第8話 <湖に行こう!>

 昼食後、私はイリヤとリリスを連れて湖に出かけた。こっちの世界の湖はとても綺麗で美しいの! 外国とかファンタジーの世界でしか見ないような雄大な自然と澄み切った空気が特徴的で、特にリリスが大好きなの。

 近場だからわざわざ馬車は使わず、小一時間ほど歩いて目的地まで向かう。しばらくして、目的地の湖に到着した。

 大きな湖は鮮やかな水色をしていて、なだらかな丘陵とその周りいっぱいにある色とりどりの花畑が美しい。鏡のように澄み渡る湖面が映し出すのは頂上付近を雪でお化粧された山。少し標高の低い富士山みたいな山も近くにあるの。

 そして、大気中の魔力が生み出す永遠にそこに存在し続ける虹の橋。森から出て湖をまたぎ、遠くの丘までかかる橋は感激の一言では言い表すことなんてできないわ。

 この湖は、アドミオン帝国でも人気のスポットなのよ。ペルスティア領の観光収入の四割はこの湖関連のものなのよね。私のアイデアで湖畔にキャンプ場やお土産屋さん、ちょっと離れたところに宿泊施設を作るようにお父さんに進言したら、たまたま遊びに来た皇女殿下がえらく気に入って国中に宣伝してくれたのよ。それからはもう業績右肩上がり! お父さんからも領民の人たちからも感謝されちゃった。

 それで、今日は湖近くの原っぱでゆっくりしようと思って来ちゃった。

 さっそくシートを広げてリリスを離す。普段は大人しいリリスだけど、開放的な気分になったのかそこら辺を駆け回り始めた。蝶々を追いかけたりリスとじゃれ合ったりする姿がもう可愛すぎる……ッ!

 これはもう今日ははしゃぐわね。さて、イリヤに頼みごとっと。


「ごめんイリヤ。ちょっとあっちの店で釣り料金払ってきて」

「釣りですか? でも、リリは今日釣り竿なんて……」

「リリスが魚を獲るかもしれないからね」


 銀貨を数枚渡して店まで行ってもらう。

 日本では迷惑釣り客とかが問題になっていたから、ちゃんと料金取るところは取ろうと思って有料にしたのだけど、こっちの世界ではそんなことがない。みんなきちんとルールを守ってくれているから美しい自然はそのままね。

 イリヤが帰ってきたから、リリスを呼び戻す。リスとじゃれ合っていたリリスは首をコトンと倒して近寄ってきた。


「リーリス。今日は湖の魚も獲って食べてよいわよ」

「みゃあ! みゃあ!」


 小躍りして私の周りを駆け回り、すぐに湖に駆けていくリリス。この湖の魚は丸々太っていて脂ものっているからリリスの大好物。

 楽しそうなリリスを見ながら私とイリヤはシートに座る。魔法を使って漁をするリリスを遠目に私はイリヤの膝の上に寝転がった。


「リリ?」

「やっぱりイリヤの膝が一番気持ちいいね。それに、ポカポカの日差しがちょうどよくて……」

「心地よい午後の陽気がいいですよね」

「うん。イリヤと花の優しい香りに包まれて眠気がすごいよ」

「じゃあ寝ます? 私が子守歌を披露しましょうか」

「ううん、いいよ。でも、しばらくこうさせてね」


 イリヤに髪を整えてもらいながら自然を楽しむ。鳥のさえずりを聞きながら風を感じるのも悪くない。

 そのままゆったりとした時間が過ぎていく。と、遠くからリリスが元気よく走ってくるのが見えたから体を起こす。

 浮遊魔法で周囲に魚を浮かべて嬉しそうだ。四匹も獲ってきたのね。

 リリスは私とイリヤの前に一匹ずつ魚を置いてくれた。


「これ、くれるの?」

「みゃ~」

「ふふふ。ありがとうございますリリス」


 イリヤがリリスの額にキスをする。ずるい! イリヤの唇が触れるなんてなんとうらやまずるい子なんだリリスめぇ~……!

 ぐぬぬ……、と悔しい思いをしていると、イリヤが半笑いで首筋に手を添えてきた。


「子供ですか。リリスに嫉妬しないでください」

「むー! だってだって!」

「はぁ……仕方ありませんね。これはリリだから特別ですよ」


 イリヤが頬にキスをしてくれた。我ながらチョロいとは思うのだが、これでもう満足しちゃった。さっと上機嫌で即席の調理台を整える。


「……あ、しまった。イリヤ。悪いけどバーベキュー料金も……」

「そう言うと思ってすでに払っておきましたよ」

「え! 渡したお金じゃ足りないでしょ。早く言ってよ!」


 追加でイリヤに銀貨を渡して私は魚を焼く。その間にイリヤは持ってきたサンドイッチを広げていた。

 リリスが獲ってきた魚は特に大当たりで身が締まっている。この子、猫なのに釣りが漁師さん顔負けなのよね。詳しくは釣りでも猫でもないけど。

 軽く塩を振って炙っていく。さて、ちょっとしたおやつタイムといきましょうか。

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