地底湖の秘湯

 ポーションのような聖なる属性を持つ薬品の中でも、エリクサーは最上級の逸品だ。

 ボクも、こういったアイテムがゾンビ系にダメージを与えるゲームをプレイしたことがある。

 これなら、死属性の相手にも効果があるのではないか、と考えた。


「でもね、気づいたことがある」


 ボクがさっきから嗅いでいたこの匂いと、エリクサーの香りが同じだってコトを。


「きっとこの部屋のどこかに、温泉があるはずだ!」


 温泉を飲めるタイプにしたのか、はたまた温泉にこのエリクサーを混ぜているのか。


 探す前に、この玉座型ボスをなんとかしないと!


「オケアノスさん、アイテムボックスをお借りしますよ!」

 ボクは、オケアノスさんが倒れている場所までダッシュする。


「ちょっとどこへ行くんですか、カズユキさん!」


「あいつにエリクサーをぶん投げます!」


「そんな! オケアノスの場所まで行ったら、あなたまで巻き込まれます!」


「ボクは大丈夫」


 女神の加護をもらって、ステータスがカンストしているボクなら。


「うっ!」

 墓標へと近づくたび、軽い頭痛に襲われる。

 低気圧の時、体調が悪くなる感じに似ていた。

 しかし、ガマンはできる。


「ほら、大丈夫だ! でも!」


 オケアノスさんたちを引っ張ろうとしたが、動かない。


 装備が重すぎるんだ。


 仕方なく、アイテムボックスからエリクサーだけ借りる。

 大量のエリクサーを手に、ダッシュで帰ってきた。


「ええいこの! 二人を解放しろ!」


 呪いの文字に、エリクサーを投げつける。

 命中はするのだが、下側ばかり。


「もっと上に向かって放り投げないと、効き目がないみたいだな!」


「じゃあ、私に任せてください! それ!」

 シズクちゃんも、エリクサーを取り出して蹴り上げる。


 見事、瓶が上側の文字に命中した。

 更に、ダメージを与えることに成功する。


「この調子で、トスしてください! 私が命中箇所をコントロールします!」


「お願いするよ、シズクちゃん。キミだけが頼りだ!」


「はい、お願いされましたよカズユキさん!」


 オケアノスさんの所持していたエリクサーを、ボクは片っ端からシズクちゃんの足下へ放り投げる。


「ほい!」

「てい!」


 それをシズクちゃんが、墓標型玉座の文字群へキックしてぶつけていった。


「もういっちょ!」

「えーい!」

「効いているぞ! いけいけー。やっつけろ!」


 バンバン、エリクサー攻撃を連続で蹴り込む。


 玉座に描かれた文字群が、苦しんでいるかのようにのたうち回った。

 やがて、文字らはケイレンして、消えていく。


 効き目はバッチリだったようである。

 オケアノスさんのもったいない精神が、彼を救ったのだ。


「やっつけたよ!」


 もう被害は出ないと察して、オケアノスさんに駆け寄る。


「息はある!」

「でも、目を醒ましません!」


 どこかに、回復の温泉さえあれば。


 いちかばちか、ボクは玉座の反対側へ。


「そこには財宝しかないのでは?」

「ボクのカンが正しければ、おそらく地下へ続いているはずだ」


 いかにもな場所に財宝なんて、ありきたりすぎる。

 見つけてくれと言うようなものだ。


「本命は、やっぱりこの玉座の裏側にあるみたいだね」


 思った通り、さらなる地下に続くルートが。


 これだけのトラップを仕掛けているのだ。

 きっと、もっとすごいお宝か、あるいは。


 短いらせん階段を抜けた先に、想像通りのものが。


「あった!」


 ボクたちは、水場を見つけた。水面が、黄金に輝いている。


「ここは?」

「地底湖さ」


 ここまで大規模な宝物庫だ。

 ならば、地下でずっと滞在する可能性もある。

 生活面もカバーされていたのではないか。そう思ったのである。


「金貨を沈めている?」


 それで、光輝いていたのか。


「ああ、まるで雑誌の広告みたいだ」


 あれは札束風呂だけど。


 おそらく、この遺跡のヌシは、見栄っ張りの成金賢者だったのでは?

 何らかの方法で稼ぎ、「自分はこれだけの財産がある」と周りにも言いふらしていたのかも知れない。

 この地底湖に溢れる金貨のように、自己顕示欲を膨らませて。


「賢者なのに?」

「元遊び人が賢者なんて、ボクが子どもの頃からあるお話だよ」


 で、盗賊に襲われた。

 その際に、加害者を祟ったのだろう。

 未だにその防衛システムが、働いているらしかった。


「シズクちゃん、キミはシャンパさんをお願い。ボクはオケアノスさんを!」 


 さっそく、戦闘不能になった冒険者二人を、お湯につける。

 装備の外し方がわからないので、その格好のままに。


「シズクちゃん、シャンパさんを溺れさせないように、後ろから押さえてて」


「はい。心得ています」

 バニーガール姿になったシズクちゃんが、シャンパさんの後ろに回って、細い身体を抱え込んだ。


「ボクもさっそく」

 服を脱ぎ、ボクも湯船に身体を浸ける。ボクの担当は、オケアノスさんだ。


「おおお、熱い! でもちょうどいい!」


 地熱の影響か、湯は若干熱めである。

 とはいえ、日の当たらないダンジョンで、この温もりはありがたい。


「それにこのお湯の香りは、エリクサーにそっくりだ」


 若干、香りが薄いが。


「入浴剤代わりに使っていたのかな。それとも……」


 錬金術の正体が、掴めたかも。

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