第2話 切っ掛け

 梨奈が初めて尚哉と会ったのは、親友の早坂真衣に誘われて参加した2年前のクリスマスパーティの会場だった。


「ねえ、梨奈。今、何歳か覚えてる」

「えっと……。24、かな」

「かな、じゃないでしょ。渉君と別れて、どのくらい経ったのよ」

「多分、1年くらい……」


偶々、同じ高校に入学し、入学式で意気投合した梨奈と真衣は、それ以来、何でも話し合える心を許した友人同士となった。二人は地元の高校を卒業した後、揃って上京し同じ大学へ通った。高校の3年間と大学の4年間の7年間を一緒に過ごした梨奈と真衣は、別々の会社へ就職した今でも頻繁に連絡を取り合い、度々会っていた。


 渉は二人と同じ大学に通っていた男子学生で、梨奈が親しくしていた相手だった。懐かしい名前を聞いて、最後に会ったのはいつだったかなと思い出しながら応えた梨奈に、真衣は電話の向こうから盛大な溜め息を返した。


「いいですか、渋谷梨奈さん。あなたはまだ24歳なのにそんなに枯れ果てて、その調子だとお婆ちゃんになる前にカラカラに干乾びてしまいますよ」

「……カラカラって……」

「梨奈、分かってる。ゲットしなければお付き合いはできないのよ。そのためにも、出会いは必要でしょ」


学校の先生のような口調で言われた真衣の言葉に思わず苦笑いを浮かべた梨奈に、真衣は背中を押す言葉を続けた。パーティと聞いて、社交的な場が苦手な梨奈は二の足を踏んでいたが、妙に説得力のある真衣の誘い文句に心を動かされクリスマスパーティへの参加を決めた。


 クリスマスパーティは、真衣が勤めている会社の取引先の中沢という若手男性社員が企画したものだった。


 主に輸入化粧品を取り扱う外資系の企業へ就職した真衣は、営業のアシスタントをしていたこともあり、取引先の社員ともよく顔を合わせていた。社交的で面倒見がいい上に目鼻立ちが整っている真衣は、取引先の評判も上々で、自社の先輩社員たちにも可愛がられていた。


 中沢は、真衣がアシストしていた営業員の一人の由香と気が合い、クリスマスパーティの話を持ち掛けられた由香は賑やかなことが大好きなこともあり、何度か真衣と3人で食事をして楽しい時間を過ごしていた梨奈も一緒にと真衣を誘っていた。


 クリスマスパーティは小さなイタリアンレストランを借り切り、12月24日の金曜日の夜に行われた。


 真衣に連れられてパーティ会場となったイタリアンレストランへ初めて入った梨奈は、物珍しさから店の壁に沿うように視線を巡らせて行った。既に、壁際には白い布を掛けた長テーブルが配置され、その上に置かれた小分けされた数種類の料理やデザートの類が、クリスマス用に飾り付けられ見る者の目を楽しませていた。そこから少し離れた壁に直角に交わるコーナーにも、白い布で覆われた長テーブルが三角形を作るように斜めに置かれて、そこには各種の飲み物が用意されているのが見て取れた。


フロアには、フラワーアレンジメントで赤い色を主体とした小さな盛り花が中央に飾られた四人掛けのテーブルが五卓配置され、店内に彩を添えていた。座席を指定するようなものは見当たらず、バイキング形式で自由に席を選べるようだった。


さらに視線を巡らせると、出入口の近くに設けられた会計の場所の隣に大きなクリスマスツリーが置かれているのが目に入り、飾り付けられた色々な可愛いオーナメントが電飾の点滅に合わせて浮かび上がっていた。



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