第16話 <皇帝陛下ご来訪!>
今日は朝から大変だ。普段着ないようなドレスに着替えて、作法を忘れていないかのチェックと復習をさせられてる。イリヤも今だけは私専属のメイドから外されて、屋敷の掃除と食事の用意に駆り出されている。
どうしてこんなにドタバタしているのかって? それは、今日の午後から皇帝陛下たちをお出迎えするから。
何でも、数日前にイリヤを連れ戻すために行った森で倒した魔物が魔王軍の諜報部隊だったらしく、私がそのリーダーの魔王軍幹部を倒しちゃったとか。そこで、皇帝陛下がわざわざうちまで足を運んで功績を称えてくれるらしいの。
でも――、
「知らなかったんだし、そんなことしなくていいのになぁ……」
「偶然で魔王の幹部を倒されてたまるか。お前、昔からとんでもないとは思っていたがこんなことまでやってしまうとは……」
お父さんが額を抑えて呻いている。まぁ、気持ちは分からなくもない。
魔王軍の幹部なんて、昔から勇者しか倒せないほどの強敵らしい。それがいきなり辺境の貴族令嬢が倒しちゃったものだから、混乱もするよね。
……うん。でもまぁ、私もその勇者なんですけどね。多分。
たださぁ、魔王の幹部もそんな地位ならもっと頑張ってよ! なにあっさりと私なんかに倒されてくれてるのよ! おかげでこんなめんどくさいことに巻き込まれたじゃないのよ!
ぶつくさと呪詛のように文句を垂れ流す。玄関近くの部屋を重い空気に変えることに成功していると、扉がノックされルフレンさんが顔を覗かせた。
「もうすぐ陛下が到着なされます。お二人とも、ご準備を」
「分かった。さて、行くぞリリ」
「はぁーい」
玄関ホールで陛下たちを待つ。はぁ、別に待つのはいいけどその後がねぇ。
今日の予定を思いだす。陛下と近隣の貴族と手が空いてる公爵家を待ち、式典が行われた後に晩餐会。今日は嫌いなダンスなんかはないけど、代わりにいろんな貴族との会話に応じなきゃいけないから面倒くささで言えばダンスと変わらない。
ため息を吐くと、お父さんにジト目を向けられる。無言なんだけど、その目はため息なんて吐くな、と言っている気がした。
頬を叩いて気持ちを入れ直す。と、外で馬の鳴き声が聞こえて鎧のものらしき金属音が聞こえてきた。
「皇帝陛下、ご到着~!」
騎士の声と共に扉が開かれる。私とお父さんが膝をつこうとすると、皇帝陛下よりも先に小柄な人影が私めがけて弾丸のような速度で飛び込んできた。
「久しぶりねリリさん! 私も来たよ!」
「え!? セレイナ殿下!?」
飛びついてきたのは、このアドミオン帝国第一皇女であるセレイナ=ルトヴィック=アドミオン殿下。同い年、ということもあってか以前私がお父さんに連れられて帝都に行ったときに出会い、そこから仲良くさせてもらっている。
私とセレイナ殿下、それとイリヤとギャスティック大公家の令嬢の四人は仲良し組ということで有名になっているらしい。お父さん曰く、関係を邪推する貴族も少しいて面倒なことになるときもあると嘆いていたけど。別に誰と仲良くしようと私の自由だし!
でも、まさかセレイナ殿下まで来るとは思わなかったな。てっきり帝都にお留守番かと思ってたのに。
セレイナ殿下が私にくっついていると、大柄な男性が現れてセレイナ殿下の首根っこを掴んで引きずっていく。その男性に、私もお父さんも跪く。
「「ようこそエウリアス皇帝陛下!」」
二メートル近い大柄な男性。世界史とか音楽の授業で見た昔の音楽家みたいな白髪を立派に整えて、がっしりとした体躯と腰に帯びた金色の剣が本当に素晴らしい。アドミオン帝国現皇帝のエウリアス=ルトヴィック=アドミオン陛下。
でも、そんな勇ましい男性が年頃の娘の首根っこをひっつかんでお説教している光景というのは……なんかこう、面白い。
「お前という者は本当に……!」
「ごめんなさいお父様! 痛いからはなひてぇ~!」
「馬車の中であれほど釘を刺したというのにまったく!」
頭を掴んでブンブン上下に振っている。それが終わるとセレイナ殿下を後ろに立たせて、陛下自らお父さんに挨拶をしている。
「久しぶりだなアルフレッド。いろいろ聞いているぞ? お互い、問題児の娘を持つと大変だな」
「そうですね。いつも苦労させられます……」
「うーん……堅いなぁ。国立学校時代に一緒にいた貴族しかいない間は昔のように呼んでくれて構わないのだぞ?」
「……では。エウリアスも苦労してるんだな。政務に加えてセレイナ様の監視か」
「そこは妻が代わってくれている。セレイナもローザには敵わんからな」
「羨ましい。リリももう少し大人しくしてくれたらよいのだが……」
「「黙って聞いてたら酷い言われよう!!」」
たまらず私とセレイナ殿下が叫んでしまう。大人しく聞いていたらなんかすごい酷いこと言われてるんですけど! 事実の自覚があるから強く反論できない自分が悔しいよ!
セレイナ殿下と顔を見合わせて笑い合う。どうやら、セレイナ殿下も同じ事思ってたみたいだね。
そんな私たちの様子を見て陛下とお父さんが肩をすくめて苦笑いしているんだけど……なぜ?
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