第31話 <入学式です!>

 クラス発表から数日が経った。

 今日からいよいよ学校生活が始まる! 期待に胸躍らせながら私とイリヤは教室へ。入学式の前にここで少し待つように言われているからね。

 今日は私が少し寝坊しちゃって、私とイリヤは最後に入る形になった。実は、出席者確認も時間ギリギリで到着したんだよね……。

 でも、気持ちを切り替えて明るくいこーっ!

 って、思っていたんだけどね。


「あ、リリ! あれどうにかできない?」


 教室に入る直前で話しかけてくるセレイナ。

 なんだろうと思ってセレイナが指さす先を見ると、もう見慣れた光景があった。

 椅子に座ってふんぞり返っているユウゴとケインが口論になっている。ほんっとよくやるわあの二人。


「止めてきましょうか?」

「ダメダメ。イリヤが危険な目に遭ったら私泣いちゃうよ?」

「じゃあ、どうするの?」

「無視。触らぬ神になんとやら」


 ケインには悪いかもだけど、あんなのいちいち関わっていたら身が持たない。

 幸い、私たちの席はユウゴから離れた場所でまとまっていた。私とイリヤだけ少し離れているのが残念だけど。

 荷物を置いて式が始まるまでエルサたちと雑談。

 と、五分くらいしたら先生が呼びに来た。

 指示に従って廊下に並ぶ。こういうのもあれだね。日本の学校を思い出すね。

 入学式の会場は広い講堂。中に入ると、他のクラスの人やその保護者が既に待っていた。

 私たちは最前列へ。ここは成績順なんだ。左にエルサ、右にセレイナが座る。

 エルサは新入生代表の挨拶があるものね。大変そう。

 そのまま視線を流す。すると、壇上脇で座っている数人の生徒と目が合った。

 そのうちの一人、副会長と書かれた机の向こうに座るお姉様が私に向けて手を振ってくれる。


「あら。リリさんはもう生徒会の方とお知り合いに? でも、あの方どこかで……」

「エルサ忘れたの? リリのお姉さんでエスナさんだよ」

「あ、そうでしたね」

「そうだった。お姉様は生徒会のメンバーだったよ」


 クラス全員が席に着くと、お姉様は表情を引き締めて前に向き直った。

 その顔が凜々しくて、ドキッとしてしまう。

 生徒会の人が一人壇上に置かれた魔道具の前に立つ。


『ただいまから、入学式を始めます』


 講堂全体に不思議に響く声。マイクみたいな魔道具らしい。

 校長先生の挨拶や、入学者の名前の読み上げなど、私が猛烈な睡魔に襲われる苦行の時間が続く。セレイナなんて涎垂らして寝ちゃってるし。

 長々とした内容が進み、在校生からの祝辞になる。と、ここでお姉様が立ち上がった。

 立ち振る舞い完璧な所作で魔道具の前へ。で、小さく咳払いをして顔を近づけた。


『この後、会長からのお言葉が長いので、私からは短めで。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今年は位の高い貴族や特別な人も入学すると聞いています。ですが、この学校では位や立場などは関係ありません。家を気にせずに同級生と楽しい時間を過ごしてください。また、困ったことがあればすぐに私たち上級生を頼ってください』


 惚れ惚れするような言葉に、後ろの方から小さく黄色い声が聞こえてくる。

 男子だけでなく女子も虜にしちゃったみたい。お姉様はすごいなぁ。

 ただ、気になるのがイリヤの反応だ。なぜか、小さく肩を震わせて笑っているように見える。

 と、お姉様が締めにはいった。


『などと、格好よく前置きしましたが、ここで私事を少々。今年、私の妹が入学しました。少しはちゃめちゃで、何をするか分からないときがありますが、とても良い子です。皆さん、ぜひ仲良くしてあげてください。そして、先生方はそんな妹のご指導よろしくお願いします。では最後に。入学おめでとうリリ。楽しい時間を!』


 綺麗に締めくくられ、大きな拍手が送られた。

 お姉様のスピーチが完璧すぎる。家にいるときからはあんな姿中々想像できないかも。

 その後に続いた会長さんの挨拶は、お姉様への恨み節から始まって無難な内容に終わった。ただ、比較対象がお姉様だからインパクトに欠けるかもだけど、内容はすごく心打たれるものでこちらも大きな拍手が送られた。

 最後はエルサの新入生からの言葉だ。先生が魔道具を運んできて、エルサが原稿を取り出す。

 っと、思ったけどエルサは原稿を魔法で焼いてしまった。


『先輩の皆様からのありがたいお言葉、感銘しました。皆様の期待を裏切らないよう、しっかりと充実した学校生活を送りたいと思っています。そして、副会長のエスナ先輩。リリさんとはすでに仲良くさせていただいています。これからも私たちはずっと仲良く楽しい時間を過ごすので、どうかお見守りを』


 うっわぁ……。

 お姉様の時と同じくらいすごい拍手だけど、意味が分かった私からすると笑えない……。

 それは、お姉様やセレイナ、イリヤも同じだったみたい。お姉様とイリヤは顔を引きつらせて笑っていたし、セレイナは慌てたようにあたふたしてる。

 なんか、すごい波乱の予感がする私たちの学校生活、始まります!

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