ラブ・アンド・ピース


ナレーシャが足元に転がり落ちたガラスの破片を見て呆然とした

「勇者……様……」

シャンデリアは動かなかった

しんと広間は静まり返った


ドラゴンがナレーシャに歩み寄った

「貴様の入れ知恵が勇者を死に追いやった。貴様が何も言わなければ勇者はもう少し健闘出来たはずだった」

闇のドラゴンが笑った

「感謝するぞ、女」

「私は……私は勇者様を……」

「女よ。我が魔族がこの世界を支配した暁にその名を皆に伝えてやろう。知らず勇者を死へ導いた道化であったと」

ウェイスがナレーシャに駆け寄った

「黙れ!ナレーシャを侮辱するな!」

「貴族の人間……昔貴様の先代と戦った時もそいつは仲間のために怒り死んでいった。愚かしくも血筋というものは繰り返すのだな」

「なんだと……ッ」

闇のドラゴンの尾がウェイスに当たった

ウェイスはふっ飛ばされて城の壁に体をぶつける

「ぐ、うッ……!」

ウェイスがうずくまった

「貴様は後だ。先代と同じように仲間が無残に死ぬのを見ているがいい」

闇のドラゴンがナレーシャに向き合った

「貴、様……ッ!やめろッ……!おいっ!逃げろよ、ナレーシャっ!」

ナレーシャは俯いたまま動こうとしなかった

ドラゴンの口が開いて黒い波動が集まった

ウェイスが叫ぶ

「ナレーシャッ……!」

ゴォオオオオ

ナレーシャにビームが迫る


「守るやつ!」


ナレーシャの前にバリアが現れてドラゴンのビームが弾かれた

「何ッ!」

闇のドラゴンが声の方向に目を向けた

「貴様生きてただと!?」

あたしはクマに言った

「くまガード発動してくれてありがと」

「……僕また消えるの大丈夫かな……」

「戻すやつで何とかなるっしょ」

あたしはナレーシャに声をかけた

「ナレーシャ、どんまい。でも怪我してたところは弱いはずだし弱点は変わらないっぽいんじゃない?」

ナレーシャが泣きだしそうな顔した

「ご無事でしたか……勇者様」


「生きてたか……良かった」

ウェイスがよろめきながら立ち上がった

「ウェイスもめっちゃヤバそうじゃん」

「まあな。……めっちゃヤバいな」

そう言って少しだけ苦い笑みを浮かべた後に続けた

「勇者、少しナレーシャを連れてドラゴンから離れられるか」

「え、大丈夫?」

「考えがある。頼む」

ウェイスはガチっぽかったからこれ以上は言わんといた

「りょ」

あたしはナレーシャに近づいて言った

「行こ、ナレーシャ」

「でも……」

「ダチを信じよ。頑張るみたいだし応援したほうがいいじゃん?」

そう言うとナレーシャが黙って頷いた


ウェイスが手を掲げた

「希望の光達よ、この使い手の元に集え……」

ウェイスがそう言うと城中の壁に光の矢が浮かび上がる

すごい数

天井までびっしり弓矢がある

矢の明かりで城の中が照らされる

ウェイスの身体がよろめいた


「ウェイスさんっ……!」

ナレーシャが心配して声をかけた


ウェイスはドラゴンに言った

「俺の弓矢はどんなものも鋭く貫く。突き刺さるまでやるまでだ」

闇のドラゴンが周りを見渡す

「これが貴様の足掻きか?先ほどの貴様の先代の話で感傷的になったか。単純な奴よ」

ドラゴンはそう言って笑った

ウェイスは挑発に乗らなかった

ウェイスがドラゴンを真っ直ぐ見据えた

「ああそうだ。蹂躙された先代の魂のためにも貴様を倒す。そして、犠牲は俺の代に出させない。今度こそ仲間たちを守る。アルゴリオ家として……いや、俺様としてのケジメだ」

矢が輝いた

辺りが昼間みたいに眩しくなる

「くらえ……ッライト・アローッ!!」

たくさんの光の弓が闇のドラゴンに向かっていった

大雨みたいにドラゴンに光の矢が降る

辺りが眩しく光った

ドラゴンはよけようともしなかった

光の矢ははじき返されてゆく

「軟弱な攻撃だな」

光の矢はドラゴンの鱗に当たって折れてく

折れた矢は輝きを失って黒ずんだ

弓矢は次々にドラゴンに当たっては消えてゆく

全ての矢は折れ曲がって消えた

壁中の矢が全部なくなった


「……くそ、やっぱり硬い、な……!」

ウェイスが崩れ落ちた

肩で大きく息をつく

ドラゴンがウェイスに向かって哂った

「これが貴様のけじめとやらか?随分とお粗末なものだ」

「まだだ……ライト・アロー!」

ウェイスがもう一発打ったけどドラゴンの横をかすめただけだった

「魔力も尽きたか。貴様は終わりだ」

ドラゴンがウェイスの方に向き合った

その時最後に打った攻撃の向きが急に変わってターンをした

「……軌道が曲がる矢か。最後の最後に下らぬ小細工を……」

ドラゴンが尻尾を叩きつけようとすると矢はその間をすり抜けた

ジグザグに素早く動いてドラゴンの攻撃をかわす

「なッ……なんだ、この矢は!?」

ドラゴンが叫んだ

弓矢が生きてるみたい

その矢は低い位置から急上昇した

光ってる弾をよく見るとそれは白く輝いてるウモリだった

ウェイスがウモリに魔力を食べさせてたんだ

ウェイスが叫んだ

「行けっ……!俺の魔力を食って暴れろッ!」

ウモリはそのまま加速してドラゴンの顔に向かってく

ウモリが牙を剥いた

一直線に飛んだウモリはドラゴンの右目に当たった

「貴様ッ……グァアアア!!」

ドラゴンが呻き声をあげた


ウモリが戻ってきてウェイスの肩にとまった

ウェイスが闇のドラゴンを見上げた

「……フン、似合ってるな」

ドラゴンの右目が潰れていた

「よくも……よくも我の目をッ!!」

ドラゴンがキレて尾をウェイスに振り回す


「守るやつ!」

あたしは尻尾がウェイスにぶつかる前にガードを出した

「勇者、悪い……」

あたしはウェイスを引きずってナレーシャのところに連れてった

「ナレーシャ、ウェイスの面倒見てて」

「分かりました!」

「おい……介護扱いすんな……」

なんかウェイスがゴネてたけどスルーした

あたしは天井に向かって魔法を出した

「熱いやつ!」


ドーーーン


城に穴をあけた

薄暗い空が天井から覗いてる

「クマ、穴空けた場所って転送魔法通る?」

「どうだろう……多分、結界は建物にかかってるから穴を空けたらそこからできるはず」

「みんなを連れて脱出して」

「ええっ、でも君は?」

「あたしはドラゴン倒すミッションあるから。ここヤバいからみんなピンチになったらあたし困るし」

「勇者……分かった」

クマがため息をついてから言った

「転生者に手を出してサポート散々して……もうヤケだよ。とことんやるよ!」


クマがウェイスとナレーシャとウモリを転送魔法で送ろうとした

みんなのいる地面が光る

ウェイスがあたしを見た

「……勇者、待ってくれ、まだ戦える……」

動こうとするウェイスをナレーシャが押さえた

「これ以上無理をしないでくださいウェイスさん。死んでしまいます!」

あたしは言った

「ナレーシャにさんせー。ウェイス死なれたら困るし、とりま休憩ね。みんなあたし頑張るから応援しといて」

「勇者様……ウェイスさんがドラゴンに傷を付けたおかげで魔法の鱗の力が落ちているはずです。どうかお気を付けて……」

「りょ、任せて」

クマが言った

「……転生者の肩持っちゃうけどさ。勇者、生きててよ」

「まあなんとかなるっしょ。当たって砕けって言うし」

「砕けろだよ……最後の最後でなんか心配になってきたな」


「逃がさんぞ!!」

闇のドラゴンがビームを吐き出す

「転送魔法!」

クマが叫んだ

ガァアアン

地面が大きくえぐれた

ビームの吐いたところには誰もいなかった

転送魔法が先に発動してた

ギリギリセーフ


「この屈辱……この仕打ち……許せぬ……小娘が……ッ!!」

ゴァアアアアア

ドラゴンが雄たけびをあげた

ドラゴンの身体が黒く光った

辺りが震える

大きなビームの塊がドラゴンの口に集まる

そしてドラゴンがそれを吐き出した

髪がめっちゃ弄られる

すごい速さ

避ける暇がない

「守るやつ!」

あたしはバリアを張った


ピシピシピシ

うわ、バリアにヒビ入った!


パリーン


うそ・・・割れた・・・


ビームがバリアを突き破って入ってきた

バァアアアアアン

ビームぶつかった

うわ痛!


あたしは意識を失った


気が付くとあたしはふわふわした空間を漂ってる


頭痛がする・・・なんか世界がぐるぐるしてる


あたし死ぬのかな?



みんなの声が聞こえる


「おい、死ぬな!」

ウェイスの声だ・・・

「死なないでください!」

ナレーシャの声・・・

「死なないで!」

クマの声・・・

「キュー」

ウモリ・・・

「死ぬなよ」

・・・誰?思い出せん


あたしが死んだらどうなるんだろ



最後にもいっぺん告白したかったな・・・

ケンジ・・・


あれ・・・


頭の中に映像が流れてくる...


あ、ケンジの姿が見える・・・


ケンジは学校に残って勉強してる映像だった


ケンジ英検やってる・・・やば、頭いい・・・


あたしはケンジを見つめた


ケンジずっと黙って英検やってる・・・


・・・・・・


・・・・・・・・


こういうのってもっとあたしのこととか考える流れになるんじゃないの?

ずっと英検やってる・・・


でも真剣なケンジすごい!

東大行けるくらい頭いいもんね


前向きなケンジの姿見てたらあたしもなんか元気出た



あたしは胸が暖かくなるのを感じた

よっしゃ、がんばろ


パチっ


あたしは目を開いて起き上がった


ドラゴンが驚いた

「何ッ!起き上がっただと!?」

あたしは体を見た

「あれ、あたし怪我してない」

身体が光ってる

まぶし

なんか力が溢れてるっぽい

「まさか今まで覚醒していない状態の力だったというのか!?」

よく分かんないけどドラゴンがうろたえてる

あたし覚醒したっぽい

「とりまあたし、ドラゴン倒すってみんなと約束したから」

あたしはドラゴンに向かって歩いた

「図に乗るな小娘!」

ドラゴンが3つビーム出した


ドーンドーンドーン


あたしはそれを空中で止めた


「何ッ!」

あたしはドラゴンに言った

「あたしは激おこだからマジで許さない感じ」


あたしは魔法を使おうと頭の中にイメージした


熱いやつや寒いやつよりも強いやつ


今あたしの心の中に湧き上がってるケンジへの愛


クマやウェイスやナレーシャやウモリ


みんなを守ってラブアンドピースな世界にしたいじゃん


あ、ギルドの所長とも仲良くならなきゃ


この気持ち・・・なんていえばいいんだろ?


あたしは魔法が頭に浮かぶの待ってたけど全然出てこん


「えっと・・・」


え、待って全然出てこん

マジか


ドラゴンが言った

「小娘、威勢が良いのは初めだけか?それならば死ねッ!!」


ドラゴンが大きな闇の球を出した

ドラゴンと同じくらい大きい


こっちに向かってきた


え、どうしよ

ケンジへの思い、仲間への思い、今の気持ち、全てを表わす言葉・・・


急にふっと言葉が頭に浮かんだ


あたしは手を前に出して叫んだ



—―ヤバいやつッ!!!!」


あたりが魔法で光って一瞬真っ白になった


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


あたしの魔法は大きな竜巻みたいにあたりを巻き込みながらドラゴンへ突き進んでいく

ドラゴンのビームを飲み込んでさらに大きくなった

「なっ、なんだこの膨大な魔法は……!?」

ドラゴンの身体を光の渦が包んだ

ドラゴンが悲鳴をあげた

「ギャアアアアアアアア!!!我が……我がこんな語彙力のない技で倒されるなどこんな屈辱ッ……!!グァアアアアアアアアアア……!!」


渦が天井を突き破った

ドラゴンの身体は光の渦の中でキラキラして消えていく

光の渦は空まで高く上がって暗い雲を巻き込んだ

黒い雲が巻き取られて青空が出てくる

太陽が見えて明るい日差しが城の中に射しこんだ

光の渦はどんどん高く昇って見えなくなった

あたりに爽やかな風が吹いてくる

闇の気配は消え去ってった


ドラゴンは死んだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る