第3話 出会い

「みんな、気合が入ってるわね」


クリスマスツリーに見入っていた梨奈の耳へ隣にいた真衣の呟きが届き、クリスマスツリーから目を離して真衣が見ていた先へ視線を向けた梨奈の視界に、仕事帰りとは思えないくらい着飾った煌びやかな女性の一段が入った。自分とは様子が違ったその女性たちに、梨奈は思わず場違いな所へ来てしまったように感じられ、気後れして反射的に出入口のドアへ目を向けた途端、中沢の声が店内に響き渡った。


「全員が集まったようなので、これからクリスマスパーティを始めます」


中沢のパーティ開始の宣言に、自然と男性と女性に分かれ立ったまま向かい合って一列に並んだ。梨奈も真衣に促され、一緒に列の端の方へ並んだ。


 中沢の音頭で男女交互に自己紹介が進められる中、他の男性たちよりも身長が高く職業はモデルだと言っても誰も疑わないほど容姿の整った隣り合わせに立っていた二人の男性が自己紹介をすると、先程の女性たちから軽いざわめきが起こった。


一人は森山達樹。28歳。地名と同じ名前の日本でトップクラスの国立大学出身で職業は弁護士。もう一人は、新井尚哉。28歳。達樹と同じ大学の出身で、職業は四葉環境株式会社の本社営業マン。


 四葉環境は日本を代表する大企業の一つで、世界中で水に関する事業を展開していた。日本国内だけではなく世界各地に支社を有し、創業以来、利益の額に幅はあるものの黒字を出し続けている企業としても有名で、優良企業としてその名を馳せていた。


 居心地の悪さを覚えていた梨奈は、二人の自己紹介を聞いても自分とは次元の異なる異次元の住人のように感じられ、冷めた思いで聞き流していた。


 みんなの自己紹介が終わると食事会を兼ねたフリータイムとなり、梨奈は真衣の後ろについて手早く食べ物と飲み物を手に取り、空いていた店の出入口に近いテーブルへ着いた。


「どうして隣なの」


いつもはお互いの表情が見えるように、向かい合う席へ着く真衣が横に並んで座ったことに疑問を感じた梨奈が、目線で空いている向かい側の席を指し示しながら問い掛けた。


「直ぐに分かるわよ。それより、早く食べよ」


真衣は何か楽しい悪戯でも思い付いたような笑みを見せ、梨奈の疑問をそのままにして『いただきます』と口にし、目の前の美味しそうな料理の皿に手を付けた。不思議そうに真衣を見ていた梨奈だったが、仕事帰りでお腹が空いていたことを思い出し、真衣に倣ってご馳走を口へ運んだ。


「ここ、いいかな」


思っていた以上に口に合った料理を真衣と会話しながら楽しんでいた梨奈は、テーブルの向こう側から声を掛けられ、声の主を確かめようとそちらへ顔を向けた。すると、なぜかそこには食べ物と飲み物を手にした二人の異次元の住人が立っていた。


自分とは関わる筈のない彼らが、朗らかな笑みを浮かべて立っている姿に、どうして彼らがそこにいるのか理解の追い付かない梨奈が疑問で頭をいっぱいにしているうちに、真衣が『どうぞ』と手で空いている席を示してにこやかに応じていた。


真衣の許しを得た二人は、達樹が真衣の向かい側に、尚哉は梨奈と向かい合う席へ着いた。

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