第38話 <疲れを癒やそう!>
ビルジャイアント討伐後、帝都に戻ってきた私たちはギルドに討伐の証としてビルジャイアントの一部を提出した。
で、その足でお疲れ様ということで公衆浴場に向かう。流した汗を洗い流してさっぱりしたいからね。
それに、エルサやキルアちゃんとも裸のお付き合いができて天国のような光景が待っていると考えると……ふっふーんっ!
楽しみに胸を躍らせながら公衆浴場へと入っていく。
若い女性が恥じらいもなく肌を晒すとは、ここが天国か……! 女の子に生まれて良かった~!
と、考えていたら後頭部を叩かれた。
「リリ様、変なこと考えていませんか? おかしな笑顔を浮かべていましたよ」
「やだなぁ。そんな変なこと考えてないって」
「貴族でも衛兵に捕まるなんてよくある話ですからね。絶対にやめてください」
「分かってるよ!」
妄想くらいは許して欲しかった。こんな理想郷を前に平然としているなんて私にとっては相当な苦痛。
ただ、相当辛そうな顔を浮かべていたのかな? 唐突にイリヤが照れたような仕草で腕の肉を掴んでくる。
「それに、リリ様が私以外の方にそこまで目を奪われていると複雑です」
「……ん?」
「夜は私が相手するので、その、あまり……」
「……なぁ~にぃ~? もしかして嫉妬~?」
可愛いイリヤの姿を見ちゃって思わずからかうような口調になっちゃう。
頬をウリウリと突っついていると、イリヤが拳を固めるのが見えた。やりすぎちゃったかも。
あ、あのー、イリヤさん? 黒い笑顔で無言で近付くの怖いのでやめてもらえると助かるんですが……
「リリ様。調子に乗りすぎです!」
「あたっ!」
イリヤの鉄拳が私のお腹を打った~。
クスリと笑ったイリヤがリリスを連れてさっさと脱衣所を出てお風呂に行ってしまう。私がお腹を押さえて痛がっている振りをしているのに薄情者めぇ。
「今のはリリが悪いわね」
「えと、仲が良さそうで私は羨ましいです!」
「あら? わたくしたちも仲良しだと思っていたのだけど? これは今晩キルアと一晩中イイコトしないとダメかしら?」
「ひゃうっ! 優しくしてくだひゃい……」
お姉様に苦笑され、私の前でキルアちゃんとエルサがいちゃつき始めた。
一人寂しく浴室に入ってお湯を浴びる。体は濡れても心を潤してくれる相手がいなくて悲しいな。
そんなことを思いながらチラチラと視線をイリヤに向けてみるけど、イリヤはリリスの体を洗いながら良い笑顔をしていた。そういえば、本当に今さらすぎるけどリリスって女の子なのか男の子なのかどっちなんだろう? リリス以外にホーキャッツを見たことがないから判別ができない。
行動を見ているとどうも男の子っぽいけど、私と同類ならまだ分からないし
……。
って、そんなことどうでもいいか。リリスはリリスだものね。
さっさと体を洗ってお湯に体を沈める。
顔の下半分を沈めてぶくぶくさせながら皆を見る。
お姉様は……サウナ部屋に入っていった。キルアちゃんとエルサはなんか二人だけの世界に入り込んじゃってるし……キルアちゃんの顔がすごくエッチなことになってる。
ぷぅと頬を膨らませたら、ぱちゃぱちゃと水を切る音が聞こえてくる。
リリスがお湯を張った桶をこいで私の近くまでやって来てくれた。勢いよく私の胸へと飛び込んでくる。
しっとり濡れた毛がこそばゆい。お湯から上がったリリスは、縁へと移動すると私の肩に頭を乗せて丸くなってしまった。もうこの表情がたまらなく可愛いっ。
にへにへとリリスの頭を撫でていると、反対側の肩に体重を感じる。
「リリ。さっきはその、やりすぎました。申し訳ありません」
「あぁー……いいよ。あれは私が調子に乗りすぎちゃったからね」
十人に聞いたら十人が非は私にあると言うだろう。そのことでイリヤに謝罪させちゃったのがなんか心苦しい。
足を伸ばしてくつろぐ。思わずおっさんみたいな声が口から漏れ出してしまうほどには気持ちいい。あれ、私って日本でちゃんと女子高生やってたよね? 今の精神実年齢はちょっと年取ったお姉さんだよね?
自分のことを不安に思っていると、イリヤがさらに体を密着させてくる。
「でも、本当に不安です」
「え、何が?」
「リリが他の人を見ていると、私だけを見てほしいって思うときがあるんです。嫉妬してるんですよ」
「心配性だなぁイリヤは。大丈夫だよ」
察しの良いリリスはすっと私の肩から離れるとお湯に飛び込んで気持ちよさそうに泳ぎ始めた。この良い子ちゃんは帰ったら好物のおやつでもあげちゃいましょうか。
さて、不安そうなイリヤの顔を寄せてそっと唇に私の唇を押し当てる。
自分でこう言うと悲しいけど、今の私の行動を見てセクハラとかそんなこと考えた人、正直に名乗り出なさい。今なら中級の火炎魔法を撃ち込むだけで許してあげるから。
これは必要なことだから。セクハラならイリヤは嫌がるけど、今は目をうっとりさせて身を委ねてくれているからセーフ。誰がなんと言おうとセーフ!
「私がお調子者でいろんな女の子と話すのはいつものことだよ? それが不安にさせてしまっているのも分かった。でも、この先何があっても私は絶対にイリヤ一筋だから。死ぬまで……ううん。死んでも一緒にいようね」
「リリ……っ! はいっ!」
お湯の中で手をしっかり握り合う。指を絡ませて離さない。
「あらあら。可愛いバカップルが浸かっているせいでお湯がとても熱いですわ」
「エルサ様!?」
「キルアもこっちに来なさい。わたくしたちも温度を上げちゃいましょうか」
エルサにからかわれるようにそう言われ、私とイリヤの顔が朱に染まってしまう。
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