ヒャッハー魔族にサウナを実体験してもらおう

「敵の気配なんて、わかるんですね」

「我と上のドラゴンは、意識も共有しておるからな」


 向こうで寝ているドラゴンに見えている景色や状況は、リムさんにも把握できるという。


 外に出ると、黒い影がドラゴンと睨み合っていた。


「ヒャッハーッ!」


 財宝を狙う輩が、大空から舞い降りる。

 思っていた以上に大きいな。

 二メートル以上ある巨漢なら、ボクも冒険者ギルドで見慣れたけれど。


「ここがレッドドラゴンのアジトか。しけてやがんな。オレ様がまとめて財宝を独り占めしてやんよ!」


 羽の生えたマッチョの大男が、ポーズを決める。

 レッドドラゴン相手でも、物怖じしない。

 突き出た下の牙が、得意げに光った。


「レッサーデーモンだな。軽くひねり潰してくれよう」


 あれで、下級なのか。


「人間体で、戦うんですか?」


「うむ。ハンデだ」

 リムさんの敵ではないらしい。


「へん! 後悔しても知らんぜ」

 手加減してやると言われて、デーモンが腹を立てる。


「どちらのことを言うておる?」


 そのひと言が、戦闘開始の合図となった。


 レッサーデーモンが、手に暗黒物質を作り出す。みるみる膨れあがり、人一人なら軽く黒焦げになりそうな巨大火球へと膨張する。


「げはは! 炭になりやがれ!」

 野球のアンダースローの如く、魔族は黒い火炎をリムさんに投げつけた。


 秒で、シッポの一撃により打ち返される。


「あぎゃああ!」

 哀れデーモンは、自分の技で自滅した。


「さて、お家に帰るんだな。それとも、地獄へ送り返してご覧に入れようか?」


「ひいいい!」

 さっきまで威勢のよかったデーモンが、手の平を返して怯えきっている。 


「いいえ。ここはボクに任せていただけませんか?」


「ふむ。まあ無駄な殺生は我も好まん」

 ボクがお願いすると、リムさんがこぶしを引っ込めた。


 デーモンが胸をなで下ろす。


「ケガをしていますし、ここはひとつ、回復の泉の出番と言うことで。あなたもそれでいいですね?」


 ボクが尋ねると、デーモンは従った。


 相手もただのイキリみたいだ。血を見に来たわけではないだろう。


「一緒に一風呂どうですか?」

「風呂だと?」

「あなたには、ウチが開発したサウナのモニターになっていただきたい」


 まず、デーモンには回復の泉を飲ませた。

 回復効果を持たせるように、前もって女神に安置認定してもらってある。


「おお、傷がスッキリした」

「驚くのは、まだ早いですよ。サウナに入っていってください」


 ここからが本番だ。


「はい撮影スタート」

『どうも、今回はなんと、ドラゴンのねぐらをサウナにしちゃおうという企画です。早速入ってみましょう!』


「うお、あっちい」と、レッサーデーモンがつぶやく。


 放置されていた分、蒸気が十分に行き渡っている。


「あー、なんか気持ちいいですね」

 シズクちゃんが、ヘナヘナになってイスに腰掛けた。


「小窓だけ開けましょう。酸欠になりそうなので」


 蒸気が満ちたことで、サウナが完成する。


「どう、シズクちゃん?」

「なんだか、頭がボーッとしてきました。でも、イヤな気分じゃないですね」


 肌をさすりながら、シズクちゃんはサウナを堪能していた。

 わずかに肌が汗ばんできている。


 ボクも、身体がジットリとしてきた。

 服が重くなってきたので脱ぐ。


「なんのためらいもなく脱いだのう?」

「ドラゴンサウナなんて、秘湯マニア垂涎ですから。ハダカで感じないと失礼かなと」


 リムさんだって、服はウロコに過ぎない。

 つまりは、生まれたままの姿なのだ。


「あっ、そうだ。羽根をパタパタさせてみませんか?」


 大きなウチワで仰ぐことで、サウナの効果は増す。


「やってみようぞ。そこの魔族も手伝え」


「ええ~」と、最初は魔族も拒絶していた。

 しかし、ドラゴンに圧倒されて渋々の様子で手伝う。


「うわー。これはすごい!」

「最高だね」


 シズクちゃんと共に、熱風を全身に感じ取る。

 熱風を送り込む従業員をサウナ神と呼ぶけど、サウナ魔族だね。 


「でも、ちょっとガマンできないかも」

「そうだね。一旦出ようか」


 ボクたちは、サウナ室から外に出る。


「わう、夜風が気持ちいい」

 熱々の室内から出た開放感から、シズクちゃんが背伸びをした。


「水の中に入って」


「え? うわ、冷たい!」

 流水に足を付けると、シズクちゃんが飛び上がる。


「そーっとだよ。そーっと」

 冷えに耐えながら、足を水につけた。

 そこからゆっくりと、腰から肩まで。


「よくそんな大胆な行為ができますね」


「我は問題ないぞ」

 冷水が恋しかったのか、リムさんはすでに頭まで潜っていた。


「はーあ。なんだか、サウナとやらにいたときより頭がフワフワしておる」

「それが、整うって状態らしいですね」


 サウナ好きの友人が言うには、この状態が一番気持ちいいらしい。


 身体を冷ました後、ボクはもう一度サウナに入っては水に浸かる。


『えっと、秘湯ライターのカズユキさん、新陳代謝がおかしくなりませんか?』

「オンオフを繰り返すことによって、身体がむしろ整っていくんです」


 血管のポンプ作用が、活性化されるからだそうだ。


「見事なり、人の子よ。このような施設を建てて。これなら、我らドラゴンでも管理できようぞ」


「喜んでいただけたなら、なによりです。ありがとうございます」


「そこでどうじゃろう」


「なんでしょう?」


 身体ごとこちらに傾かせて、リムさんは告げる。


「ここに、根を張らぬか?」

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