城内部は健康器具トラップだらけ

「わわわわわ止めて止めてッス!」

 逆走式動く歩道で、オルタがずっとランニングしていた。


 まさか、廊下がベルトコンベアになっているなんて。


 ボクたちも、レッドカーペットで足踏みしている。すぐ後ろには、剣山が迫っていた。脱出できなければ、全員串刺しである。


「早く止めろ!」

 最年長のオケアノスさんが、一番バテていた。


「シズクちゃん!」


「はい。ぴょーん!」

 一番元気なシズクちゃんが、壁伝いに走る。壁は逆走式ではない。


「このレバーですかね? てい!」

 廊下の端にあったレバーを、シズクちゃんが蹴る。


 コンベアの速度が下がり、やがて止まった。


「間一髪だったな。カズユキ」

「ですねぇ」

 さすがに、ボクはへたり込む。


 オケアノスさんのすぐ真後ろにまで、剣山は迫っていた。


 天空城内部は、このようなワナが大量にある。敵こそいない。が、至る所にトラップが張り巡らされていた。


 道中には石製のゴーレムもいる。シズクちゃんとシャンパさんの連携でどうにか撃退できたけれど。


 オルタがことごとく罠にハマり、仕掛けに弄ばれる。不運体質なのかな?


「イタイイタイイタイ! 今度はダメージゾーンッス!」

 床に青竹とか足ツボ刺激タイプの玉砂利があり、オルタが悶絶した。


「クソ! クツを履いてるのに、ダメージが突き抜けて来やがる!」


 そうなのだ。ボクたちはちゃんと丈夫なクツを装備している。なのに、痛みが走るのだ。足を引きずって歩いても同じで、足の裏がこすれて余計に痛む。


「でも、ゴールはまだ先ですよ」

「浮遊魔法を。だめね。使えない」


 宙に浮く魔法だけが、なぜか使用できない。


「いたいですぅ」

 壁歩き可能なシズクちゃんも、壁にさえびっしりと埋め込まれた玉砂利型の凹凸に苦しんだ。


「血行を良くしに、ここまで来たわけじゃないんですけどね」


 やっとの思いで、玉砂利ダメージゾーンを抜けた。


「これじゃ、まるで健康ランドじゃないか」

 廊下に腰を下ろして、ボクは深呼吸をする。


 本当に、こんな所に伝説の秘宝なんてあるのだろうか? 心配になってきた。


「しかし、生態系が少ないのは気になりますね」

「確かにね」


 あまりモンスターを大量に住まわすと、完全孤立した制御空間内で生きられないからでは。

 それが、シャンパさんの想像である。

 この城は、地上と完全に分離し、隔離している。ナマズは湖に住んでいるからいいとして、他のモンスターでは餓死必至だろうと。


「確かに、人型はゴーレムだけでした。他のモンスタータイプは見当たりません。番犬でもいるかと思いましたが」


 どうも、生物らしい反応は確認できないらしい。


「ある程度、植物の生態は循環しているみたいだし、人一人分くらいは自給自足できるみたいだわ」

「そのようですね。先に進みましょう」


 城自体は、それほど大きくない。もうすぐゴールである。


 石像に囲まれた通路の向こうに、ボス部屋らしき豪華な扉が見えた。


 しかし、敵がいない以上、温泉地には期待できないかも?


 と思っていると、四方を囲っている石像が動き出す。


「またゴーレム?」

「違う。ガーゴイルだ!」


 羽の生えた悪魔型石像が、空を飛んだ状態で襲ってきた。直下と同時に爪で切りつけてくる。攻撃の後にまた上へ逃げていく。ヒットアンドアウェイ戦法だ。上空で口から火炎放射を放つ個体も。


「三角飛びです、えーい!」

 壁を足場にして、シズクちゃんが多角的に攻めるも、位置が悪すぎて攻撃が当たらない。


「やはり、魔力で動くモンスターばかりですね」

「弓矢部隊、魔法部隊、構えっ!」


 最後列にいた兵士グループが、矢を構える。


 オケアノスさんとオルタのグループは、盾を構えて弓兵たちを守った。


「放て!」


 氷や炎などの魔力付与された矢が、上空のガーゴイルめがけて飛んでいく。


 少しずつ戦力を減らしていき、三分の二は破壊した。が、まだ大勢のガーゴイルが残っている。


 石像たちが寄り集まって、一体の巨大デーモンと化した。今度は実体があるようだ。


 再度、弓部隊が魔法部隊と連携して攻撃する。


 しかし、上位魔物は胸板に力を入れただけで跳ね返してしまう。


「何か打つ手はないですか?」

「魔力の供給源を、断てばいいのよ」


「弱点を探すんですね?」

 ボクはシズクちゃんに頼んで、おぶってもらう。


「何をする気なんです?」

「あいつの身体を走って回って! 攻撃はしなくていい!」


 モンスターを操作している動力を探すんだ。


「わかりました! いきます!」


 鈍重なモンスターが、本気のシズクちゃんを捕らえられるはずがない。大きくなったのがアダになったのだ。


 加えて、ボクの【探知】能力をミックスさせる!


「弱点は、みぞおちのベルトだ!」

「はい!」


 ここで、シズクちゃんにはボクを放り投げてもらった。彼女に、本気で攻撃して欲しかったからだ。シャンパさんの魔法でキャッチしてもらう。


 シズクちゃんは、あえてモンスターの正面に立った。大げさに疲れた様子を見せる。


 好機とばかりに、魔族が床板をぶち抜かんばかりの下段パンチを放つ。


「甘いです!」


 カウンターのヒザ蹴りが、見事に決まった。相手の勢いが強いほど、こちらが弛緩していればいるほど、威力は高い。


 シズクちゃんのヒザは、岩でできた相手の体格をも砕いた。


 はあー。温泉に入りたい。

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