古代人のエリクサー金貨風呂

「うーん」

「ふわあ」


 二人が、ため息と共に目を開ける。


 よかった。気がついたか。


「ここはいったい?」

「これ、エリクサー風呂ですよ!」


 さすが賢人だ。

『ラストバトルまで使われず、大量に余ったエリクサー』

 を全部買い取って、温泉に使うなんて。


「ワイン風呂みたいなもんか? 貴族が自分の私財を自慢するために振る舞うような」


 一応、エリクサーは度数の低いアルコールだという。

 子どもが誤って飲まないようにするためだ。

 それで、独特の香りがするのか。


「ですね。ボクの国でもお酒やチョコのお風呂はあります」

「贅沢な使い方をするよな」


 それを地底湖のお湯で薄めて、民間人にでもエリクサーとして売り出していたのだろう。

「本物のエリクサー」と見せかけて。


「ほほお。まさに古代の錬金術と。エリクサーはさしずめ、金のなる木というワケか。天才なのかバカなのか……」


 きっとバカなんだ。

 結局は自身もエリクサーを使わず、殺されてしまったのだから。


「宝の持ち腐れってヤツですよ」

「だな。俺も今回、色々と学んだ。この歳で、まだ考えさせられるとはな」


 鎧を脱ぎ、オケアノスさんは本格的に温泉を堪能するようである。


「わたしも脱いじゃおっと」

 男性陣の目も憚らず、シャンパさんが濡れたローブを魔法で取った。杖を浮かせて、脱ぎ捨てたローブを吊す。


「どお? バニーちゃんには及ばないけど、あたしだって結構イケるでしょ?」

 しなを作りながら、シャンパさんがスレンダーな身体を見せつける。


 シズクちゃんがグラビアアイドルなら、シャンパさんはモデルという感じだ。


 うわぁ、シズクちゃんの視線が痛い。


 オケアノスさんは我関せずで、エリクサーをお酒代わりに飲んでいた。


「じゃ、じゃあ、レポート始めようか」


 ボクは、話題を変えることに。

 ボクも早く上がって、コーヒー牛乳で一息つきたいよ。

 こんなにも落ち着かない風呂は、初めてだな。


「用意スタート」と、合図を送った。


 シズクちゃんによる、レポートを始める。


『どうも、シズクです。これはエリクサー風呂といって、戦闘不能レベルでも瞬間的に回復しまーす。お湯加減は熱めですね。金貨が底で温められているからでしょう』


 手の平に、シズクちゃんが湯を少量すくった。


『違いはなんといっても、入浴剤代わりのエリクサーです。成金趣味ですが、このおかげで体力全快! 疲労も回復。さすがにね、死者蘇生まではいきません。が、そこはエリクサーです。死属性のモンスターに大ダメージを与えるという特典付きですよ! ここにいたら安全。みなさんも是非一風呂浴びにおいでませ!』


 これまでにない、ハイテンションなレポートである。


 レポートを終えて、安全地帯認定された。

 ここもキャンプとして活用できる。


 とはいえ、宝物庫の中でもっとも貴重なのは、エリクサーまみれの地底湖だろう。


「でも、ごめんなさい。手持ちのエリクサーがなくなってしまいました」

 ボクが謝罪すると、オケアノスさんは腹を抱えて笑い出した。


「エリクサーの代金か? いらねえよ。それくらい稼いだからな」

 オケアノスさんが、周りを見渡す。


「それによ。ここにいっぱいあるだろ。それをいただくさ」

 宝物庫には大量に、エリクサーの在庫があった。



 

 一仕事を終えて、冒険者ギルドまで戻る。


 二人はまた、別の狩り場へ行くらしい。


「助かった。また温泉を見つけたら呼んでくれ。浸かりに行く」


「たっぷり、レポートを書かせていただきます」

 ボクは、オケアノスさんと握手をかわす。


「今回の仕事で、価値観なんて人それぞれなんだってわかったわ。ありがとう」

「死んだら、元も子もないですからね」


 シャンパさんも、今回の旅で少し若返ったようになっていた。



 握手の後、二人と手を降って別れる。



「さて、明日はどんなお風呂に入ろっか?」


 ボクが宿へ戻ろうとすると、シズクちゃんは後に続こうとしなかった。ずっと、その場に突っ立っている。


「どうしたの?」


「あの、カズユキさん」

 ボクから視線を外し、ソワソワした様子で身体をさすった。


「もう、あんなムチャしないで」


 ボクが不用意に、墓標型ボスに接近したことだろう。


「そうだね。これからは気をつけるよ」

「でも、生きててよかった」

「シズクちゃんのおかげだ」


 この娘がいなければ、あんな遠くから正確にエリクサーをシュートできただろうか。


「私に言ったこと、覚えてますか?」

「え、あ、う」


 確かに、記憶している。

『キミだけが頼りだ』なんて、キザったらしいことを。


「ごめんなさい。気持ち悪かったね」


 シズクちゃんが、あまりボクにいい印象を持っていないのは知っている。


「ありがとうございます。信頼してくれて」

 感謝を告げるシズクちゃんは、耳まで赤くなっていた。


「か、顔が熱いよシズクちゃん。のぼせちゃったのかな。コーヒー牛乳でも飲む? 冷えてておいしいよ」


 ボクがごまかすと、シズクちゃんがプクーッと頬を膨らませる。


「もぉ! そういうところなんですからぁ!」

 シズクちゃんはボクから瓶を取り上げて、コーヒー牛乳を一気にあおった。


「カズユキさん、もう一本!」

「えー、もう6本目だけど? お腹壊すよ?」

「もう一本!」

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