第四章 豊乳温泉郷? ホルスタ院

ミノタウロスの僧侶枠

『えー、こちらが、カピバラと一緒に入れる、バイパー山脈のダンジョンです』

 ボクたちは、山脈にあるダンジョンへとやってきた。


 野生のカピバラたちと入浴できるダンジョンがあると聞いて。


 道のりは大変だった。


 しかし、カピバラに癒やされて快適である。


 カピバラたちも、自分たちで栽培した果物を風呂に浮かべて、湯の花の代わりにしていた。

 ここのカピバラたちは、ワーカピバラだ。

 人語は話せないものの、人に近い暮らしをしている。

 言葉もわかるらしく、多少のスキンシップも可能みたいだ。


『見てください。人なつっこいです。人間の冒険者も恐れません。でも、お気を付けくださいね。敵対したら体当たりで襲われますよー』


 レポートを終えると、ボクたちはたくさんの野菜をお土産にもらった。


 

 山を下りて、街へ向かう。


「すごいね。当分野宿には困らないよ」

「アイテムボックスがなかったら、重さでやられていましたね」

「そうだね……あれは、なんだろう?」


 街で買い物をしていた矢先、ボクたちは動く山を見つけた。


 ユッサユッサと揺れる双丘に、世の男性たちも目を奪われている。


「カズユキさん、山伏さま相手に失礼ですよ」

 シズクちゃんから、たしなめられた。


 お山の持ち主の正体は、一人の山伏である。


 ピンク色の長い髪を持ち、牛の角を持つ。

 僧侶が歩く度、錫杖が鳴り響く。

 袈裟からはみ出るほどの豊満な胸は、Gカップともつかない。

 乳牛のような白黒の袈裟を着ていた。


「ミノタウロス族?」

「はい。それも、ホルスタイン種です」


 ホルスタインのミノタウロスなんているのか。

 それにしても、ボクが会う人はほとんど獣人族だな。


「僧侶、それも位が高い方ですね」

「そうなの? 山伏かと思った」

「意味は同じですね。神に仕えているか、自然界を信仰しているかの違いです」


 山伏の女性は、町医者へ入っていった。


 しばらくすると、山伏は出て行く。


 同時に、赤子を抱えた女性が出てきた。

 山伏の背中に何度も頭を下げている。


 こちらに山伏が歩いてきて、頭を下げてきた。


 ボクたちも、あいさつをかわす。


「旅の方、宿を探しているのですが」

「ああ、ボクたちも帰るから、ご一緒にどうです?」


 温泉の情報を知っているなら、情報交換もしたい。

 ボクたちは、宿でチェックインした後、昼食を共にした。


 今まで辿ってきた街とは違い、この地は少しばかりアジアンテイストが強い。

 宿の屋根もワラ製で、レストランも屋台っぽかった。

 ソバのようなヌードルモノを頼めて、香ばしいチキンの香りが店全体に広がる。

 あと、蒸し暑い。


「それがしはミノタウロス族の山伏。TKB三六房の一人、ニュウゼンと申します」


 ニュウゼンさんに続いて、ボクたちも自己紹介をする。


「ほほう。秘湯を求めるレンジャーとは。なかなかたくましい体系をなされている」


 非戦闘員だけど、色々あったからね。


「それで、さっきの親子連れですが」

「ああ。母親の乳が出ぬと報せを受けまして、私が気を練って出しやすくしたまでです」


 この女性山伏は、母乳の出が悪い女性の元へ赴き、対処法を教えたり術で治療したりするという。


「聞いたことがありますよ。乳の出がよくなった女性が後を絶たないとか」

 シズクちゃんの耳にも入っていた。


「ニュウゼンさんのことだったんですね。お医者さんなのですか?」


「とんでもない。まだまだ修行の身です」

 ニュウゼンさんは謙遜する。


「あなた方は温泉を求めていると。では、この国が誇る、豊乳温泉郷などはいかがでしょうかな?」

「豊乳?」


 なんとも蠱惑的な響きだ。


「左様です。この地に住まう僧侶の修練場として有名らしく。一度入れば胸が大きくなるとのウワサでして」


 温泉にはバストアップの効果も期待できるってのは、聞いたことがある。でも、修行場だなんて。


「その場所は?」


「幻の秘湯といわれています。もう随分と古い伝説ゆえ、情報がアップデートされておりません」


 旅の者であるニュウゼンさんにも、詳しい所在はよく知らないとか。


「豊乳の他にも、美肌なども効果があるとか」


「美肌っ!」

 急に、シズクちゃんが色めき立つ。


「とはいえ、豊乳なんぞシズク殿には不必要な効能でしょう。ご立派なものをお持ちですから」


「いえいえ。美肌効果と聞いたら黙っていませんよ!」

 どうしてか、シズクちゃんはノリノリになっている。


「それがしも、そこで修行をしてみたいと思うているのですが、場所がわからぬので往生しておりまして」

「ギルドに、聞いてみましょう」


 冒険者ギルドを回ってみたが、正確な位置は把握できていないという。


「本当に、秘境中の秘境みたいだね」

「今回は、やけに本格的ですね」

「とにかく、知ってそうな人に聞いて回ろう」


 ギルドがダメなら、冒険者に直接聞く。


 この土地で一番長く生活しているシティエルフに、道を尋ねた。


「豊乳の湯か。きっと、タワーカルストが並ぶ山脈にあるよ。ここから南だ」


 カピバラの湯があった場所とは正反対の場所である。


 途中まで、シティエルフは船で案内してくれるそうだ。


「でも、美人の湯だろ? 本当に行くのかい?」

「どういう意味です?」


「あそこ、源泉が枯れたって言うじゃないか」

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