第五章 天空露天風呂を目指して 前編 精霊塔の打たせ湯

天空城の秘宝伝説

 秘湯を巡る旅のさなか、訪れた街でオケアノスさんと再会した。


「ワタシもいるわよ」

 シャンパさんも、もちろん同行している。



 飲めないボクたちに、オケアノスさんが料理をご馳走してくれた。

「実はな、お前さんたちを探していたんだ」

「そうなんですか?」

「なあ、【ブルーゲイザー】という宝石探しに、付き合ってくれないか?」


 オケアノスさんから、再度パーティを組もうとお願いされる。いつになく慎重な口調で。


「遙か昔、さる王族の館から秘宝が盗まれた。城に仕える魔法使いの手によって」


 魔法使いは世界中の物資を、大量に無人島へ転送した。

 貴族領地や王国はもちろん、魔界の資源まで。

 一夜にして城が築かれ、島が空に浮かんだそうな。

 時の権力者が、空から奇襲を掛けたこともあるという。

 が、失敗に終わった。


 魔法使いが亡き今なお、その城は空に浮かんでいる。


「そこに眠っているが?」

「ああ。【ブルーゲイザー】だ」


 天に浮かぶ城に、秘宝【ブルーゲイザー】が眠っているらしい。

 しかし、誰も実物を見たことがないという。


 何の目的で城が建てられたのか、不明である。


 宝石を盗んだ自分の身を守るためだったのだろう。

 けれど、その城は一度浮かんだら二度と降下しなかった。

 地上で補給や交流などもなかったそうだ。


 なぜ魔法使いが宝石を盗んだのかも、明らかにされていない。

 王族は未だ、かたく口を閉ざしている。


「で、その道に通じる唯一の道が、このタワー【精霊塔 リロケン】ってワケ」

 シャンパさんから、ボクはそう説明を受けた。


 この街は、天を突くほど高い塔・リロケンの周辺にある。

 土作りの一見脆そうな塔は、天空城と繋がっているそうだ。


 この塔を攻略するために街ができ、繁盛していった。


 リロケンは、地上と天空城を結ぶ唯一の地点だ。

 しかし、誰も最上階まで到達できた者はいないという。

 強力なモンスターや、幾重にも重なったトラップが、冒険者たちの行く手を阻む。


 百年以上の年月で、関係者は全員死亡した。

 天空城の伝説も今や過去の話だ。

 現在ここは、挑み甲斐のある難関ダンジョンの一つに過ぎない。


「しかし、ここ最近になって、この城を中心に悪天候が続いている。今回は、その調査だ」 


 たしかに。今回はいつもの旅と違って、少々危なっかしい。


 規模も大きく、ボクたちでカバーしきれないだろう。


 パーティには回復役も存在はする。

 しかし、数は少ない。

 その人たちのためにも、ボクが回復エリアを探す必要がある。


「行くよね?」

「ええ。どうも神妙な面持ちです。ご無理をなさっているようなら、お手伝いしましょう」

「シズクちゃんなら、そう言ってくれると思っていたよ」


 ボクたちは、詳しい事情も聞かずに承諾した。


「ありがとう」と、二人は握手してくる。


「それだけ大きなミッションだもん。回復の泉は重宝するでしょ」


「とかなんとか言って、ホントは空の温泉に興味津々なんでしょ?」


 シズクちゃんの鋭い指摘に、ボクも「バレたか」と返す。


「でも、ヒールスポットがあるってだけでも、お頃の拠り所になるんじゃないかな。空だとキャンプだってままならないでしょ?」


 何百年も浮かんでいる天空の城に、まともな食料があるとは思えない。せめて身体の傷を癒やす場所は欲しかろう。


「確かに、言えてますね」

「明日の朝までに冒険者ギルドまで来てくれ。お前さんたちのことは、ギルマスに俺から話しておくから」


 正確な集合時刻を聞いて、その日はお開きとなった。



         ◇ * ◇ * ◇ * ◇



 明朝、街の冒険者ギルドには、どういうわけか騎士団が。

 それも大人数である。


 騎士たちの中央にいるのは、若い女性だ。

 栗毛でショートカットの女性騎士は、少女と言ってもいい歳である。

 銀製の胸当てに、赤いタイトスカート姿だ。

 ニーソックスも、スカートと色を揃えていた。

 同じく銀製のショートソードを、腰に携帯している。

 背負っている盾には、剣と同じ紋章が入っていた。


「あら、来たわね。お二人さん」

 先に、シャンパさんがボクらを見つける。


「大荷物ですね?」

「塔は、何があるかわからないのよね」


 ダンジョン探索用の道具と、食糧を多めに買い込んでいるという。


「私、料理は得意なので、現地の魔獣がいたら料理しますよ」


「助かるわぁ! わたしキャンプ料理なんてできないし」

 シャンパさんが手をパンと叩いた。

「ここだけの話、騎士団とゴハンを一緒にするのは勘弁して欲しかったの! 味付けがワイルド過ぎて、できものが顔に広がっちゃったこともあるのよ」

 頬に手を当てながら、シャンパさんはブルッと震える。 


「あっ、こんなところにいたんスか、パイセン!」

 オケアノスさんに、騎士の少女が声をかけてきた。


「そうだった、紹介しておこう。こいつは知り合いの娘で、オルタってんだ」


 若いが優秀で、一番大きなチームを任されているとか。


「よろしくッス。みなさんはレンジャーですか、道案内役スカウトですかね?」


 シズクちゃんが道案内で、ボクが秘湯ハンターだと告げた。


「あー、あの」と、オルタからニヤニヤしてくる。若干頬を染めながら


 ちょっと小バカにされた感じがするけど、まあ仕方ないよね。

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