第45話 <劇の小道具を集めよう!>

「いやー、昨日のイリヤは可愛かったね~。私は大変だったけど」

「……忘れてください」


 頬を真っ赤に染めて俯くイリヤはとても可愛いなぁ。

 昨日、アルコール入りのチョコレートでべっろべろに酔っ払ったイリヤのあの姿は思い返すと萌えが止まらん!

 まっ、夜はお姉様も一緒になって襲ってきたから私は疲れちゃったけど。リリスが微笑ましい目で見守っていたのが複雑な気分。

 ほんと、リコレットさんたちには申し訳ないな。今朝からシーツを丸洗いしてもらっちゃうことになったし。


「んんっ。ところで、そのサクレツダケの群生地までは遠いんですか?」

「え? あー、多分少し歩くと思う」


 私とイリヤは今、二人で帝都近くの森を歩いている。

 文化祭で使う小道具で、サクレツダケってのが必要になったからその調達にね。

 サクレツダケは、文字通り炸裂するキノコなの。

 軽く衝撃を与えると、黄色の胞子を噴出するのね。で、その胞子が激しい炸裂音と閃光を放つからサクレツダケと呼ばれている。

 こけおどしの無害な胞子だから、こうして劇に使うことができるという訳なのよ。

 でもこれ、特別な条件を満たした場所でしか採れないんだよね。

 一応、帝都でも売ってたけど値段がまぁまぁしっかりするの。だったら、帝都近くの森でも採れるんだからそっちで採ってこようって話になって私とイリヤが来た。


「それに、ギルドからクエストもついでに受けたしね。お小遣い稼ぎも一緒にやっちゃおう!」

「銀等級以上専用のクエストがお小遣い稼ぎ……?」


 イリヤが何か言ってるけど、気にしなーい。

 いやね? 最近この森で行方不明になる冒険者が増えてるってのは気になるよ?

 でも、この前ビルジャイアントを倒したばかりなのに、そんなすぐに強い魔物とか出るのかな? 言っちゃ悪いけど、絶対にデマだと思ってる。

 帰ってこないのは九割が女性冒険者って、もっとマシな嘘はなかったのかな? インターネットでももう少し現実味のあるフェイクニュースが流れるよ。

 っと。


「着いたよ。サクレツダケの群生地」

「ここがそうなんですね」

「うん。陽がよく当たって綺麗な川が流れ、近くに電気魔法を使う魔物や魔獣が生息している大木の根元」


 たどり着いた場所には、たくさんのサクレツダケが生えていた。

 そこら中でバリバリいってるよ。下手すると鼓膜とかやられるかも。

 慎重に慎重に……。


「ッ!? リリ!」

「わぁ!」


 いきなりイリヤが大声を出すから驚いてサクレツダケ踏んじゃった!

 胞子がまかれ、大きな音と衝撃が足に襲いかかってくる。


「ひゃあああ!!」

「え、わぁ!」

「ぬおおぉぉぉぉ!?」


 尻餅をついちゃって、周囲のサクレツダケも一斉に炸裂する。

 もうパニック! ひたすらパニック!

 うるさいし眩しいしでもう散々だよ……。


「うへぇ……収まった……」

「ビビったぁ……サクレツダケのこと完全に忘れてたぜ」

「ん? そういえば、誰?」


 なんか、しれっと一人増えてるんだけど。

 短めの角と尻尾を生やして、コウモリの翼が背中に着いている若い男性。

 ギラギラ輝くネックレスが見ていてなんか鬱陶しい。どことなくキザな雰囲気も出てる。

 イリヤは男性にマジックランスの切っ先を向けてるし。


「リリ。こいつ、敵です!」

「敵?」

「敵とは心外だな仔猫ちゅわぁん。可愛い二人は俺といいことしようぜぇ」


 ……ごめん、吐き気がしてきた。

 何こいつ? 顔面思いっきり殴りたい。


「若い女の子たちはもう俺の虜だぜ。みーんなこの先の洞窟で俺の彼女として暮らしているさ」

「っ! まさか、お前が……」

「へっ、メイドの嬢ちゃんは賢いな。ご褒美にこのインキュバスである俺が気持ちいい快楽に誘ってやるぜぇ」


 インキュバス?

 それってあれだよね。サキュバスと対になる女の人を襲う男の悪魔。

 で、そいつが私とイリヤにちょっかい出している。つまり、百合に挟まろうとしている。

 へぇ~。そういうことするんだぁ。じゃあ、ああするしかないよね。


「さぁ! 俺の子供となる悪魔を産むのだ! そして、俺と一緒に魔王軍で……」

「“トール・ハンマー・バースト”」


 何か言いかけてたけど、問答無用で雷撃系の最上位魔法を撃ち込んでやる。

 本来は広範囲を無数の落雷で灰燼に帰す魔法だけど、私独自の改変で一点集中にしてある。

 そんなものが直撃するとどうなるか。

 当然、インキュバスは跡形も残さずに消滅していた。自業自得だけどね。

 百合に挟まる男には二種類のタイプが存在するのね。

 ボコボコにされるタイプと、殺すしかないタイプ。

 こいつは間違いなく後者だから、サクッとやっちゃいました。


「どうせ魔物だし、ざまぁみろだよ」

「あの、こいつ今魔王軍とかなんとか……」

「さぁ? さて、さっさとサクレツダケ持って帰ろう。あと、この先の洞窟も確認してみないとね」


 そう言って周囲を見渡し、酷く後悔した。


「……やっちゃった」

「ですよね」


 困り顔のイリヤと私。

 さっきの雷撃の衝撃で、使い物にならないサクレツダケがたくさんできちゃってた。

 辛うじて劇に使う最低量は確保できるけど、これ、絶対に帝都のサクレツダケが値上がりしちゃうだろうな……。


「わ、私は悪くない!」

「この際インキュバスの仕業にしちゃいますか」


 ナイス提案だよイリヤ!

 こいつが全部悪いことにしよう。

 こいつのせいで私が魔法を撃ったし、そもそもこいつが来なければこんなことにならなかった。

 ぜーんぶこのインキュバスが悪い! そうだよね?

 そういうことにする!

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