地下鉄は淀んだ目をした男達を乗せて進む

おぼつかない足元でなんとか乗り込んだ地下鉄。


息切れと震え。

あと身体の至る所が痛むミコはドアが閉まるとすぐにもたれるように座り込んだ。

きっと前から見たらスカートの中の下着が見えるだろう。

だけどそんなパンチラ。というかパンモロ気にしてる程余裕もなく身体は軋んでいる。


なんで? なんなの? これなに? 何が起こってるの? ただの高校生なんですけどーーー!?

青春真っ只中なんですけどーー!?

帰って戦艦大和のプラモデル作りたいんですけどーー!!

と頭の中でひたすら繰り返すミコ。涙目。



「まあそんなところに座り込んで。マナーがなってませんよミコ様」

「はぁ!? クルマで地下鉄に突っ込んでいくキチ⚫イがマナーを語るなーー!」

「車内で大声もいけません」

「・・・・・」


息を切らせながら睨むのが精一杯のミコ。

車内は深夜の時間帯ではあるが座席はすべて埋まり、数人がつり革を持って立っているぐらいの人数だ。

そんな人達が怪訝な顔でカノンやミコを見る。



「ちなみに……先程見たポータル。異世界とこの街を繋ぐ門ですが、ミコ様も当然創り出せます」

「え? やだ! あんなの創りたくない!」

「ミコ様なりの造形で創り出せますので。

それにこの世界にある、固定されたポータルは通常はあのような造形はしておりません。

ひっそりとこの街に馴染む形で存在しています。

先程のアレは、グリッスルが急造したもの。

思慮なく勢いで創られたものなのでどこに飛ばされるかわかりませんし」

「……え……ええ……?」


「まあいきなりは信じられないでしょうが……それがミコ様がここ最近狙われる理由ですから。

ポータルを創り出せるのは王族だけ……ということはそれだけですでに権威となります。

そのチカラ、ポータルの機能によって数多の世界がこのニッポンの八華はっかと繋がる。

そして……あまり大きな声では言えませんが、この八華にはそんな異世界から多くの人種が渡って来ています。

先程の……犬。あれもそうです。どこの世界かは忘れましたがああいった人種なのです。

ヒトガタに変化したでしょう?

ああゆうのが所謂、異世界……多元界たげんかい人です。


その多元界にある連盟という多くの世界間同士の諸問題を解決したり実質的な運営を行う機関もありますし、

その機関の数々の職員がこの街で秘密裏に仕事もしています。

もちろん観光客もいますし、この街はそもそも世界と世界を繋ぐ中継地ですのでそれで多くの異世界の者が渡ってきます。

要はトランスファーや列車の乗り換え駅のようなイメージをして頂ければと」


「ちょっちょっいきなりそんな早口にバーっと言われても」


「そうですね。どちらかと言うと王族らしからぬ残念な脳みそのようなので」


「ひ、ひど……残念……」


「失礼。冗談です。長々と話してる時間がなさそうだったもので」



カノンはそう言うと背筋を伸ばし首を回す。

と、同時にヒコを背負う男から筒状の長い袋を受け取った。


カノンは淡々とソレを袋から取り出す。


「な、ナギナタ?」

「ええ。車内では少々使い勝手は悪いですが、手に馴染んでるもので」


次の駅に電車が止まりドアが開く。

若干ブレーキの音がうるさかった。


その駅のホームからゾロゾロと鋭い目をしたスーツ姿の男達がいくつかのドアに別れて乗り込んできた。

この時間に通勤ラッシュ?というぐらいに

あっという間に車内はスーツの男達と不穏な空気に満たされる。



「……戦争を終わらせたいとは呆れる程の戯れ言だなっ」

背負われていたヒコがゆっくりと目を開けながら立つ。

足下がおぼつかず一瞬体勢を崩すが立て直した。

頭から血を流しているが。


スーツ姿の男達はどう見ても残業を終えたサラリーマンって雰囲気じゃない。

一様に目は見開かれ血走っている。

瞬きすらしない。一言で言えば異様だ。

感情もなくただ凝視しているのは、ミコの事。

およそ30人程のスーツ姿の一団がジリジリと近づく。



「ま、これがこの街の日常だ」

ヒコがそう言うと列車がまた緩やかに走り出した。


淀んだ怒りと憎しみと享楽を乗せて。

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