さらば天空の城

 さっそく通信用の水晶玉を開発し、それを研究部屋に設置した。


「ではシャンパさん、先に翼で移動してもらえますか?」


 準備のため、シャンパさんに魔法学校へ向かってもらう。


「わかったわ。翼はいくらでもあるから、みんなにも渡しておくわ。また宿屋で待っていてちょうだい」


 魔法学校で設置が完了したのか、研究部屋に置かれた巨大水晶玉に、男性の顔が映った。隣にいるシャンパさんが、男性の肩に手を置く。彼が、シャンパさんの夫らしい。


 数度言葉を交わし、魔法学校リモート講義は近々始められる運びになったみたいだ。


「よかったですね。これで、地上とも交流できますよ」

「ダンジョンとしても機能して、ワシはますます他人と交流できそうじゃ」


 活き活きと、ユーゲンさんはダンベルをカールする。挑戦してくる冒険者の到来に胸を躍らせているのだろうか。


「では、今度こそさらばじゃ」

「ありがとうございました。いいお湯でした」

「礼をいうのは、こっちじゃて。お前さんは、ワシに生きがいを持たせてくれたわい。もう死んでおるがのう」


        ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 ユーゲンさんと別れた後、ボクたちはシャンパさんの翼を使う。

 地上へと、一瞬にして戻ってきた。

 今は全員で、宿の酒場にてくつろいでいる。


「いやぁ。あのおじいちゃんも太っ腹ッスね」

「魔法学校の教授相手に研修講義してもらえる上に、マジックアイテムのサンプルまでもらえるなんて。ある意味、あのおじいちゃんが収穫だったわ」


 魔法学校は、ユーゲンさんを特別講師として招き入れた。極秘のアドバイザー扱いである。彼の技術は後世に受け継がれ、失われることはないはず。


「最上位アンデッドとして、命を狙われる危険性は?」

「ないわね。そもそもあの性格で、世界の脅威になるとは思えないわ。いわば『放置しても世界が平和なラスボス』扱いよ」


 呆れながら、シャンパさんはエールをあおる。

 よかった。まさか、日本の技術がこの異世界で通用するなんて。

 これで、ブルーゲイザーが奪われることもないだろう。


「ところで、カズユキさん。どうして秘宝探しに乗り気になったんです?」

 シズクちゃんが、ボクに問いかけてきた。


「うっ」

 ボクは口ごもる。なるべく会話に入らないようにしていたのに。


「それ俺も、気になっていたんだ。カズユキが珍しくダンジョンに興味を示したからな」

「温泉バカをかきたてた動機は、なんだったんスか?」


 まるで芸能インタビューだ。


「もし、危ないモノじゃなかったら、宝石はシズクちゃんにあげようかなーと」

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