第39話 <スイーツデート!>

「リリ。お祭りに行きませんか……?」


 ビルジャイアント討伐から数日後の休みの日。学校も休みで暇だからベッドで転がりながらリリスのほっぺを伸ばして遊んでいた時にイリヤがちょっと興奮気味に言ってきた。

 いきなりどうしたんだろう? というか、今お祭りとかやってたんだ。


「何のお祭り?」

「スイーツフェスをしているそうです。西区のイベント商業区ですよ」


 スイーツとな!

 わざわざ西区のイベント商業区を使うとは、これは期待できるかも。あそこで開かれる市場は国内で人気のものばかり並ぶからね。

 それを聞いて行かない選択肢はない! イリヤとデートといきましょうか。


「いいね! 行こうよ!」

「ありがとうございます。準備してきますね!」


 すごくウキウキな様子でイリヤが駆けていった。

 私も軽く準備を整え、リリスも行きたそうにじゃれついていたから用意してあげる。その間にイリヤも着替えてきた。

 ちょっと前に私が見つけて買った服。似合うと思って選んであげたら、それ以来気に入ってくれたのか高頻度で着てくれているのよね。

 でも、イリヤの服装を見て一部の貴族関係者は心ないこと言ってるって聞いたことあるんだけど。メイドが仕えている相手と対等な立場と服装で外出するのはおかしいって。

 当然、出かけた先でそんなこと聞いちゃったら軽く空気の玉を魔法でぶつけて脳震盪の刑にしてやるけど。意識を刈り取るだけだし、なんなら魔法の性質を知っているのが私を除くとエルサとセレイナの二人だけで、その二人が許してくれているからお咎めはなし。

 イリヤは確かに騎士の家系だけど、私と一緒に育ったから貴族も同じだもん。現に、お母さんもお父さんもイリヤを自分の子供みたいに思っているし。

 ……最近は、私よりも可愛がられている気がするのが悔しいんだけど。

 っと。こんなどうでもいい話は置いといて。

 早速出発するとしましょう。


「では、行きましょう……!」

「今日のイリヤは押しが強いね。何かお目当てのものでも?」

「はい! 商業都市ホスティンからわざわざパティシエが来ているそうです。その方が作るケーキは格別だと評判なんですよ!」


 イリヤの熱弁を聞いていたら、なんか私もお腹がすいてきた。

 それは一度試してみなくてはもったいない! 今すぐ行かないと。


「いいね! 西区だったよね?」

「はい。早く行かないとなくなってしまいます!」

「落ち着いてねイリヤ。ほら、手を握って。リリスも」


 二人と手を繋ぎ、遠視の魔法を使って西区の様子を見る。

 おーおー人がいっぱい。さすがスイーツフェスといったところかな?

 ケーキ以外にも美味しそうなものが多いし、期待だね。甘い想像に涎を我慢しつつ、目的の場所を探すと……中々見つからないなぁ。

 ちょっと離れるけど、西の自然公園にするか。ここから歩くよりはよっぽど近いし。


「じゃあ、転移するよー。“テレポーテーション”」


 次の瞬間には、私たちは公園の池の側に立っていた。

 あ、しまった。ルフレンさんに何も言わずに出てきちゃった。後で時間見つけてメモだけ屋敷に送っとこ。

 無事に転移事故もなくて安心した。転移地点に人がいるとお互いに強く弾かれて大怪我をしちゃうかもしれないからね。

 人工林の向こうから甘い香りと活気が伝わってくる。


「行こうイリヤ! リリス!」

「はい!」

「みゃあー!」


 私たち三人で走って行く。目指すは各々望む甘味の元!

 実はリリスが一番楽しみにしていたのか、真っ先に飛びだしていってすぐに見えなくなっちゃった。ただ、リリスの魔力を探知できるから実際は見失うことはないんだけど。

 イベント区に入ると、でかでかとチラシが貼られていた。中央に描かれているこの人がイリヤの言うパティシエさんかな? めっちゃ美人で巨乳のお姉さんじゃん。

 なになに? あっ、まだ大丈夫そう。


「イリヤ。このケーキ販売まで時間あるよ」

「そうなんですか? じゃあ、他にどんなものがあるか見て回りません?」

「もちろんだよ。お姉様やルフレンさんたち屋敷で働いてくれている人たちにお土産も買わないとだしね」


 それと、リリスを拾わないと。

 魔力を探りながら歩いていくと、とある店にたどり着いた。リリス見っけ。

 呼び子のお姉さんたちがリリスを愛でていた。なんかちゃっかり小魚までもらっているし。

 私たちの靴音に気付いたのか、リリスがバッと顔を上げて私に飛びついてきた。腕の中に収まると、頬をすり寄せながら店の商品を指している。これはおねだりの構え!

 リリスが何をほしがっているのか見ると、お魚クッキーだった。もちろん買ってあげます。


「これがいいのね。すみませんこのクッキー五つくらいください」

「え? でも、猫にはクッキーを与えない方がいいかも……」

「大丈夫ですよ。この子、こう見えて猫じゃないんです。安全な魔物? 聖獣? とにかくそうなんですよ」


 魔物という言葉に一瞬お姉さんたちが顔を強張らせたが、リリスのつぶらな瞳を見てすぐに緊張を解いてくれた。こんな可愛くて無害な毛玉なら安心よね。

 クッキーを買ってリリスにあげる。あ、二つは私とイリヤで分けるね。

 一口食べてみて驚いた。小魚が少し入ったクッキーなんだ。甘くないから意外といける。

 カタクチイワシとアーモンドのお菓子を思い出す味付け。あれ好きだったから似たような味に出会えて感激した。

 これは他の店も期待できそう! 太らない程度に楽しむぞ!

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