商店街での買い物

「彌吉(やきち)?」

「多分」

 弦真の質問に、読み方に自信なさげに舞雪が答えた。

 清水駅西口方面から商店街に入って歩いて1分くらいのところに、彌吉があった。

「へえ、今時こういう昔ながらの見た目のお店って珍しいよな」

「だね。でもこういう見た目の方が可愛いよね」

 二人は口々にそう言いながら、店に入っていった。

 

「「おー」」

 二人は、店に入るなり、そう感嘆を零した。

「これは、いい店の匂いがしまっせ。旦那」

「そうですねぇ」

 などとボケをかますくらいに二人のテンションは高かった。

「これは幻の瓶入りコーラ!」

「え、俺そういうの初めて見た!」

「見てみて!こっちには、壁にかかったスーパーボールくじだ!」

「すごい!いつぶりだろ。懐かしいなぁ」

 目につくものに次々食いついていく二人。

 舞雪の目から見ても、そんな弦真の姿はとても珍しかった。                

「弦真くんもこういう子供っぽいところもあるんだね」

「ばかにしてる?」

「いい意味で」

そんな会話を聞いてか、店主の男性がくすりと笑った。

 

「いやぁ、いい買い物したねぇ」

 ご満悦と言った表情で舞雪が出てきた。

 その後ろを、両手に瓶のコーラを持った弦真が追ってくる。

「はいこれ注文の品」

「おお!私が買い物中に揃えておくとは、さてはお主有能か…」

「ふっふっふ。よくぞ見抜いた。そんな其方にはどちらのコーラが良いから選ぶ権利を授けよう」

「なにぃ⁉︎どちらかに選べだとぉ⁉︎」

「まあどっちもいっしょだけどね」

「急に冷めないでよ弦真くん。じゃあこっちもらうー」

 左側のコーラを舞雪が手に取る。

 「このコーラを飲むと昔を思い出すなぁ。げぷ」

 冷たいコーラを口に勢いよく流し込んで、案の定噯を出しながら、舞雪が感慨深そうに言った。

「私、一年前のあの日も、ここのコーラ飲んだんだよねぇ」

「え、まじ?」

「うん。あ、そういえばピアノに向かってる時に弦真くんっぽい人にすれ違ったかも?」

「え、まじ?」

「記憶にない…。あの日の記憶ってピアノ聞いてからが強いからだな」

「それって、私のことで頭がいっぱいってこと?」

「そうかもね」

「そ、そっか。ふーん」

 自分の不意な軽口に冷静に対処された舞雪は、少し頬を赤らめて俯いた。


「にしても、ここってすごい感慨深い場所だよねぇ」

「ああ、そうだな。もしあの日ここに来てなかったら今こんなことになってないしな」

「ねえ、弦真くん」

「何?」

舞雪は弦真に向き直って、両手を広げた。

「この先、私たちがもっと有名になって、ライブやるってことになったら、ここでやろうね」

「ああ、是非そうしよう」

二人は決意を新たにし、清水駅へと戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る