悪者は地獄の創造者

この人達、この状況、この苛烈な言動。

手に持つ銃やナギナタといった凶器。

すべてそれで説明がつく。



――街賊がいぞくだ。





この街の裏社会・黒社会の頂点を極めた者達。

あらゆる犯罪に手を染めて手段も選ばない。

かつての海賊になぞらえて髑髏の旗を掲げ、街を海原に見立てて渡っていく連中。

というのがこの街での一般常識。



それぞれの美学や哲学、誇り、掟を持ちながらせめぎ合ってる。


と言ってもそんな格好いいものじゃない。ただのならず者だ。

出来る限り関わっちゃいけない。ガイドブックにもちゃんとそう載ってる。


一般的に反社会的な集団と言えばYAKUZAだけどそんな皆さん達も街賊には関わりたくないと思ってるし八華はっかという街にも旨味がないらしい。


いちいち摩擦が生じる度に殲滅戦も辞さないような相手とわざわざ同じ街で競合する必要がないってことで。

この街がもたらす莫大な利益と天秤にかけても。



で、なんでそんな街賊と行動を共にしなくちゃいけないのか・・・。

と、考えるとミコの背中を冷たい汗がつたう。




「私達が何者か、なんとなくおわかりになったような顔ですね」

カノンの言葉に引き気味の目つきをもって返答にするミコ。


「そう、街賊です。お察しの通り。

街賊・・・嗚呼、それはつまりこの街を根城にした偉大なる悪の華。

せめぎあい、しのぎを削り合い、領土紛争を繰り返す。

信念ある者、快楽だけを求める者、欲求に正直な者、権力欲にかられる者……

その実は多種多様ですが、自由と暴力に彩られた法に縛られぬならず者。


怖いモノ知らずの狂った人種。

野蛮な血を滾らせ、奪って奪って奪い尽くす。

与えることなど微塵もしない慈悲なき者達。

地獄の創造者にして徘徊者。

海賊の如く髑髏の旗を掲げ意気揚々と進む者達。

決して掲げた旗を見てはならない。ましてや汚してはならぬ。


その者達は業火の中でも笑う魂の持ち主。

この街では最も関わってはならぬ存在と忌み嫌われる者達。

一切の常識はそこにはなく己の掟のみに従う急進的過激派種族…。

だけど最も力強くナニモノにも縛られぬ自由な民……。


嗚呼、そう、そしてお兄様はその街賊の最も華麗で最も素晴らしい組織、

セディショナリーズのボス、なのです!

どうぞ、感動してください」


恍惚の表情が極まっているカノンを見て、これは相当にイッてしまってるというかネジが2,3本どころか元々ネジなんかないんだろうなと思うしかない。

全然凛々しいレディーなんかじゃなかった。



地獄の創造者にして徘徊者ってなんだ? どこの資料に載ってるんだ、そんな文言。

何の物語が始まるんだ? センスを疑う。

まあしかし、街賊が何なのか、その危険性も合わせて、概ね正しいとも言える。



――これは街賊が日常的に繰り広げている抗争の一環なんだ。

だから仰々しく、異世界なんて荒唐無稽な物語を用意して拉致に拉致を繰り返してるんだ。

中身はただの利権の食い合いか、単に折り合いがつかず衝突してるだけなんだろう。

安いクスリのやりすぎで異世界なんていう幻想を思い込んでるのかもしれない。

ミコの頭の中でいろんなモノが繋がり塊、その結論に行き着く。



「ああ……帰りたい……ママのハンバーグが食べたい」

ミコは思わず項垂れながら呟いていた。


「意外と子供の舌なんですね。ミコ様。

あっでもほんとのママではないんですよ」


「まだ言うかー!! もうそんな嘘いいから! 街賊の争いに巻き込まないで!」

立ち上がる。

列車が揺れてバランスを崩す。

飛びついてくるスーツ男。

それをナギナタで跳ね除けるカノン。



「嘘ではないですが……」



列車がまた駅のホームへと滑り込むように入っていく。

窓から見える光景に愕然。


いま、車内にいるスーツ男達と同じ目付きをした男達が居並ぶ。

増援。敵が倍ほどに増えそうな勢い。



これを一言で言えばなんていうかぐらいわかる。うん。


絶対絶命ってやつだ。

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