最終話 秘湯ハンターよ、永遠に

 魔王たちも空気を読んで、静観してくれている。



「シズクちゃん、ボクは、家族は一緒にいる方がいいって言った」

 

 ボクは今まで、家族を持つのは怖いと思っていた。


 温泉ハンターなんて、収入が安定しない。

 女神様の加護があるといえど、ボクが本当に稼げる分は少ないだろう。

 ゴハンだって、狩りで手に入れたりする。

 秘湯を探す旅は、楽しいけれど過酷だ。

 常に危険が伴う。


「ボクがこうして旅を続けられたのは、シズクちゃんのおかげだ。ありがとう」


「はい。こちらこそ」


 てっきり、「もっと褒めてもいいんですよ」なんて言い出すかと思ったけれど。


「シズクちゃんと一緒にいた旅は、ボクに潤いをくれていた。離れてみてわかったんだ。こんなにも、シズクちゃんとの時間はかけがえのないものだったんだって」


 シズクちゃんはお姫様だ。本来、近づくことさえ敵わない。


 だけど、泥まみれでも楽しげに秘湯リポートをしている姿を、ボクは知っている。


 それだって、ちゃんとシズクちゃんなんだ。


「ボクは、やっとわかったんだ。ボクには、シズクちゃんが必要だ。シズクちゃんと二人並んでこそ、温泉も楽しめるんだって」


 音を上げることだってある。ケンカだって何度もした。

 その度に、どれだけお互いが必要かを噛みしめて。


 だから、ボクはもう手放さない。 


「思ったんだ。ボクもシズクちゃんの家族になれないかなって」


 シズクちゃんの目が、キラキラしている。



「好きです、シズクちゃん。どうか、ボクの家族になってください」



 

「……はい!」

 

       ◇ * ◇ * ◇ * ◇



 数日後、ボクたちは月面のクレーターにこしらえた温泉に浸かっている。

『回復の泉』は関係なく、王国には酸素もちゃんとあった。



「はいどーぞ、あーん」

 シズクちゃんが、お団子を摘まむ。

「あーん」

 お団子を、ボクは口を開けて迎え入れた。


 コーヒー牛乳を飲みながらの、入浴だ。


 お月見ではなく、地球を見ながらの温泉である。



 ボクとシズクちゃんは、何も身につけていない。

 一糸まとわぬ状態で湯に入ったのは、これが初めてだ。



 いわゆる、『初夜』というモノで。

 その前に身体を清めようね、と。


 あれからボクは、月の王国に呼び出されて質問攻めに遭った。

 秘湯ハンターの仕事は、続けさせてもらえることになっている。

 もちろん、シズクちゃんも一緒に。

 


 結局王国は、民主化を進める方向へ向かうらしい。


 申し訳ないことをしたけれど、「シズクちゃんに政治は任せられないよね」という結論に達した。


「本当に、ついてきてよかったのかい?」


 月に帰れば、何不自由なく暮らせる。ボクと旅をして、危険な目に遭う必要もないのだ。


「だって、カズユキさんは私がいないと死んじゃうじゃないですか」


 あっけらかんと、シズクちゃんは告げた。


「私がいなくても、月はそこにあります。でも、カズユキさんは私が見ていないと、どんどん遠くへ行ってしまうから」

「シズクちゃん……」

「ひとりぼっちで死んじゃうのは、ウサギだけじゃないんだなーって、カズユキさんを見て思いました」


 シズクちゃんが、裸のままでボクに抱きつく。


「私だって、カズユキさんの側にいたいんです!」


 温かい。シズクちゃんの体温が、ボクに直接伝わってくる。


 ボクも、身体が熱くなった。



「ありがとう。ボクの家族になってくれて」



  

 月も制覇したわけで。


 次は、どんな温泉がボクとシズクちゃんを待っているんだろう。


 今から、楽しみで仕方ない。


(完)

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秘湯マニア、『回復の泉』を求めてヴォーパルバニー(ガール)と共にダンジョンへ潜る。宝箱もアイテムもいらない。回復の泉に浸かって癒やされたい。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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