第6話 <二人で踊ろう!>
その後も私はいろんな人とダンスをする羽目になりました。相手が全員男だということに断固抗議したいです!
特にブリャークさんと踊ったときが一番酷かったよ。ことあるごとに不必要な体への接触をしてくるから、途中から体全体に魔力で膜を展開して直接触れることができないようにしたんだもん。この技は相当魔力を喰うから使いたくないのに。
そんなわけで、今私はバルコニーでぐったり休憩している。疲れきった体にはクールダウンの夜風が気持ちいい。適当に選んできたお菓子を頬張る。
今夜最後の演奏が流れ始めた。あぁー、ようやく帰ることができるよ。もう何ヶ月かはパーティーになんて参加したくないや。
柵に体を預けて腕をブラブラさせているとふと気配を感じる。後ろを振り返るとイリヤがいた。
「リリ、疲れてますね」
「そりゃあね。どうして楽しいはずのパーティーで魔力切れ寸前まで魔力を使わないといけないのよ。楽しいとはあまり思ってないけど。タダ飯食べれてラッキーくらいね」
「ふふっ、ほんとリリって庶民みたいな感じですよね」
悪かったわね庶民で。こちとら貴族生活と一般人生活が同じくらいの期間で、一般人期間のほうに慣れてしまってるんだから。
隣にイリヤが佇む。そこで、私から一つ提案。
「ねえイリヤ。私たちで踊らない?」
「え?」
「なーんてね。女性パート二人では踊れないよね」
それが残念。私は男性パートの踊りなんて知らないから困った。面倒だけど練習しておけばよかったかなぁ?
「踊れますよ」
「……へ?」
「リリならそう言うだろうなと思って、男性パートの踊りはできるようにしてます」
すごいわイリヤ! 万能過ぎて怖いくらいよ。
イリヤが優しく手を差し出してくる。その手を取って夢の時間を始めましょう。二人だけの幻想的な時間。
聞こえてくる演奏に合わせて踊り出す。二人向かい合ってゆったりとしたスピンからのステップ。右手は繋いで左手はイリヤの腰へ。
イリヤの動きは本格的なものだった。上手く私をエスコートしてくれるからとても動きやすい。ダンスが下手っぴなそこら辺の貴族連中とはまるで違うわね。足をもつれさせるなんて事態になる姿が想像もできない。
ユウヤくんもこれくらい上手かったのだけど、それよりもなおイリヤが上だ。ここまで仕上げるのは相当苦労したはず。
「すごい、綺麗……」
「よかった。上手く踊れなかったらどうしようと悩んでいたので」
「ごめんね、なんだか私のほうがあまり上手にできてない」
「そんなことないですよ。リリが合わせてくれるから私も」
「あはは、お互いに相手のおかげって思ってるわけだ」
笑い合ってダンスをやめない。優雅なステップをもう一度踏んで盛り上がりに合わせて動きも激しくしていく。
演奏も佳境にさしかかってきた。そろそろ頃合いね。
流れる激流のような音楽から一転穏やかな下流の如き静けさを取り戻して演奏がフィニッシュ。私たちの演舞もここまで。最後は互いの顔をいっぱいにまで近づけて静止する。
特別動きの激しい音楽にイリヤの息が乱れていた。間近に感じる唇から彼女の吐息が吹きかけられる。湿った呼気はどことなく色っぽい。
「……ねぇイリヤ」
「はい、なんです?」
「今日は月が綺麗だね」
「そうですね。でも、いきなりどうして?」
やっぱりこっちではロマンチックな告白は伝わらないか。ならば、もうこれは実力行使だね。
顔を押し出してイリヤの唇を啄む。それだけだとなんだか寂しいから舌を入れる大人のキスをしてみることにした。
イリヤは抵抗することなく私を受け入れてくれた。舌が擦り合い水音が鳴る。お互いの首に腕を回して距離を縮めた。唇が離れて唾液が糸を引く。
「んっ、リリ……」
「好きだよ、イリヤ……」
甘い時間が過ぎていく。もう一度唇を重ね合おうとして顔を近づけていき――、
「――二人のことを邪魔して本当に悪いとは思うが、馬車が来たから帰るぞ」
聞こえた声に思わず固まってしまう。恐る恐る声の主を見てみると、お父さんとグラハムさんが苦笑いで私たちを見ていた。
「え、えっとこれはそのぉ~……」
「前から知ってたから何も問題ないぞ。それより、続きは帰ってからな。あまり御者さんを待たせるわけにもいかんし」
そうだね。それに、いつまでもオッテル伯爵の家でこんなことするのもあれだから。
「残念。帰ろっか」
「そうしましょう。部屋に戻るともっと先も相手しますから」
「言質取ったよ?」
イリヤから決定的な一言をもらったよ? それ、絶対に実行してもらうからね!
オッテル伯爵にお礼と挨拶を言って屋敷をあとにする。さて、うちに帰ったら甘ーいデザートタイムとしゃれこもうじゃないか!
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