第30話 <ゆるゆる女子会!>
帝都にあるエルサのお屋敷。
帝都中心部に近い貴族街の中でも別格の広さがあった。多分、敷地だけでも普通の貴族のお屋敷が二軒くらい建つんじゃない?
とにかく、とんでもなく広いお屋敷に案内されてしまった。
大勢の使用人さんたちに迎えられながら三階にあるエルサの部屋に通される。
これまた広い部屋がそこにはあった。中央で存在感を放つプリンセスベッドは一度に四人くらいが眠れそうだし、化粧台や部屋と直接繋がる衣装部屋もすごい。
ベランダはちょっとした庭みたいになっていて、空中庭園と呼んでもおかしくない。
「さすがは大公家……」
「あら? これでも小さいわよ? 本邸はもっと大きいのですから」
「おかげでいい迷惑しているけどね。屋敷が大きいから城の一部が常に日陰なのよ。観葉植物がない廊下とか殺風景で仕方ないんだから」
「ちゃんと陛下には許可をいただいて建築していますから。セレイナさんの部屋の近くだったのはごめんなさいですけど」
エルサとセレイナが日照権を巡って軽く話している間にキルアがお茶の用意をしにいった。
しばらくして戻ってきたキルアは、お茶をベランダにあるお茶会用のスペースまで運んだ。私たちも付いていく。
薔薇などの多種多様な花の香りとお茶の豊潤な香りが絶妙に混ざり合い、鼻孔を幸せに満たしてくれる。
そして、一緒にあったお菓子に懐かしさを感じて思わず驚いてしまう。
「あ。どら焼き」
「どらやき……? リリさんはこれを知っているの?」
「エルミア神聖法国で有名な、かつて女神様が降臨した際に好んで食べていたとされる伝説のお菓子ですよね。これも知っているなんてリリさ……んは博識です!」
「うちが国内で初めて輸入したと思っていたのに。ペルスティアに先を越されていたんだ」
「ま、まぁね! 小さい頃からよく食べていたし!」
「? 私はこのお菓子を見るの初めてなんですが……」
イリヤが小さく呟いたのは聞こえない。
私、嘘は言ってないもん。ちゃんと(日本で)小さい頃からよく食べていたし。
それにしても、女神様がこれを好んで食べていた、ねぇ。あり得そうで少し面白く感じる。
別の世界から魂を呼んで転生させることができるんだから、別世界のお菓子を食べることができてもおかしくはないか。
真っ白い部屋でどら焼きを食べながら抹茶を飲んで一息つく女神様。
……想像したら可笑しく思えてきた。
「リリさん、貴女顔が面白いことになってるわよ」
「また何か変なこと考えていたんでしょ?」
「リリ……」
「私の評価酷くない!?」
皆して私のこと好き勝手に言ってくる! 今のは確かに変なこと考えていたけども!
席に座り、お茶を配ってもらったので一口飲んでみる。
「うんっ、美味しい!」
「さすがですね。私もこれくらい上手く淹れることができるようになりたいです」
「そんな! 私なんてまだまだイリヤさんには届きませんよ!」
イリヤのお茶をキルアは飲んだことないけどね。
でも、これは本当に淹れ方が上手い。イリヤと良い勝負ね。
セレイナもお茶を気に入ったみたいで目を輝かせている。
「これ、東方のゼブリーシュ葉を使っているのよね?」
「ええ。私のお気に入りだから」
「同じお茶を城でも飲んでいるのに何この違い……。キルアさん! 貴女お城で働かない!?」
「へぇぇぇぇぇ!?」
「渡しませんよ。キルアは私のものです」
「エルサ様……」
エルサに抱き寄せられたキルアが頬を赤らめてエルサのことを見上げている。
これは、あれね。キルアはエルサのことそうなのね。
「青春ねぇ……」
「リリ、老けたみたいになってますよ」
「いいではないか。目の前で若人がいちゃついておる。これこそわしが見たかった景色よ」
カップの底を持って縁側でお茶を飲むおじいさんのようになる。うん、私そろそろ老化してるかな?
体の年齢は十代でも魂の年齢は三十代だからね。そろそろ危ないかもしれない。
「でも、人目を気にせず体を密着させてるの。いいわねぇ。羨ましいわねぇ」
「「「どの口が」」」
エルサ、セレイナ、イリヤに同時にツッコまれた。
多分、イリヤとの関係のことを言っているとは思うけど、私たちそこまで……あるかもしれない。
どら焼きを手に取って食べてみる。再現度は……
「……何これ?」
餡じゃなくてチョコが入ってる……。
似ているのは色だけで、想像と違う残念感。駄菓子みたいだ。確か、こんな駄菓子が売られていたはず。
セレイナたちも怪訝そうな顔をしていた。
「うん、美味しいことには美味しいけど……」
「甘すぎるわね」
「わ、私は美味しいかな~って……」
「中身が違うのよね。素人め。私がもっと美味しく作ってみせる!」
思わず言ってしまうと、皆の視線が私に向いた。余計なことを口走ったかもしれない。
「楽しみにしてるわね!」
「リリさんのとんでも発想がきた!」
「手伝いが必要なら呼んでくださいね」
「作ることは確定になってる……」
これは頑張らねば。
そうして、ひょんなことから私のどら焼き作りの物語が幕を開ける……なんてのは冗談で、でもいつかは必ず作るから!
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