第37話 <巨人狩り!>

 木々をなぎ倒して出てきた巨人。

 ただ、おかしいわね。ビルジャイアントにしては装備が豪華すぎる。

 ビルジャイアントは大木を引っこ抜いてその先端に岩をくっつけた見るからに自然の武器を使っているはず。でも、それがこいつはどうだろうか。

 戦槌みたいなものを構えているし、巨大な盾もあって防御もできている。ビルジャイアントに盾を使うなんて知性はないはずなんだけどね。

 それに、あの武具の素材は恐らく魔法金属だ。私のマジックソードでも斬れるかは怪しい。多分イリヤの槍でも貫くのは厳しいだろうしね。

 それにご丁寧に鎧まで着ているよ。本当にこいつなんなの?


「完全武装のビルジャイアントとかふざけるんじゃないわよ!」

「どうしますかリリ?」

「あ、あんなのに勝てるんですか!?」


 キルアちゃんの不安も分かる。さすがにまともにやり合ったら相当危険だろう。

 でも、問題ないわね。私とエルサで顔を見合わせて悪戯っぽく笑う。


「ねぇエルサ。私の魔法に耐えられる結界って張れる?」

「もちろんですよ。展開するまでの時間稼ぎをお願いしますね」


 結界を張るためにエルサが詠唱を始めた。

 さて、その間に私は近接戦で注意を惹くとしましょうか。イリヤとお姉様と連携すれば怪我もなく立ち回れるはずだし。

 顔を向けると、私が言いたいことはすぐに伝わったみたい。こくりと頷いてすぐに行動に移してくれる。

 リリスにキルアちゃんを守るように頼み、一気に駆け出す。

 ビルジャイアントは戦槌を振り回して攻撃してくるけど、そんなもの当たらない。攻撃は鈍重で回避は容易だった。武器だけ立派で動きは雑魚ね。

 まっ、これだけの武具があれば雑魚でも危険なことに変わりはないけど。

 よく見ると、こいつ剣とか人の頭蓋骨とかぶら下げた首飾りを着けているじゃないの。悪趣味で私はそういうの嫌いかな。

 振り下ろされた戦槌を易々と下をくぐり抜ける。私が通り過ぎた場所を戦槌が叩き潰し、轟音と暴風が周囲に拡散された。


「遅い遅い! それじゃ私は止まらない!」

「リリがなんだか悪い人みたいに……」

「あの子の可愛いところじゃない」


 お姉様が笑いながらビルジャイアントの足に攻撃を刻んだ。

 鎧の隙間を狙った一撃に、ビルジャイアントがバランスを崩す。そこにイリヤが追撃を仕掛けた。

 お姉様が斬りつけた部位を全力で貫く。生身に魔力の刃は切れ味抜群で、穂先が根元まで突き刺さって肉を焼いていく。

 激痛で暴れ出したビルジャイアントから退避したイリヤが私と交代。さて、それじゃあ私は膝の裏側でも斬ってやろうかしら。

 そこも鎧で覆えない場所。全身を固めても倒し方はいくらでもあるんだからね!

 連続する攻撃を掻い潜って膝裏に斬撃を決めた。と、ここでエルサが纏う魔力が膨れ上がる。


「我が前に立ちはだかる悪意より、背中で震える弱き者たちを守りたまえ。我らが女神は人を救うために闇を断絶する……」

「ガチの詠唱じゃん。私もそろそろ」


 マジックソードを仕舞って魔力を全て攻撃に回す。

 エルサが静かに目を開いた。両手を突き出して練り上げた力を一気に解放する。


「堅牢なる障壁をここに! “エリア・サンクチュアリ”!」

「くらえ! “アークフレイム・ノヴァ”」


 エルサの結界がビルジャイアントを閉じ込める前に私が極大の火炎を結界の中へと撃ち込む。

 こうしないと森が丸々焼けちゃうからね。そんなことしたら一気に犯罪者だよ。

 結界の中で炸裂した私の魔法は、急速に燃え広がってビルジャイアントを焼いている。

 あの鎧だと中に熱が籠もるからすぐに焼け死ぬだろうし、生き残っても急激に酸素が失われてこれでも死ぬ。逃げようにもエルサの結界をあいつは破れないだろうから確実に仕留めた。

 結界が叩かれる音がしていたけど、しばらくすると地響きを最後に音が聞こえなくなった。

 エルサが結界を解除してみると、丸焦げになったビルジャイアントの死体が確認できた。やっぱりチョロかったわね。


「本当に倒しちゃった……」

「だから言ったでしょ? リリさんなら余裕なのよ」

「エルサの支援のおかげだけどね」

「あら? リリさんなら他にいくらでもやりようはあったでしょう?」


 どこまでも見透かされているような感じ。やっぱりエルサには敵わないや。

 とりあえず、ビルジャイアントの首を切って討伐の証に持って帰ろう。


 ……に、しても……


「こいつ、明らかに普通の個体とは違った……。どういう……」


 疑問を独り言で呟いて、もう一度死体を確認する。

 うーん、でも、分からないことは考えても仕方ないか。今は初クエスト達成を素直に喜ぶとしましょう!

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