宇宙船、復旧

「玄室はあるみたいだが、お宝はねえな。一応アクセサリの類いはあるみたいだが、価値が判別できん」

「そうね。この世界にはないモノだってのは、ハッキリとわかるのだけれど、貴重かどうかまでは……」


 お宝目当てのオケアノスさんたちには、あまり関心がないみたいだけれど。


「一応、お風呂も付いているみたいだね」


 シャワー付きの部屋も見つけた。とはいえ、シズクちゃんはあんな感じだ。後回しに。


 シズクちゃんの足が、止まった。大きな岩に、行く手を阻まれたのである。


「これは、隕石?」


 複数の隕石が、宇宙船を突き抜けていた。


 おそらくこの隕石を避けようとして、この船はこの世界に落ちてきたのだろう。長い年月を経て雪と氷に覆われて、ダンジョン化した、と。


「こっちです」


 迂回し、シズクちゃんは反対の方角へ歩き出す。


「……!」


 突然立ち止まり、シズクちゃんは顔をそらした。


 シズクちゃんによく似た人たちが、たくさん倒れている。誰も、息をしていない。凍り付いた個体や、白骨化している人も。


「なんてこった……」

「シズク、あなたは……?」


 まさか本当に、この宇宙船のクルーだったのかもしれない。


 とにかく、先を急ぐ。


 もうすぐ終点らしい。


 船内で、もっとも広い場所に出た。各所にイスが用意されていて、デスク状の操縦機材が揃っている。


「これは、司令室だ!」


 だが、ここが一番ヒドい状況だった。みんな凍っているから、匂いまでは来ない。死体の数が、これまで見てきた場所の中で最も多かった。


「シズクちゃん?」


 なぜか、シズクちゃんがコントロール用のパネルに手を添える。仕組みがわかっているのか?


「動かせるの、シズクちゃん?」


 ボクが聞くと、シズクちゃんは首を縦に振った。


「私、この船の乗組員だったのかもしれません」

『乗組員』なんて言葉が出てきた感じからして、シズクちゃんはこの船のほとんどを把握しているみたいである。


 シズクちゃんは、大きなレバーを引く。


 ブウウンン……と音がして、辺りが急に明るくなった。だが完全とは言えず、船が動くまでには至らない。


「温泉どころじゃないね。ひとまず、冒険者ギルドに報告しよう。それから」

「遺体の埋葬を、お願いできますか?」


 切実に、シズクちゃんが尋ねてきた。


「もちろんさ」


 ボクも、同じ提案をしようと思っていたところである。


「このままだと、この世界の魔力を浴びてアンデッド化してしまうかもだし。暖かい場所で葬ってあげよう」


 この人たちは、シズクちゃんの関係者かもしれない。


「ありがとうございます」


 遺体を運ぶのはギルドに任せて、報告のためにダンジョンを出た。

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