血は沸く
「あと2駅の辛抱です、ミコ様。
それにお兄様がお守りになります!もう安心です」
恍惚の表情と声色。
スーツの男達に囲まれてるのにお花畑にでもいるようなテンションのカノン。
この短い間にすでに見飽きた感のあるうっとり顔。
で、その信頼厚い、安心をもたらすはずのお兄様=ヒコは……
男達に四方八方から殴る蹴るの攻撃を受けてアッチへコッチへフラフラだ。
血が飛ぶ。殴打殴打殴打。また血が飛ぶ。
リンチ状態だ。いやサンドバッグ状態とも言う。
安心? どこがじゃあああ! と険しい顔で隅っこで縮こまるミコ。
こんなん1駅分でももたないでしょ!と。
実際、パンチの次に飛んでくる蹴りの間隔が速いから辛うじて立っているだけですぐにでも倒れそうな勢い。
「お兄様。私も加勢致します!」
「いいよ、別にぃ。ミコのこと守ってろよー」
血まみれになりながら飄々と言うヒコ。
「いや、加勢いるでしょ! どう見ても」
つい口にでてしまったミコ。
せっぱ詰まって感極まった。
そうでなくてもわけのわからない状況に投げ出されているミコからしたら、ふざけんな! と付け加えても構わないぐらいに追い込まれている。
「焦るなよぉ……。コイツらはな、
「全然わかんない! アレ多すぎ!」
悲痛な叫びにも似たミコの返し。
「なるほど……。お兄様。この者達は
ディーボ族、あの種なら納得です。
血液が空気中の二酸化炭素と結びつくと一瞬で熱せられるという……。触れば大火傷。
ご忠告ありがとうございます。さすがはお兄様です」
「いや、カノンさん、絶対はじめっから知ってたでしょそれ」
「いいえ。何をおっしゃいます。お兄様の忠告がなければ危なかった」
そんなカノンをじっとりと見るミコ。
それにしても……
このスーツ姿に扮する異世界のディーボ族に生気も意思も感じられない。
ただただプログラム通りに動いているような。
血液が二酸化炭素と交わると熱く、沸騰する。
わずか数秒のことだが大量に浴びれば致命的。
ナギナタを持つカノンは攻めあぐねた。
ギョロリとギラついた視線でミコの方を振り返る数人のスーツ男。
そのまま跳躍しミコへと手を伸ばす。
とっさにナギナタを振るうカノンの姿があった。
一気に5人を倒す。
まるで突風でも吹いたような感覚。
刃の部分を避けてほとんど殴打するような感じ。
ミコには何が起こったかもよくわからなかった。
それでもフラフラのヒコより数倍頼もしい。
会話のテンポはいまいち噛み合わないけど。
「めんどくせえなー。しゃあねえから撃っちゃうか」
ガクリと膝を落としかけて踏ん張ったヒコが俯きながら言った。
そして腰の辺りから、銃を取り出す。
「お兄様。銃の類はいけません」
「んあ?」
「ご存知ないですか? 昨年末より地下鉄に組み込まれた《
「名前が長くて覚えらんね」
「ええ、素敵です、そうゆうところ。
なんでもかんでも仰々しく名称を長々とつける行政へのアンチテーゼ、まさに神々しい言葉です、お兄様。
これは略して
即座に列車停止及びドアや窓といった外部への導線部分のシャッター閉鎖で完全に閉じ込められます」
「んんーっと……そうか。つまりアレだな。アレ」
「そうです」
「またアレ……」
と言いかけて口を噤むミコ。
もはや言っても仕方なさそうだ。
通じてるならそれでいい。
会話を聞きつつ、そんなシステムが導入されてたとは……と単純に感心するミコ。
賊対システム・・・か。
街賊というのは所構わず暴れるからそれは必要だなーと一人頷く。
この街においては暴力団やマフィアと呼ばれるような反社会的な勢力よりも遥かに恐ろしく、危なく、黒く悪い連中。
そんなならず者を極めた連中をいつからか街賊と呼ぶ。
この街で大っぴらに暴力行為をはじめとした犯罪行為をしている者の95%は街賊だ。
「ん?」
ふと気づく。
カーチェイス、いきなりぶっ放す拳銃、躊躇せず地下鉄にクルマごと突っ込むアナーキーさ、
列車内で大乱闘のように繰り広げられる暴力、銃……ナギナタ。
いやもうコレその街賊の要素が純度高く含まれてる。
「ま、まさか……」
と思って1つの答えにすぐ行き着く。
――
そうだ。この街の悪者のすべて、街賊……。
それに関わってしまったんだ。
ミコは頭を抱えるがそれでも地下鉄は進む。悪者はすべてを飲み込む。
さあ、どうする!?
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