第32話 <生徒会にお邪魔します!>

 入学式の次の日、私とイリヤは二人で学校を歩いていた。

 初日の授業、というよりは簡単な学校案内が終わって一年生は帰っていくところ。ただ、せっかくだし私とイリヤはお姉様と一緒に帰ろうと生徒会室に向かっている。

 生徒会室と書かれた札のある扉。ここね。入ってもいいのかな?

 確か、生徒会室には相談事がある人も入っているって先生たちも言っていたし、いいか。失礼しましょう。

 扉をノックして開ける。


「失礼しま……」

「いい加減にしてくださいよ会長!」


 扉を開けると、すぐにお姉様の大声が聞こえた。

 一度扉を閉め、イリヤと顔を見合わせてもう一度確認する。

 部屋では、お姉様が筆ペンを走らせて書類の山と格闘していた。そして、入学式で会長として挨拶してくれた先輩が、だらしなくソファに寝転んでクッキーを囓っていた。あ、食べかすが落ちていて服が汚れてる。

 入学式の時とはかなり違う印象。ちょっと面白い。

 羽ペンをインクに差したお姉様が立ち上がった。指に雷の魔力が集まっていくのがよく分かる。


「ぶっ! ストップストップ! エーちゃんやめて!?」

「やめてほしかったら会長もサインしてください! 部活動の費用の書類、全部私が捌いて……」


 と、ここでようやくお姉様が私たちに気がついた。

 さっと魔力を隠して大人しくなる。気のせいか、会長さんが目を光らせたようにも見えたんだけど……。


「リリ、来ていたの」

「うん。お姉様と一緒に帰ろうかと思って」

「そう。ごめんね。私はもう少し時間がかかるかも」

「いやー、それじゃあ仕方ないなぁ。リリちゃんだっけ? それと、メイドのそっちの子も一緒に座りな~」


 会長さんが自分の隣の席をポンポンと叩く。

 お姉様が小さく舌打ちをしたのを聞いちゃったけど、聞こえなかったふりをして会長さんの隣に座った。イリヤは私の後ろに立つ。


「貴女がリリちゃんか~。エーちゃんから話はよく聞いてるよ~。惚気と自慢がほとんどなんだけど」

「あの、エーちゃんって?」

「あっ、エスナだからエーちゃんって呼んでる。そうそう。私の名前はイレーネ=ルトヴィック=アドミオンだよ~。生徒会長やってるの、よろしく~」


 ん? ルトヴィック……それにアドミオンって!?


「もしかして皇族の方!?」

「そうだよ~。でも、皇位継承権なんてずっと昔に丸めて投げ捨てたから気軽に接してね~」

「そうよリリ。イレーネは一言で言ってろくでなしだから丁寧に接する必要はないわ」


 お姉様!?

 皇位継承権がないとはいえ、皇族の方にすごい事を言うお姉様に驚いてしまう。

 ……えと、混乱する人もいるかもしれないから、一応アドミオン帝国の制度を説明しておくね。

 アドミオン帝国は、皇位継承権が強い順に第一皇女、第二皇太子……みたいな感じで呼ばれるの。そこは地球の呼ばれ方とは違うから注意ね。

 で、今の継承権一位はセレイナだから、セレイナが第一皇女。繰り上がったって聞いたけど、イレーネ様が継承権を棄てたからなのか。

 ただ、こう言うと悪いけど、横になってクッキーを囓るイレーネ様はどう見ても会長ではないし皇族とは思えない……。入学式の時に見たイレーネ様はなんだったのだろう……。


「あ、気にしないでねリリちゃん。私、お城でもこんなだから」

「え? そうなんですか!?」

「うん。離宮で自堕落な引きこもり生活を満喫してるよ~。ちなみに、将来の夢は誰かに養ってもらえる無職! ニート!」


 最低だこの人!

 さっきからお姉様がずっと拳を握り固めている。これ、きっと怒っているのよね。

 多分、お仕事ほとんど任せられているんじゃないかな?

 お姉様が大きなため息を吐いた。


「さすがは皇帝陛下。こんな問題児でも上手く扱っているんだから」

「あ~、エーちゃんが私の悪口言ってる~」

「才能の持ち腐れって言うの! もったいない!」


 お姉様の言葉が気になった。

 やっぱり、イレーネ様には何かすごい才能があるんだろう。


「イレーネ様は何かすごいことをされたのですか?」

「あ~、たいしたことやってないよ~」

「リリ。フェルディアには昔、スラム地区があったことを知ってる? イレーネはね、公共事業を増やしてスラム地区の人たちに安定した職業を与えることを陛下に提言して、その他にも誰もが納得して平和的に解決する方法でスラム地区をなくしてしまったの……」

「え!? すごい!」


 なんか、金融ショックの時の某国の大統領みたいなことやってるよ。この方すごい人だった!


「いや~。仕事が増えて働く人が増えると私一人が働かなくたって誰も気にしないじゃーん?」

「とかなんとかおかしなことを口走っているけどね」


 イレーネ様がすごい人だということがよく分かった。

 なら、やっぱり才能の持ち腐れじゃん! イレーネ様は多分、アドミオン帝国の未来に必要不可欠の御方だよ!?

 ふわぁぁとあくびをしたイレーネ様が首を捻る。そして、ニッと妙な笑みを浮かべた。


「ねぇリリちゃん。部活、何をやりたいとか決まってる?」

「いえ、まだですけど……」

「ならさ、何かの部活と生徒会を兼ねてみない? リリちゃんと、えと……」

「名乗り遅れて失礼しました。イリヤ=コレットと申します」

「そうなんだ。よろしく。リリちゃんとイリヤちゃんなら歓迎するよ~」

「……目的は?」

「二人がいる間はエーちゃんが大人しいから攻撃されな……って、エーちゃん!? 何を言わせるのさ!」

「……リリ。少し、外で待ってて」


 お姉様から冷たい怒気を感じたから、イリヤを連れて部屋を出る。

 イレーネ様の助けを求める声が聞こえ、直後に雷鳴が聞こえてきた。お姉様、容赦ないなぁ……。

 でも、生徒会ってのも面白いかもしれない。

 イリヤに聞くと、私の好きなようにとのことだから二人で入らせてもらうことにしましょうか。

 もう一度部屋に入り、軽く焦げたイレーネ様に生徒会に入りたい旨を伝える。

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