女騎士の、即墜ち二コマ

 第一階層を進みつつ、オルタの快進撃は続く。

 

「絶対に、魔物なんかに負けないッスからぁ!」

 オルタの勢いは、留まるところを知らない。

 

◇ * ◇ * ◇ * ◇

「サーセンした」

 数時間後、そこにはタワー内部の温泉でまったりするオルタの姿が。

 

 現在、第一階層終盤まで進んだばかりだ。地上は、まだ見えている。


 なのに、もう満身創痍だ。死者が出ていないだけマシである。


 幸い、回復スポットが設置されていたのが救いか。

 それも三〇人は入れそうな大浴場である。


 すぐに、大浴場を取材、回復の泉として登録した。

 ここを中継地点としなかった冒険者って、どれだけマゾいのか。

 岩場の隠し部屋だったから、見つけられなかったのか?


 人が多いので、先行していた我々が先に湯をいただいていた。

 混浴のため、全員が水着に近い素材を着用している。


 後続隊は、食事を取っているところだ。

 風呂では傷や体力は回復しても、さすがに空腹までは満たされない。


 オルタはヒモなしの赤いビキニを着用して、身体を癒やしている。


「まったくお前は。ペース配分を忘れて、前半でツッコみすぎ大技連発しすぎだ。おかげで、どれだけ足を引っ張ったと思う!」

「返す言葉もないッス」


 温泉の中で、ガミガミと怒るオケアノスさんに、オルタがペコペコ謝り倒す。


「短期決戦で挑んだ方が、さっさと進めるかなーって」

「いや無理だろ絶対。全部で五階層まであるんだぞ? 何日かかると思ってるんだ? リソースがどれだけ大事か、お前にもわかるだろうが」


 騎士独特の聖属性魔法を剣に付与して、オルタは魔物を切り飛ばした。

 そのため、身体に負担が掛かりすぎたのである。


 大型魔獣の討伐なら、これでいい。すぐ帰るから。しかし、この塔はまだ先が長い。


「お前ときたら、必殺技を立て続けにバカスカ撃ちやがって。シズクがいなかったらガス欠で死んでたぞ」


 危うく、犠牲者が出そうな状態にまで陥ってしまう。


 オルタのすぐ側に、ヒールスポットらしきポイントがあったからよかったものの。

 そこは隠し部屋になっていた。


 シズクちゃんが見つけてくれなかったら、ボクたちは死んでいただろう。


「ありがとうッス。シズクさん」


「いえいえ。無事で何よりですね」

 功労者であるシズクちゃんの言葉には、若干のトゲがあった。


「ごめんなさいね、オルタ、オケアノスを狙っててね。いいところ見せようって張り切っちゃってんのよ」

 いつものように杖にローブを干しながら、シャンパさんがフォローを入れる。


「全然気にしていませんよ。それより、シャンパさん。あの女性、オケアノスさんをずっとパイセンって」

「オケアノスは、元騎士隊長なの。腕は確かだったんだけど、根っからの自由人だからすぐ辞めたけど」


 オケアノスさんの友人が、オルタの父親なんだとか。

 脱退したあと、その友人もやめて、今はオルタが隊を仕切っている。


「パイセン、この人たちどんなプロ級なんスか? 一周回ってヤバいッス」

 オルタが、手に湯をすくって肩に掛けた。

 少女らしい、発育のいいスタイルである。


「こっちがスルーしそうなヒールスポットを、優先して探すじゃないッスか。宝箱やドロップアイテムもシカトするッス」


 まだオルタは、ボクたちを変わり者としか思っていないらしい。

 当初のオケアノスさんと同じ反応をしていることも、微笑ましかった。


「この二人は、温泉専門のハンターだ。女神公認のな。回復の泉を見つけることに命をかけている」

「えらいニッチな職業ッスね」


 だから、余計に重宝されるのだろう。


「それだけ、無謀な冒険者が多いからな。オレからすれば考えられんチャレンジをしやがる。先は長いんだ。適度に休憩を挟まねば」

「休んでいる間に先越されちゃうじゃないッスか!」


 オルタが飛び起きようとした。

 裸に近いことを思い出し、すぐに湯へ沈んでいく。


「見くびっていたことは、反省するッス。でも、二人もそれでいいんスか?」


 ボクに会う人がいつもしてくる質問を、オルタも問いかけてくる。


「別に構わないよ。温泉がボクのすべてだし、これでお金ももらっている」

「温泉以上のお宝だって、大量にあるッスよ」

「ボクは温泉を選ぶよ」


 すっかり、オルタは絶句していた。

「特にウサギのシズクさん! あなためちゃ強いんですから、アイテムを拾いまくって方が大金持ちになるッスよ?」


 シズクちゃんは首を振る。

「お金が入らないなら、困るでしょう。しかし、この仕事でもお給金はいただけるので、それで生活はできます。欲しいものは、レアな食材くらいでしょうか」


「欲がないッスねぇ。冒険者というより修験者ッスね」


 ボクたちの行動理念は、やはり普通の冒険者には理解できないだろう。


「やっぱ所帯持ちの余裕ッスかね?」


「え、何を言っているの?」


「だって、ご夫婦で旅をなさってるんスよね?」


 ボクが「またか」と思っていると、シズクちゃんが「違いますぅ!」と強調した。


「ああ? この二人は結婚してねえぞ」


「はあっ!? あり得ないッス!」

 オルタがサバッと起き上がる。

 ビキニのトップが、水圧でスリ落ちそうになった。

 慌ててオルタは座り直す。

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