第9話 <全力で遊ぼう!>

 間食をとったらなんだか体を動かしたくなってきた。シートから立ち上がり全身をほぐすストレッチ運動を行う。

 見ればリリスもグーッと体を伸ばしていた。これは同じ事を考えているわね! なら、遠慮なく遊びましょうか! 広い場所に来ていることだし、全力で遊び回っても問題なさそうだしね。

 いろいろと後片付けをしているイリヤを待つ。せっかくだしイリヤも混ぜて遊びたいもんね。

 セット一式を片付けたイリヤからそれを受け取る。便利だなって思って何年か前に編み出した異次元格納魔法で別次元に収納する。

 キョトンとするイリヤにこれからを説明しようじゃありませんか!


「イリヤ! 全力で鬼ごっこしよう!」

「鬼ごっこですか?」

「そう! 範囲はこの湖周辺で、魔法を使うのもありね。さすがに水の中はダメだけど。それで、鬼はタッチしたら交代ね。時間は湖に映る太陽が消えるまで」

「分かりました。でも、二人でですか?」

「リリスもやる気だよ」


 足元でリリスがシャドーボクシングをしている。その姿が愛らしい。

 リリスの頭を撫でながらイリヤが笑った。


「いいですよ。やりましょうか」

「そうこなくっちゃ! じゃあ、私が鬼をするからイリヤもリリスも逃げて良いよ!」


 そう言ったらリリスがすごい勢いで走って行った。小さいから花畑に隠れてすぐに見えなくなる。

 イリヤがクスッと笑って逃げていく。さて、私は目を閉じて十秒数えたら追いかけるとしましょうか。

 十秒数えて逃げる時間も充分あったと判断したから追いかけ始めよう。さて、まずはリリスを見つけるかな~。

 浮遊魔法で空に浮かび上がる。空からなら花畑の中に潜んでいても見つけやすいでしょ。

 ちょっと飛んでいるとすぐに見つけた。わずかに花がずれている所があるから、その道を追っていけばいいのよね。

 順路を辿って花畑の中央付近に降り立つ。すぐにリリスがトコトコ歩いてきたので、お腹を抱えて花畑からすくい上げる。


「はい、リリス捕まえたー!」

「みゃ!?」


 ふっふっふ。驚いているわね。見たか!

 リリスが目を覆い隠してニャンニャン言ってる。可愛いからいつまでも見ていられるけど、このままここにいるとまた私が鬼をやることになっちゃう。とっとと逃げよう。

 花畑から離れて私が向かうのは森。陽光が差し込んで心地良い風が吹くこの森ならそうそう見つかることはないでしょう。木の上に陣取っていれば発見も遅れることだしね。

 ささっと木に登って枝を補強して下を注視する。お父さんに見つかったらまた拳骨をプレゼントされそうだけど、今はいないから問題ないね。

 ずっと下を見て、時には枝を移動しながら森を駆ける。鬼ごっこにおいてこれほど適したフィールドはそうないでしょ。

 遠くから魔法を使用した時に感じる魔力の波長が伝わってくる。さてはリリスとイリヤが魔法でぶつかり合ってるね。おかげで大体の位置は把握できるけど。

 やがて魔力の波長が止まった。決着したらしい。イリヤが逃げ切ったのかな?

 なーんて、思っていると勢いよくイリヤが走ってきた。霧を発生させる魔法も使っているから、多分逃げ切れたんだろうね。

 木の幹に手をついて息を整えている。


「イリヤ~。リリスって今どこにいる?」

「っ!? リリ!?」

「ここだよー」


 イリヤの隣に降りて聞いてみる。おおまかな位置は分かっているけど、詳しいものを把握すると話が変わってくるからね。

 と、イリヤに近づくとにこやかな笑顔で肩に手を置かれた。


「……ん?」

「はい、リリが鬼ですよ」

「えーっ!? なんでどうして!?」

「さっきリリスに同じ事されましてね。それで、リリなら多分ここら辺に逃げるだろうなって思って適当に魔力の波動を流しながら来たわけですよ」

「ちょっとずるくない!? 酷いよ!」

「リリのことなら大体分かりますからね。何してもありでしょう?」


 そうだけど……そうだけどさぁ! くっそ騙された!!

 イリヤが逃げていく。見てろ~。すぐに捕まえてあげるんだから!


◆◆◆◆◆


 その後、何度も騙し合いや魔法での嫌がらせを繰り返して日が沈むまで楽しんだ。さすがに遊び疲れたのか、リリスは私の腕で眠っている。


「さて、帰ろうか」

「そうですね」


 夕日を背景に屋敷に帰る。今から戻ればお父さんと一緒に夕食を食べれるかもしれないね。今晩のメニューはなんだろう。


「楽しみ。お腹空いてきちゃった」

「リリ、涎垂れてますよ。あと、その服どうします?」

「服? ……あ」


 泥汚れが至る所についていた。これはマズい……。

 頭頂部に防御力強化の魔法をかけながら、お父さんの怒り顔を思い浮かべて屋敷への道を歩いて行く。

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