舞雪のスパルタ指導

「えー、弦真くん。今の率直なピアノに対する思いをどうぞ」

木曜日の放課後の練習に、舞雪が開口一番に言った。

「ん?」

「ん?どうぞ?」

困惑し、質問した弦真に、質問で返す舞雪。

「どうって。え、ピアノがあるなぁと」

「どうぞ?」

弦真の返答に笑顔で再度質問を返す舞雪。

弦真の応答は求めていたものと違ったらしい。

「え、黒いなぁと」

「そうじゃなくて、どう思ってる?」

「んー」

舞雪に再度返答を求められて考え込む弦真。

「弾きたいかなぁ。昨日一昨日と弾いてないから」

「そう!それですよ!それ!」

弦真の返答を聞くや否や、弦真を指差して飛び跳ねる舞雪。

「弾きたいよね?ピアノ」

「うん。まあ」

「すごい弾きたいよね?」

「うん。まあ」

「ひ・き・た・い・よ・ね?」

「あ、はい。弾きたいです」

舞雪の笑顔の圧力に負けた弦真は苦笑する。

「そうなるために、コンサートの前にはわざとピアノを弾かないようにしてるんだよねぇ。私」

「作戦のうち、と?」

「いえす」

舞雪は嬉しそうな顔で頷いた。

「結局ね、聞く人に届く音楽って、弾き手がどれだけ楽しんで弾いてるのか、っていうことだと思うんだよね」

「ほう」

弦真が続きを促す。

「だから、その気持ちづくりのために、ピアノ禁止期間設けていたわけですよ」

舞雪が声高に説明した。

「てなわけで、久しぶりに練習しましょう!」

「おー!」


「…ドってどこだっけ。舞雪」

「をい」

「はい?」

「微妙に似てる俺の声真似やめてもらえませんかね」

「あはっ」

二人は笑いながらピアノに座ると、二人は鍵盤に目を落とした。

「じゃあやるか」

「うん」

頷くと二人は、鍵盤の上で指を踊らせた。




「にゃぁーーーぁぁ」

「猫か」

「にゃんにゃん」

一曲弾き終えると舞雪が奇声を発して椅子から降りると走り出した。

猫の鳴き真似と一緒に。

「どういう心境ですか」

舞雪に怪訝な顔で尋ねる弦真。

「ピアノいいなぁっていう心境」

「そだね」

納得したような顔で弦真は苦笑した。

「久しぶりだとなんだか全然印象が違うな」

弦真が感慨深そうに呟いた。

「それをわかってほしかったんだよ。弦真くん」

舞雪は嬉しそうに頬を膨らませて頷いた。


「こんな感じで本番もいきましょうか」

「そですね」

舞雪は外に目をやると目を瞑った。

「…がんばらなきゃね」

「ああ。頑張ろう」

二人はどちらからともなく握った拳を体の前に突き出して互いにこつんとぶつけ合った。

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