秘湯ハンターの決意

 ボクはリムさんの背中に乗せたもらい、天空城の露天風呂を目指す。リムさんが、「城に行きたい」といったからでもある。


 シズクちゃんは今、世界樹の湯を堪能しているらしい。ボクとシズクちゃんが始めて出会った場所である。


 今日も、月がとてもきれいだ。天空城を選んだのも、ここが月に一番近いからだ。シズクちゃんの故郷を、間近で見たかったのである。


 きっとシズクちゃんも、親子揃って湯に浸かっていることだろう。故郷の月を眺めながら。


「寒いのか、カズユキよ?」

「え、なんでです?」

「しきりに鼻をすすっておるから」

「そ、そうですか」


 指摘を受けて、ボクは大きく鼻で息を吸い込んだ。


「ありがとうございます。ここで結構ですから」


 雲の上まで来て、リムさんに降ろしてもらった。


「すいません、ユーゲンさん。塔を介さずにお邪魔して」


 塔を経由せずに、直接入城している。半ば反則好意だ。だけど、ここなら何かがわかるんじゃないかって。


「お主なら構わん。ゆっくりなされ。とはいえ、一人じゃからこそわかることもあるわいて」


 随分と意味深いことを、ユーゲンさんは語る。


「そうでしょうか?」

「今のお主なら、何が大切なのか、きっと湯の中から掴めようぞ」


 半信半疑で、ボクは湯に入った。


「……あれ、気持ちよくない?」


 なぜだろう。


 全……然、温かくない。

 いつもなら、身体の芯から温まるはずなのに。



 ボクは、温泉好きではなかったのか?


 温泉に飽きたなんてあり得ない。


 これまで色んなダンジョンに入って、回復の泉を見つけては、取材をしてきた。


 マンネリのお湯なんて、一つたりとてない。


 ずっと楽しかったじゃないか。



「そうだよねシズ……」



 いつもなら側にいてくれるバニーガールちゃんが、今はいない……。

 

 シズクちゃんと一緒じゃない温泉が、こんなにもぬるかったなんて。


「ユーゲンさん、ありがとうございます。やっと、答えが出ました」

「答えは出たようじゃのう。ならば急ぐがよい」


 自分の決意を固めながら、ボクは身体を拭く。


「カズユキよ。感傷に浸って折る場合ではなくなったぞよ」


 岩場に腰掛けていたリムさんが、下を眺めながらボクに伝えた。


「どうしたんです、リムさん?」



「シズクは……帰る気じゃ」



 そんな! まだ、帰るかどうかは自分で決めるって。



「いや、帰らされるというか。向こうへ一度あいさつに行く気かもしれん。とはいえ、こちらへ戻してくれん可能性もある。王族が保守的なら、な」


「リムさん、度々悪いんですが」


「わかっとる。わかっとるわい」


 ボクが着替えると、リムさんは翼を広げた。

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