第20話 ソシオパス
母が蒸発して半年がたった。
嫡出推定の問題から 女性の再婚禁止期間は六ヶ月(※二十年前の民法。令和六年四月一日より撤廃)だ。
前夫との再婚や高齢者には適用されないが、当時の私は無知だった。
悪い胸騒ぎがして区役所に戸籍謄本を取りにいった。
案の定、私はサイコパスの義娘に返りざいていた。
以前の離婚で調停に持ちこまなかったことが災いした。
全身が凍りつく。
Nは母から尻の毛まで抜くつもりなのだ。
だが、Nがふたたび母の戸籍に入ったことで、皮肉にもNが除籍になった戸籍を辿ることができた。
今では大都会となった街の生まれだ。
Nが生まれた時分は夜に星が輝く静かな町だった。
非嫡出子で認知を受けている(※以前とは異なり、現行法での法定相続分は嫡出子と同等)。
父親はその業界では著名な人物だ。
その後の情報でNの母親が元芸妓だったことがわかった。
同じ町で生まれた私の知人は日本人ではない。
町の成りたちや、本人の骨格や気性から、Nにも日本人以外の血が流れていることは容易に推察できた。
母子二人、差別や苦労があっただろう。
だが、同じような体験をしてもまっとうに生きようともがく人がほとんどの世の中で、犯罪に走るのはN個人の弱さでしかない。
怒りをぶつける対象を間違えていやしないか!?
Nが毒牙にかけた人々に罪はないのだ。
Nはそれを早急に理解しなければならない。
サイコパスは先天性の障がいだ(※異説あり)。
だが、Nの生いたちを辿るとき、私はNが環境要因が強い後天性のソシオパス(※異説あり)なのではないか?と着想を得た。
動機があると想定すれば、Nの反社会性が“見すてられた者の慟哭”に思えてならなかったからだ。
社会病質のソシオパスなら、専門家の門を叩くことで少しは救われるのではないか?
それとも、すでに手遅れなのだろうか?
「精神病院送りにしてやる!」
「法的措置をとった!」
「すぐに迎えをやるから覚悟しろ!」
以前、Nが電話口で私を脅した言葉を思いだした。
常人にはできない発想だった。
それはN自身がさんざん浴びせられた“身近な”言葉だったのだろう。
実際、措置入院の憂き目にあったのかもしれない。
Nが自己や他者を永遠に傷つける道から外れる方法はないのか?
無自覚であっても、救いを求めず生きることなど、ソシオパスならできないはずだ……。
一瞬、そんな温情がよぎって消えた。
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