ノゾキ魔の正体見たり

 その後も特に何かモンスターが現れるでもなく、平坦な道が続く。


「この先は、大魔王様のいる領域ですわ」

「大魔王様って?」

「ラジューナお嬢様のお父上です」


 この異世界とはまた違った世界を、魔界というんだとか。ラジューナちゃんのお父さんは、魔界全土を統べる魔族の王様らしい。


「そんな世界の住人が、ラジューナちゃんの地位を狙うために、この穴を作った?」

「可能性は、否定できません。お嬢様の地位を脅かす存在は、少なくありません。お嬢様が地上界の一部を占領していることを、面白くないと思った輩がいても、我々は驚きません」


 結構、ラジューナちゃんの首を狙う魔族は多いみたいだ。


「む? 人影があるッス!」


 向こう側の壁に、一際デカイ大男のシルエットが映る。

 影はこちらの存在に気づいたのか、脱兎の如く逃げ出す。


「待て待てッス!」


 俊足魔法を足に掛けて、オルタが飛び出した。

 そのすぐ脇を、シズクちゃんがすり抜けていく。さすがスピードでいったらヴォーパルバニーの右に出る者はいないか。


「シズクちゃん待って! 敵の戦力を見極めてからだ!」

「でもここで逃したら……きゃあ!」


 先行していた二人が、風の魔法らしき突風に吹き飛ばされた。

 ボクがシズクちゃんを、オケアノスさんがオルタを抱き留める。


「オルタ、シズクちゃん!?」

「うーん」


 よかった、気がついた。

 しかし、安心もしていられない。

 眼前に、巨大なシルエットが向かってくる。


「なんぞ騒がしい。この大魔王に攻撃を仕掛けてくるとは」


 闇そのものが人の形を持ったような怪物が、一瞬でボクたちの前に立つ。


「あわわ。大魔王」


 オルタの勇敢さが、なりを潜める。足を震わせ、立ち上がれないでいた。


「やべええ、俺ともあろう者が、腰を抜かした」


 オケアノスさんまで。


「どうしよう。魔法が使えないわ!」


 シャンパさんが脂汗を垂らしながら、手をかざす。しかし、何の魔法も発動しない。

 大魔王がそこにいるだけで、一切の魔力干渉が削除されてしまったという。


 絶体絶命のピンチだ。


「差し違えてでも、カズユキさんは守ります!」


 シズクはすぐに立ち直る。言葉も頼もしい。


「ありがとう。でも、シズクちゃんの方こそ逃げるんだ。ここはボクが時間を稼ぐから!」


 守ってもらってばかりじゃダメだ。怖いけれど、立ちむかわないと。 


「カズユキさん……ムチャばかりです」


 二人で手を握り合う。死ぬときは共にと言わんばかりに。 


「父上!」


 ラジューナちゃんが、影に抱きついた。


「おお、ラジューナちゃんではないか! 元気だったかーっ?」


 影の方も、ラジューナちゃんの頭を撫でる。


 ノゾキ魔の正体って、ラジューナちゃんのお父さんだったの!?

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