第33話 <思いもよらない出会い!>

 お姉様の仕事が終わるまで待って、一緒に帰る。

 陽が傾き、赤焼け空が広がる帝都は、仕事を終えて帰ってきた冒険者や大工さんたちで新しい盛り上がりを見せようかという頃合いだ。

 人が多いと活気があってやっぱりいいね。活気があるって事は私たちも楽しく感じるから。


「あっ、そうだ。今から間に合うかな……?」

「お姉様?」

「イリヤちゃん。悪いけど屋敷に戻ってリコレットさんに伝えてくれる? 今日は外食するって」

「分かりました」

「なら、転移魔法使う? その方がきっと早いよ」

「……リリ。いつの間にそんな魔法を……?」


 お姉様がびっくりしちゃってる。

 そこは曖昧に返しつつ、すっと詠唱して一度屋敷に帰ってくる。

 庭を抜け、玄関を潜るとすぐにリリスは迎えに来てくれた。私の腕の中に飛び込んできて、体を擦り付けてくる。


「ただいまリリス。可愛いなぁ」

「みゃあ~」


 私たちの声に気がついたのか、奥からリコレットさんが飛び出してきた。……なぜか、真っ黒い不審物を服に付けた状態で。


「お帰りなさいエスナ様! リリ様! 申し訳ありません! お夕食を作っていた鍋が爆発してしまい……」

「何がどうなってそんなことに?」

「あはは……大丈夫。作らなくていいよ。私たち、外食してくるから。皆は適当に食べておいて。外で食べたなら後で言ってくれるとお金出すから」

「分かりました! お気を付けて!」


 お姉様がリコレットさんに外食することを伝え、また私の転移魔法で移動する。

 まず、お姉様に言われたとおり噴水公園に転移する。お姉様オススメの店は、自分で案内したいらしい。

 ただ、私もそのお店の場所なんて知らないから転移するのは無理なんだけどね。

 噴水公園からちょっと離れた通りに入る。で、しばらく歩くと目的のお店にたどり着いた。


「ここ! リリと一度来たかったお店なの!」

「楽しみ!」


 テンション高めのお姉様に付いて店内に入る。

 お客さんは少なくも多くもない。心地いい数って言っても伝わらないかもだけど、それくらいの数。

 三人で席に座ると、お姉さんがメニューとお水を出してくれた。

 ここ、お水無料なんだね。大抵のお店は水もしっかりお金取るんだけど。

 お姉様はよく来ているのか、メニューも見ずに注文を決めているみたい。さて、私は……。


「……これは……」

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない」

「珍しいですね。見たこともない料理ばかり……」


 確かに……イリヤは見たことないだろうね。でも、私にはすごく見覚えがある。

 寿司、お好み焼き、カツ丼、ハンバーガーetc。

 これ、絶対に日本からの転生者が持ち込んだでしょ! ここ以外で見たことないもん!

 こういうの持ち込むのってありなんだ……。マヨネーズとかケチャップとか、なんかいろいろと勝手に作った私が言うのもあれなんだけど。

 こういうのって、異世界で爆発的な人気が出るのが定番なんだけどなぁ。見た感じそれほど人気には見えない。この世界の人には受け入れられないとか?

 いや、お父さんがマヨネーズにドはまりしてるし、セレイナとかセレナがどら焼きに興味を示していたからはずれって訳じゃないと思うけど……。


「立地条件か。ここ、目立たないものね」

「なに?」

「何でもないよ。私はこのから揚げ定食で」

「では、私はこのお寿司? を食べてみたいです」

「二人ともいいね! 私はいつも通りお好み焼き~」

「お姉様、案外庶民的なんだね……」

「え? そうなの?」


 お好み焼きなんて、日本で暮らしていたときにお母さんがネギが余ったとかなんとかでサクッと作っていたから。そんなイメージになったのかも。

 注文を伝えてしばらく経つと、最初にイリヤのお寿司が運ばれてきた。


「これがお寿司、ですか?」

「お魚の刺身を酢飯に乗せて握ったものだって。まぁ、ペルスティアは新鮮な魚が捕れるから刺身で食べるのは抵抗ないけど、内地に行くと……ね」

「いや、これを寿司と言いたくは……」


 なんというか、鮮度が悪い。

 こう、お刺身がべちゃっとしてるから、こんなの食べたらお腹を壊しそうだ。海外で日本の間違った食を正す番組を鼻で笑っていたけど、今ならなんとなく気持ちが分かるよ。

 これをイリヤに食べさせて、寿司に変なイメージを持たれるのはなぜか気に入らない。ここは一つ、試してみたいことがある。

 昔、何かで見たんだけど、魚とかお肉に回復魔法を使うと鮮度が回復するとかなんとか。せっかくだし気になるじゃない?


「イリヤちょっとごめんね。健やかなれ……“ヒール”」

「わぁ……! 回復魔法で鮮度って良くなるんだ。さすがはリリね!」


 私の考えは上手くいき、美味しそうに変貌した寿司にお姉様が興奮している。

 聞くと、他の人が寿司を頼んだときにこれが出てきたから、美味しくなさそうだと今まで注文しなかったのだそう。でも、これからは注文してみるって。

 お姉様のお好み焼きを運んできたお姉さんが、寿司を見てびっくりしてた。うん、気持ちは分かる。

 で、お姉様のお好み焼きを見ると……


「あー、惜しい」

「何が?」


 出てきたのは、ソースも何もかかっていないシンプルなやつ。

 これでも充分美味しいんだけど……やっぱりソースとかは欲しいと思う。

 よしっ、私、一肌脱ぎます! お姉様とイリヤに美味しい日本の料理を食べてほしいもの!

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