第15話 <イリヤを連れ戻さないと!>

 屋敷のメイドさんから事情は聞いた。どうやら、イリヤはリリスと一緒に森に行っちゃったらしい。さて、困ったものだ。

 私のために無茶してくれるのは嬉しいけど、あの森は本当にダメ。ついさっき、魔物が急に強くなって冒険者ギルドがあの森に立ち入り禁止令を出したんだから!

 急いで身支度を整えて屋敷を飛び出す。早く行かないと、もし万が一のことがあれば私は耐えきれない。

 飛行の魔法を使ってショートカット。雲を突き抜け、森までのルートを飛んでいく。

 十分やそこらの時間飛び続け、ようやく森に到着した。降り立った瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡る。


「なにこの気配……マズいかも……」


 これは……さっさとイリヤとリリスを連れて帰らなくちゃ。こんな所に長くいたくはないからね。

 注意深く地面を見ると、わずかに足跡を見つけることができた。これがきっとイリヤのものだね。近くに小さなネコの足跡もあるから間違いはないはず。

 慎重に足跡を追って道を進む。途中、何体もの魔物に襲われるけどハッキリ言って邪魔なのよね。だから、悪いけどそこで一生凍り付いてて。森だから火炎系統の魔法が使えない。凍らせといて、後で壊しましょうか。

 襲ってくる魔物たちを氷像に閉じ込めて先を急ぐ。それにしても、やっぱり魔物の数が多い……! 早く、早く……!

 確か、女神の恵みは清らかな水が成長に必要だったはず。あるとしたら、森の奥にある白滝の湖よね。足跡もそちらに続いているから、多分そう。


「イリヤは賢いから、その分行動が読みやすいのよね」


 こんな状況だというのに、思わず笑ってしまう。賢い人ほど迷わないから、行動が読みやすいって地球で生きていたときに聞いたっけな。

 湖に向かって急ぐ。でも、途中で足を止めて周囲に警戒を飛ばさざるをえなくなった。

 半透明のゲル状の魔物がうようよ沸いてくる。こいつら……スライムね! 強力な酸性の体に触れると容赦なく溶かされてしまう。

 それに、地面が盛り上がって巨大なミミズみたいな魔物まで出てくる。こいつはワーム。美女を好んで喰らうという、ドラゴンもどき。

 こんな魔物がいるなんて、やっぱり異常だ。ペルスティア領でこんな奴ら見たことないもの。それに、どちらもイリヤみたいな女の子、最高のごちそうじゃない。食べられる前に無事を確認しないと、っていう焦燥感が一気に私を襲ってくる。


「邪魔しないでよ! “プラズマカノン”! “ブリザードサークル”!」


 極大の電撃と極寒の凍気でスライムとワームを一気に撃破する。慌ててたから、少し魔力を強くしすぎちゃったけどまぁ、いいかな。

 障害を乗り越え、湖畔に出る。そこで見た光景は――、


「――リリ?」

「イリヤ! それに、リリスも無事?」

「みゃーお」


 女神の恵みを抱えるイリヤとリリスの姿だった。良かった。見た感じ、どこにも怪我とかはしていないみたい。


「どうして? だって、リリは毒に……」

「グラハムさんがそれ持ってたのよ。だから解毒できた」

「そ、そうだったんですか……」

「ええ。……でも、イリヤのバカ! 心配したんだからね! リリスも止めてよ!」


 無事な姿を見ると、安心して涙が出てきちゃった。イリヤに抱きつこうとすると、不意にイリヤは武器を構える。


「イリヤ?」

『いやはや、我が僕たちをこうも容易く倒すとは、あっぱれ!』


 不気味な声が聞こえる。でも、無視でいいや。今はとにかくイリヤとリリスが無事だからそれでいいしね。


『しかぁーし、我はそう簡単にいかんぞ。なんたって我は……』

「さぁ、帰ろうイリヤ。この森は危ないから」

『おーい? 我の話を聞いてる?』


 はいはい、喋る魔物さんね。はいはいつよいつよい。

 これでいいかな? 相手するのとか面倒だからどうぞお帰りくださって結構です。

 後ろに向けてシッシと手を振る。


『貴様……我を侮辱してるのか……!?』

「してないしてない。はい、じゃあ帰って」

『侮辱しているな!? 我はラーズ様であるぞ!』

「お願いだから帰ってくれない? 喋れるってことは賢いんでしょ? あと、できればラー油さんはよその土地に移ってもらえると助かりますが……」

『誰がラー油だ! 我はラーズだ! やっぱり馬鹿にしてるな貴様!』


 いい加減うるさいから振り返る。そこには、巨大な赤いスライムがいた。


「これまた立派なスライム……」

『恐れたか! では、命乞いをして跪け! 貴様らは魔王城に連れ帰り、一生スライムを生み続ける奴隷にしてやろう!』

「魔王? 私、魔王と関わりたくないんで見逃してください」

『そうはいかぬ。我を散々馬鹿にした代償を……』

「もういいから帰ってよ! 私の異世界生活に魔王のまの字も“いらないの”!」


 あまりにも話が通じないスライムに怒って魔法を放ってしまった。それも、遠慮なしの本気の一撃を。

 絶対零度に迫る凍気を一気に叩きつけてしまう。当然、ラー油さんは瞬時に凍り付いて表面にヒビが入ってしまった。


『な……!? 勇者と同じ……いや……それ以上の……!?』

「あ、やっちゃった。湖まで凍っちゃった」

「リリ、そこじゃないです……」

『魔王軍幹部……焔のラーズ……こんな……ふざけた小娘に…………』


 ……倒しちゃった。まっ、気にしなくていいか。魔物を倒すのは何も悪いことじゃないからね。

 じゃあ、今度こそ帰りましょうか。イリヤの手を繋いで飛行の魔法を使う。浮かび上がると、リリスが頭の上に乗っかってきた。


「いやぁ、イリヤが無事で良かった。今度から勝手な行動はしないでね」

「あ、はい。申し訳ありませんでした」

「分かればよろしい。では、行こう!」


 後は屋敷までひとっ飛び。こうして、無事にイリヤ救出ミッションクリアー!


「……あまり、リリを心配させたり怒らせたりしてはいけませんね……」

「みゃうみゃう」

「ん? どうしたの?」


 なにやら顔を見合わせて頷くイリヤとリリス。何話してるんだろう? 気になるなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る