第21話 代理謝罪

 地元でばったり同級生の母親に会った。

 保険外交員をしているが新規契約が取れず、名義借りで自腹を切ってトラブっている人だ。

 金を貸した母と連絡がつかないが、どうしたことか?と訴える。

 ははーん。

 なるほど。

 母から新規契約を取りつけようとして足元を見られたのだな、と思った。

 私は正直に詐欺師と蒸発したと答えた。

「それはそれはすみませんでした。連絡がついたら伝えますね」


 親交があったスナックのママが持病の悪化で店をたたむと言うので、餞別に飲みにいった。

「おう!」

 私がたたんだ店の常連だったお爺さんが、カウンター席で飲んでいた。

「お久しぶりです」

 私はお持たせの豆かんをママに渡し、お爺さんの隣に座った。

「元気だったか?」

 いつもどおり、千鳥格子のハンチング帽を被っている。

「はい。なんとか生きてました(笑)。ママ、生ください!」

 割烹着が似あう料理上手なママが、旬のつまみを数品出してくれた。

「お母さんはどこにいる?」

 お爺さんが訊く。

「行方知れずです(笑)」

「うむ。金を貸したままなんだがな……」

「そうなんですか!?」

 下心ありありで貸した金は、聞けば、けっこうな額だった。

「私も『貸して!』って頼まれたんだけど断ったのよ」

 ママが追随する。

「あー。なんかあちこちで無心してたみたいで……すみません。連絡がついたら伝えますね」

 母は消費者金融以外からも私的な借金をちまちま重ねていた。

 その相手が母と私の共通の知人だったこともあり、私は母の代わりに頭を下げることを余儀なくされた。


 闇金から母宛に督促の葉書が届いた。

 母の住民票の住所が自宅のままだったからだ。

 それでまた、借金したのだろう。

 いや、させられたのだろう。

“このまま返済しないつもりならただで済むと思うなよ”と言う、脅迫めいた文面だった。

 ご丁寧に事務所の住所が明記してある。

 足がつかぬよう、たたんでは開き、たたんでは開きしているのだろうか?

 にしても、ずいぶんズボラだ。

 それに万が一、郵便配達員がポストを間違えでもしていたら……。

 とんだ恥さらしになるので

『せめて封書にしてくれよ』

と思った。

 無意味だと思ったが、私は“業者”に返信することにした。

“裏で糸を引いているのは借主と偽装結婚した前科十六犯の詐欺師で、N◯◯◯という氏名でブラックリストに載っていると思われる。最近、住民票を◯◯県◯◯市◯◯町◯丁目◯番地に移したようだ。今後の請求はそちらに宛てるように。法律に明るい偏執狂で面倒だが、それでもかまわなければ、とことん追いこんでやってくれ”と。

 我ながら、ぶっ飛んだ文面だと思った(笑)。

 以後、闇金からの督促状は二度と届かなかった。


 

 

 

 

 


 

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