第7話 <のんびりしよう!>

 パーティーの翌日、私が起きたのは昼近くのことだった。同じベッドではまだイリヤが気持ちよさそうに眠っている。イリヤよりも早起きだなんて珍しいかも。

 まぁ、原因は昨日のあれなんだけどね。夜遅くまで激しかったから疲れるのも無理はない。今のうちにお片付けをしましょうか。

 廊下に出て手が空いてそうなメイドさんを捕まえる。部屋まで来てもらってイリヤを彼女のベッドに移し替え、濡れた私のベッドのシーツを洗濯に運ぶ。大型の洗濯機みたいなものがあれば便利なんだけど、残念ながらこちらの世界にそんなものはない。電化製品なんて存在しないからね。

 結構な大物を何人かのメイドさんが洗ってくれる。けど、汚したのは私とイリヤだから完全に任せっきりというのは申し訳ない。メイドさんたちの猛反対にあいながらも手伝うことにしよう。こう見えて家事も少しはできるんだから。

 大きな容器に水を入れて洗濯する。これ、案外楽しいかも。癖になるわね。

 そんな風に面白みを感じ始めた頃、イリヤが血相を変えて走ってきた。


「申し訳ありませんリリ様! まさかこんな時間まで寝てしまうとは……!」

「昨日は遅かったものね。イリヤは昼食の用意をお願い。あと、出かけるからおやつも用意しておいてね~」


 イリヤは厨房に駆けていく。その後ろ姿と私の顔を見たメイドさんたちにクスクス笑われる。この汚れの原因に気がついたって顔してるね。それで正解なんだから何も言わないけどさ。

 水洗いを終わらせ、複数人で協力して絞って水気を絞る。その間に用意してもらっていた物干し竿にシーツを運ぶ。


「リリ様、そちらを持っていただけますか?」

「分かった。これで大丈夫?」

「ありがとうございます」


 均等な面積が太陽に照らされるように整える。さてさて、これでよしっと。

 グッと背伸びをする。やっぱり日差しが気持ちいいこんな日にはお出かけしないとね。リリスに散歩させてあげないと。

 リリスは猫みたいだけど散歩が大好きなのよね。ちょっと変わった子なの。

 洗濯も終わったことだし、お出かけの準備をしましょう。部屋に戻ってひなたぼっこしているリリスを抱きかかえる。


「リリス~。今日は昼から湖に出かけるよ~」

「みゃあみゃあ!」


 嬉しいのか私の周りを駆け回り、すり寄ってくる。肉球の感触もいいのだけど、こうほっぺたスリスリ攻撃はもっと素晴らしいわ。頭を撫でてあげるともっと甘えてくる無限のループが生まれる。

 これ以上ない至福の一時を享受していると、扉がノックされた。返事をするとイリヤが顔を覗かせる。


「リリ、お昼の用意ができましたよ」

「分かった。ほら、行こうリリス」


 私に身を委ねてくれているリリスを連れて食堂に。どうやらお父さんは公務が忙しいらしく、もうお昼を食べ終わったみたい。

 イリヤ特製のお昼はまさかのオムライス! ふわっふわの卵が美味しそうに輝いている! その横で、リリスには美味しそうな川魚が二匹用意された。

 さてさて、諸君はメイドさんがオムライスを運んでくれたこの状況になるとなにを想像し、求めるだろうか? 私は一つ。ケチャップでハートマークを描いてくれながら美味しくな~れの魔法を掛けてくれることを求めます!

 ただまぁ、当たり前なんだけどあれは秋葉原で有名なやつだからこっちの世界には概念すら存在しない。だから私がレクチャーして進ぜよう。


「ねぇイリヤ。ケチャップ持って」

「けちゃっぷ?」

「ほら、ご飯を味付けするときに使ったあのトマトベースのソースだよ!」

「ああ! リリが作ったあれがケチャップですか!」


 食に彩りをと思っていろんな調味料を作ったからねぇ。おかげでお父さんをマヨラーにしてしまった前科ができてしまったけど……。

 イリヤがケチャップを持ってきた。お楽しみの時間といこうじゃないか!


「はいじゃあ復唱! 美味しくなーれ」

「お、美味しくなーれ」

「そうそう。そんで、そのケチャップで卵の上にハートマークを描くのよ」

「こんな感じですか?」


 可愛らしくケチャップでハートマークを描いてくれる。もうこれだけで美味しさ何倍もアップだよね!

 早速ケチャップがかかった場所を一口。気のせいかもしれないけど、本当に美味しくなってる気がするんだよね。やっぱりこれも愛の偉大な力ってやつかな?


「ねぇねぇイリヤ」

「? はい」

「あーん」


 一口すくってイリヤに食べさせてあげる。さすがに照れちゃってるけど、そんな照れ顔も可愛いっ。

 長年の付き合いのイリヤは私がしてほしいと思っていることも瞬時に理解してくれた。すぐにスプーンで一口分すくって同じようにあーんしてくれる。使ったスプーンが新しいのじゃなくてイリヤが口をつけたスプーンなのは驚きだけど。

 差し出された一口を遠慮なくぱくっ。素早く口内を整理してちょっと意地悪な顔で笑いかける。


「なんだか、昨日からイリヤ積極的になってくれてるよね」

「え、そうでしょうか?」

「うんうん。可愛いイリヤ大好きだよ!」


 おもいきり彼女に抱きつく。やっぱりイリヤは私になくてはならない存在だからね!

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