第14話.合流

「──やぁ! やっと来たんだねフレイ! それと昨日の女の子も! 待ってたよ! 30分くらいね!」


 ギルドに訪れた俺とフレイさん。ギルドに入るなり、2階からアーサーさんの声がギルド内に響いてきた。

 そちらに目を向けると、超絶笑顔で全力全開に手を振り自らを主張するアーサーさんがそこには居た。


「はぁ……アーサーはああいう所があるのよね……天然って言えばいいのかしら……」


 フレイさんはアーサーさんの周りを気にしない行動に頭が痛くなったのか、眉間に手を添えて首を左右に振る。

 確かに、少ないとはいえ見知らぬ人が居る中で堂々と大声を出すのはマナー違反だろう。金髪に爽やかな顔付き。物語の主人公みたいなイケメンなのに勿体ない……。


 なんて考えていると、柵から身を乗り出して飛び降り、見事な着地を決めてからこちらへと歩いてくる。


「いやー! まさかフレイが協力したいなんてね! 昨日お昼を食べてた時はあんなに反対してたのに珍しい事もあるんだね!」

「ちょ、ちょっと! もうちょっと静かに出来ないの!?」

「あ、ごめんね! ちょっとテンションが上がっちゃって! フレイはいつも1人だったし僕以外の友達は居ないから嬉しくて!」

「余計な事は言わないでいいのよっ!」


 言葉ではそう言って謝ってはいるが、声の大きさが全く変わっていない所を見ると反省はしていないみたいだ。


「君も来てくれて嬉しいよ! 僕はアーサー。アーサー・ササキって言うんだ! 君は?」

「く……クロマ……です……」

「クロマさんか! よろしくね!」


 握手を求めてか手を差し出してくれるアーサーさん。俺はそれを手に取ろうか迷っていると、有無を言わさんとばかりに俺の手を取って、ぶんぶんと上下に振ってきた。

 なんというか……こう……勢いが凄いな。


「あきらめなさい……誰に対しても昔からこうなのよ……」


 フレイさんが呆れた口調で呟く。それはアーサーさんの耳にも入っているはずだが、気にしていないのか全く動じたりする様子は見られなかった。


「アーサー、そこらへんにしてちょうだい。この子は色々と訳があるのよ。それも話したいから人の居ない場所に移動しましょ」


 フレイさんの言葉によって移動する俺たち。冒険者ギルドを出て、道を外れた人がいない場所まで歩くと、フレイさんがアーサーさんに俺のことについて話し始めた。


「――というわけなのよ。だからせめてこの世界で生きていける様に能力だけでも手に入れておかないといけないの」

「そ、そういうことだったんだね……」


 しんみりとした空気。俺についての説明を終えた後、アーサーさんはまるで自分事のように涙ぐんで俺のほうを見てきた。


「見知らぬ場所に急に飛ばされ……ステータスさえもスライムに負ける程度なんて……分かった……協力するよクロマさん……!!」


 さっきと同じように無理やり俺の手を取って激しくぶんぶんと上下に振るアーサーさん。

 ……すんなりと信じてくれるんだな、という俺の疑問は、フレイさんがアーサーさんに向ける馬鹿を見る視線で何となく解決した。


「というわけで、今からスライムでも倒しに行きましょう」


 話が纏まった俺達は再び冒険者ギルドに戻ることになる。

 ……と言っても俺がまだギルドカードを受け取っていないため、まずは受付まで行ってそこで受け取らないといけないのだが。


「おはようございますクロマさん。クロマさんのギルド証はもう出来上がっていますので、今お持ちしますね」


 昨日と同じ受付嬢さんは、完璧な営業スマイルを見せてから奥に姿を消した。

 大体1分くらいで帰ってきた受付嬢さんの手には、手のひらサイズをした長方形のカードが掴まれていた。


「こちらがクロマさんのギルド証になります。本来はステータスが明記されているのですが、身分証やクロマさん自身どちらからも測定範囲外でしたので明記されておりません。ですが明記されていないということは桁外れの魔力をお持ちということの証明にもなりますので、ぜひご活用ください」


 それから俺は冒険者についての説明をされた。

 よくアニメとかだとランク、というものが存在していたが、この世界にはそういったものがないらしい。そのクエストに行きたいものが行く、といったように、結構フリーな感じみたいだ。


「――以上が注意事項になります。これで完全に手続きが終わりですが、何かご不明な点などございますか?」

「い、いえ……」

「はい。それでは手続きは以上になります。良い冒険者ライフを!」


 最後にニコッ、と笑顔で送り出してくれる受付嬢さんを見るとすごく心が締め付けられるような感覚になる。

 騙しているというか、実は弱いのに俺は強いと勘違いしたままなのが良心に来るんだと思う。まぁ説明しても信じてくれなかったけど……。


 俺は身を翻し、離れた場所で待機しているフレイさん達と合流しようとする。その時に受付嬢さんから声が呼び止められた。


「あ、すみません伝え忘れていました。現在近くの草原にて、魔力濃度が高くなってきている事を確認しています。こんな事は初めてですが……クロマさんも、クエストを受ける際はお気を付けください。」


 魔力濃度……? 高くなったらダメなんだろうか。 あぁもう神様は一体何をしているんだ。いつもならここらへんで『ひひっ、魔力濃度とは~』とか話しかけてくんのに……ここまで応答がないと不安になってくるな……。

 まぁ話しかけてこないってことはそんなに重要な事でもないのかもしれない。待機してるフレイさん達を待たせるのもあれだし、合流するとしよう。


「終わったわね。ていうか、本当に強いって勘違いされてるのね……まぁ無理もないか。私もスライムに殺されかけてるところを見てなかったら信じてなかっただろうし」

「はははっ! フレイと違って僕は信じるからね!」

「アンタはバカだしね……」

「ははっ!」


 アーサーさんは怒るということを知らないのだろうか。さっきから会話を盗み聞きしたりしていると結構な悪口を吐かれているのに、全部笑っていなしてる。

 彼の心の広さは宇宙を超えるかもな……。


 そんな事を考えながら暫く何気ない会話を続けた。

 話によると草原には基本的にスライムしか湧かないみたいなので、フレイさんとアーサーさんがいれば俺は安全にスライムを倒せるかもしれないとのことだ。

 ちなみにアーサーさんが持っている剣を使ってスライムを倒す予定なのだが、これがものすごく重く、何とか持てるレベルだった。これを振り回すとなると逆に俺が振り回されそうだ。

 アーサーさんが言うには、『これでも羽のように軽くなる魔法をかけてる』らしい。つまり、この世界での俺は羽に負けているということだ。本当に俺が弱くて涙が出るよ……。


「それじゃあ出発しようか! スライムの持つスキル、吸収と変形が手に入ればクロマさんも強くなれるはずだよ! レベルも上がるだろうし!」


 ――この時の俺は、魔力濃度が濃くなる、というのは霧みたいなもので視界が確保できないということだと思っていた。

 この時の俺は知らなかった。だからこそフレイさん達に伝えることが出来なかった。


 魔力濃度が濃くなる――それ即ち、強力な魔物が出現するという予兆であるということに。

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