お風呂に穴、原因はいつもひとつ

「わらわを差し置いて魔王城を風呂場から乗っ取ろうなど、どこの狼藉者か!」


 腕をまくりながら、ラジューナちゃんが吠えた。無理しなくていいよ。


「皆様、申し訳ありません。魔族の長でありながら、魔族共を押さえ込む力がありませんでして」

「気にすることないッスよ。そこらの魔王なんて、我らセントレア騎士団の敵じゃないッス」


 相手もそこらの魔王だというのに、オルタはやたら強気に語った。


「騎士団長様、ありがとうございます。本来ならば、魔族自身が解決せねばならぬ事案。ご助力いただけるとは」

「なんのなんの。市民の安全を守るために、騎士団はいるッスから!」


 ドルパさんがお礼を言うと、オルタはドンと胸を叩く。


「あたしも、本格的なダンジョンって数度しか潜ったことないので、慣れておかねばッス」

「頼もしいですわ。ですが、我々魔族が、あなた方人間族をイケニエにするなど、お考えには?」

「するんスか?」


 オルタの口ぶりには、「あなた方ならやらないだろう」という意図が混じっていた。


「とんでもございません。魔族といえど、人間族と敵対するような者は野良です。ひと言でいうとチンピラです」


 オルタが「ほへえ」と相槌を打つ。今までボクたちが倒してきた魔族は野良チンピラだったらしい。


「プロの魔族は、人類が侮れない存在だと把握しています。幾度も人間に倒されていますから。我々が人に害をなさぬ限り、襲っても来ないとも」

「ありがとうッス」


 魔族と人間族の、奇妙な信頼関係が生まれた。


「それにしても、敵が出てこないッスね」

『左様。じゃからワシは、この穴が敵襲とは考えづらいんじゃよ』


 ユーゲンさんでも、考えが及ばないらしい。


 でも、なんとなくわかってきた。


「だったら、答えは一つしかないのでは?」

『ふーむ。そうじゃろうそうじゃろう』


 ボクがヒントを出さずとも、ユーゲンさんは察してしまったらしい。


「おいカズユキ、何かわかったのか?」



「お風呂に穴が開くって言えば、ねえ……」



 ボクが全てを語らなくても、男性陣は理解できたようだ。


「なるほど、ノゾキね」


 ようやく、シャンパさんでも把握できたらしい。半ば、呆れたニュアンスも混じっている。


「で、ノゾキ穴をデカくしようとしたら思いのほか巨大化してしまった。結果、開けたヤツがバレたからバックレた、ってことッスか?」


 オルタが全部、説明してくれた。


「だいたいその通りだろうね」


 あとは、この穴を開けた犯人を見つけ出すだけなんだけれど。


「でも、こんな大きな穴を、いったい誰が?」

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