちのカップリンググッズを売るためにも、絶対に劇を成功させるんだ!


◆◆◆◆◆


 帝都の裏路地。

 うす汚ぇドブネズミがうろちょろしてやがる小汚い場所を、わざわざ待ち合わせ場所に指定して来やがって。クソッタレが。

 取引を持ちかけたのは俺だが、力は俺の方が強いんだ。マジで殺してやるぞ。

 などと思いながら呼び出された場所に着くと、既に奴は来ていた。


「遅いですねぇ。時間はお金に等しいのですよ」

「時は金なりってか。悪かったよ」


 ぼろいローブに身を包んだジジィ。

 魔王軍の幹部で、割と地位が高い魔族だって聞いてる。


「にしても、我ら魔族の歴史で初めての出来事ですよ。まさか、から取引を持ちかけられるとは」


 胡散臭い笑みが癪に障る。うぜぇ。

 が、我慢だ俺。ここで我慢しておけば甘い汁が吸えるからな。


「お前が魔法戦闘に特化してるって話、本当だろうな?」

「もちろん。魔王軍どころかこの世界で一番魔法での戦闘は強いですとも」

「なら安心だ。交渉といこう」


 脳裏に憎いあの女の顔が浮かぶ。

 憎い。だが、いい顔をしていた。汚してやりたい顔だった。


「リリ=ペルスティアって女がいる。あいつ、多分だが勇者だろうな」

「ほう?」

「あいつの魔法戦闘能力は悔しいが高い。俺じゃ勝てない。だから、あんたにあいつを無力化してほしいんだ」

「無力化、ですか。いいですが、我々にどんなメリットを用意してもらえるので?」

「誘拐ってことにすれば莫大な身代金をパクれる。その金をそっくりそのまま魔王軍に流してやるよ。俺はあいつが手に入ってラッキー、あんたたちは金が手に入り、さらに勇者が一人減ってラッキーってわけだ。どうだ?」

「正直、お金云々に関しては興味がありません。ですが、話を聞く限りそのリリとかいう女は術に関する勇者でしょうな。それが削れるのは大いに助かります。いいでしょう!」


 交渉成立ってことで、握手を交わす。

 リリ=ペルスティア。てめぇには絶対に地獄を見せてやる。

 てめぇの前であのメイドの女を犯し、心をへし折ってから孕むまでやってやるからな……! その後に殺してやる!

 この世界に選ばれたのは俺なんだ。この世界は俺のものなんだ!

 女も金も、全部俺のものなのに、生意気にも邪魔しやがって。

 てめぇも、他の勇者も、魔王も殺し、俺がこの世界の神になる。

 だから、覚悟しておけよリリ=ペルスティア……ッ!

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