親バカ大魔王

「まったく、どうしてノゾキなんてマネを」

「だってぇ」


 ラジューナちゃんの城に戻った後、大魔王はドルパさんにこってり絞られていた。


「まあ、よいではないか。娘の成長を見守りたい行為とはいえ、度が過ぎておっただけなのじゃし。のう?」


 リムさんが、旧友の肩を持つ。


 最初、大魔王はボクたちを敵だと思っていたという。しかし、リムさんの姿を見て攻撃を思いとどまったとか。リムさんが誰かに隷属するとは考えられない。ましてリムさんが認めた相手なら手を出すわけにはいかないと。


 正直、リムさんがいなかったらボクたちは全滅していたかも知れない。


「リムの言うとおりなのだ。余は独り立ちしたラジューナが不自由していないか、確認しようといただけなのである」


 大魔王は、何も悪びれる様子もなかった。まるで水を得た魚のようである。


「なんか怪しいですね。大魔王って」

「うん、そうなんだよねぇ」


 正直、何か隠している気がしてならない。


「なんだ人の子よ。余が嘘をついていると思うておるのか?」

「そうじゃないけど、まだなにか秘密がありそうだなって思っただけですよ」

「ふん、無礼な。余は潔白である」


 頑として、大魔王は態度を曲げなかった。


「では大魔王様、この撮影機はなんなのです?」


 ドルパさんが手に持っているのは、ボクたちの世界にある撮影機器だ。運動会などで父親が持っているようなタイプである。いわゆるハンディカムだ。


「そ、それは……」

「娘の成長を見守るだけなら、こんなものをお風呂場に持ち込む必要などないと思いますが?」


 たしかに。もしくは、本人が直接来て、普段の生活を録画させてもらえばいい。


「では、中身を見せていただきましょう」

「な、ならぬ。プライベートをノゾキ見するとは、魔族の風上にも」

「その張本人がノゾキの実行犯じゃないですか」


 問答無用とばかりに、録画内容が小さな窓に再生された。


「げえええ……」


 オルタが、顔を引きつらせる。


 画面に映っていたのは、ドルパさんの入浴シーンだった。


「これのどこが、娘の晴れ姿なワケですか?」

「誤解だ! ちゃんとラジューナを撮影したんだ。ドルパが入り込んでいるだけである!」

「私は、お嬢様がおやすみになった後に入るのです。どう見ても、入浴中なのは私だけなのですが?」


 ハンディカムを、ドルパさんが踏み潰す。


「ああーっ、地球人に大枚をはたいて買った貴重品が!」


 うっかり、大魔王が口を滑らせた。


「大魔王。いったいどういう了見だ?」


 ドルパさんも、元ヤンモードになる。


「我が旧友よ。せめて腹パンだけで勘弁してやろう」


 さすがのリムさんも、擁護しない。 

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