タワーの大瀑布

「まあ、妥当だな。オルタがリーダーでは、命がいくつあっても足らん」

「ひと言余計じゃないッスか、パイセン?」


「うるせえ! お前は説教が足りないくらいやらかしてるんだよ!」

 オケアノスさんが、オルタを軽く小突く。


 一層ゴール付近を拠点にして、ボクたちはレベルを上げる作業を続ける。


 他の依頼をこなしたい冒険者や、早く帰りたい騎士たちからは反論も出た。が、「ならば低レベルクリアができる保証はあるのか?」とオケアノスさんが問うと、皆が黙り込む。


 渋々レベリングに励み、足を引っ張らない程度に強くなっていった。


「ねえシズクちゃん、ボクも鍛えた方がいい?」


 一応、戦えはするのだが、自分の身を守れる程度である。


「敵陣に突っ込んでいかないでください。助けられないので」


 あくまでも、ボクは戦闘要員としてカウントされていないらしい。 


 第一層のボスは、「ケルベロス」という犬型の猛獣である。しかし、シズクちゃんのレッグラリアットの一発で撃沈した。


 やはり、レベリング作戦は成功だったのである。


 そこからは、誰もレベル上げに文句を言う者はいない。


 

 続く第二層の砂漠エリアで、ボクらは音を上げそうになった。

 ボクの「コーヒー牛乳無限湧き」スキルがなければ、限界に達していただろう。


「やばかったな。オアシスがなければ干からびるところだったぜ」

 全員で湖に浸かりながら、オケアノスさんがつぶやく。


 オアシスならば、水風呂でさえ心地よい。回復ポイントとしてマークし、この付近でレベルを上げ続ける。

 奥へ進んで、ボスの大サソリを倒した。上の層へ。


 

 三層は、氷山エリアだった。

 砂漠エリアとは打って変わって、水より湯が恋しい。


「いやあ、生き返りますね」

「一時はどうなるかと、思ったけどね」


 温泉の快適さは、シャンパさんによってもたらされたモノだ。 


 回復の泉がパイプから凍っているというアクシデントがあった。が、シャンパさんの魔法で水の導線ごと温めて泉を復活させる。 


 ボスは「ビッグフット」という、ゴツい皮のブーツを履いた雪男だった。マタギ風ジャケットを着て、雪女ギャルを何人も引き連れたパリピである。雪山舞台なのに、やたら暑苦しい。


「こんなヤツ、最強になったあたしの敵じゃないッス!」


 言葉通り、オルタがザコ雪女を蹴散らし、オケアノスさんとシャンパさんでパリピボスにトドメを刺す。 


 実際は、ボクが回復スポットのお湯をボス部屋まで流し込む作戦で、ボスを弱らせたんだけど黙っておく。


 少し鍛えては、一段ずつ階層を登っていった。


 特にシズクちゃんは、ドンドンと強くなっていく。気がつけば、レベルがオルタの数値さえ超えていた。


 二人やシズクちゃん、オルタはもちろん、他の人たちにも死んで欲しくない。


 その願いは、届いたみたいだ。


「ひええっ。これじゃもう、シズクさんにケンカ売れないッスねぇ」

 ボクが見つけた回復の泉で、オルタが一息つく。


「売るつもりだったんですか?」

 シズクちゃんが、オルタに軽口を叩いた。


 こうしてボクたちは、一階を登るのに三日を使いつつ、計二ヶ月ほど費やす。


 極めて順調だと思っていたんだけど、そうもいかない。


 四階層まで上ったとき、大変な事態に見舞われた。


「階段が、ない……」


 この層にはモンスターも沸いてこない。極めて安全な場所と思われた。しかし、先に進むための階段やハシゴの類いがどこにも見当たらない。

 どうりで、あまたの冒険者たちが断念したわけだ。


「そうなんスよ。オヤジが昔この辺りを攻略しに来たときに、このような事態に見舞われて」


 対処法を探していたが、何も見つからなかったという。


 しかし、問題はそれだけではなかった。


「天空城を、通り過ぎてんじゃん」

 騎士の一人が、ぼやく。


 なんと、天空城は頭の下側にあるのだ。しかも、頭と城は離れていて、道が続いていない。こんなの、どうやって道を作れというのか。


「おい秘湯ハンター、お前さんなら何かわかるんじゃ?」

「ちょっとオケアノスさんっ。いくらダンジョンのお湯に詳しい、つっても、ダンジョンには詳しくないッスよ」


 オルタの言うとおりだ。魔法使いがどうして塔をこんな構造にしたのか、ボクにだってわからない。なにか、目的があるはずだ。


「なんの音です、これ!?」

 突然、シズクちゃんが耳に手を当てた。


 塔のてっぺんから壁伝いに、滝が流れ出ていく。まるで、塔内部の汚れを洗い流すかのように。


「うわあ、すごい水の量ですよ!」


 まるで、滝の壁だ。フロア全体を、水の流れが覆い尽くしている。


「塔の壁に近づかないで。流されてしまいます!」


 グループ全員、フロアの中央に集まってもらう。


「そうかっ、おかしいなと思っていたんだ」


 塔なのにどうして、生態系が維持されているのか。


 日光などは、ガラス張りのフロアなどもあったから。


 生態系が循環しているのは、この豊富な水のおかげだろう。


 それにしては、量が多いな。圧倒的に、キャパシティをオーバーしているように思えた。いくら雨水を取り込んでいるとはいえ。


 しかし、この瀑布はボクに一つの知恵を授けた。


「タワーと塔、それにこの水とは、関係しているのでは?」

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