ドレスコーデ

「遂に待ちに待った金曜日!やったぁ!」

放課後に開口一番そう言いながら、帰り支度を始めた弦真の元へ走ってきた。

「え、な、なんかあったっけ?」

「え…」

多少引き気味に答えた弦真に絶句する舞雪。

「え?」

「え?あの日だよ?」

舞雪がしつこく尋ねてくる。

「え?本番一日前の日?」

「え?そんだけ?」

呆れたような顔で、自分の額をぺちんと叩く舞雪。

「ドレス取りに行く日でしょ?」

「あー。理解。完全に理解。」

弦真が大仰にそう首肯する。

「ばか」

小さくそう呟くと、打って変わったような笑顔に戻る。

「いざゆかん!忘れてた弦真くんは今日私の言うことを忠実に聞くことー」

「はいはい。わかりやした」

弦真は苦笑しながら、歩き出した舞雪の後を追った。


「ふーん、ふふーん、ふんふーん」

商店街に着くと、鼻歌を歌いながら、毎雪が歩いていく。

「楽しみだなぁー。楽しみだなぁーん」

誕生日プレゼントをもらう前の子供のようにはしゃぎながら舞雪がスキップしていく。

「取りに行くの今日が初めてな訳じゃないでしょ?」

弦真が呆れ気味にそう尋ねるも、毎雪も呆れ気味にわざとらしいため息をついた。

「別に何回目でも嬉しいものは嬉しいの!」

「お、おう」

舞雪の謎の強気な剣幕に押された弦真。

「そんなんだと弦真くんのスーツ私が貰うよ?」

「い…やめて」

「今「(それはそれで可愛いから)い(いかも?)」って思った?」

「妄想力豊かか!」

二人はけらけら笑いながら目的地にたどり着いた。


「こんにちはー」

舞雪が店員に挨拶をしながらいそいそと店に入っていく。

「注文のブツできてる?」

「ヤクザか」

舞雪のボケに律儀に突っ込む弦真。

そんな二人を見て、微笑む店員。

「しっかり仕上がってますよ。試着室は奥にあるのでどうぞ」

そう促され二人は店の奥へと入っていった。


「弓波弦真様のスーツですが、今回は時間があまり取れなかったため部分オーダーメイドになってしまって申し訳ありません」

舞雪と別れ、男性試着室に向かった弦真に店員が申し訳なさそうにそう謝罪した。

「あ、いえ。全然ありがたいです。オーダーメイドなんて初めてなんで嬉しいです」

「ありがとうございます。では、そちらの部屋で試着をお願いします。」

店員に促され、弦真は試着室に入ってカーテンをしめた。


「今回は雪ちゃんに合うような、白に薄い水色が入ったドレスを選んでみたよ」

「ありがとうございます!」

「今回は彼氏さんと一緒そうでよかったねぇ。前回なんかより何倍もウキウキしてるのが伝わってくるよ」

「まだ彼氏なんかじゃないですから!」

「まだね。ふーん」

店員は楽しそうにそう微笑むと、まだ何か言いたげな舞雪の手にドレスを持たせ、奥の試着室へと舞雪を案内した。



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