第7話

 異世界に来てから一週間がたった。

 あれから、毎日ダンジョンに潜ってお金を稼いでいる。


 ゴブリンも、あたらしく出てきた二足歩行できる茶色の毛のイヌでアホっぽい面したコボルトも、対処法は簡単だ。

 ハンマーを振り上げて振り下ろす。たったそれだけで終わる。


 とは言ってもいくら固有スキルとはいえ、ゴブリン程度のプラス能力値ではあいも変わらずウォーハンマーちゃんは一ミリも動いてくれない照れ屋さんなので、薬屋にムカつくのが前提条件だが。


 イケメンめ、くそっ!

 振り上げて、振り下ろす。


「ぐぎゃっ!?」


 グチャ、という嫌に瑞々しい音と、悲鳴にもならないような短い相手の声を聞いて、魔晶核を回収して、もう死体に用はなくなる。


 匂いとか、音とか、感触とか、つぶれた後の死体とか、正直、まだ慣れない。

 でも、生きていくには、仕方ない。俺は喉を焼きながら通ろうとするそれを、必死に我慢しながら進んだ。


 魔物といえど所詮はゴブリンやコボルトというかなんというか。

 こいつらには使える素材などないのだ。


 獣のような魔物なら毛皮や肉が取れるし、さらに魔物なら牙や骨や角、はたまた鱗や内臓……要は体全てが素材であり、それらで強力な薬や武器などを作りこともできるらしい。

 しかし今の俺からしたら所詮、絵に描いた餅だ。

 ゴブリンやコボルトといった、雑魚魔物には体のどこも素材になり得ない。


 なので、魔物には必ず体内に存在している魔晶核ってやつを取ったらあとは適当に放置だ。

 きっと森の肥料になってくれているんだろう。なーむー。


 ちなみに、魔晶核というのは魔物にとっての力の源泉だ。

 これが大きければ大きいほど強い魔物だし、小さければ小さいほど弱い魔物。

 ゴブリンなんて、石ころ以下のサイズでしかない。ここら辺は神様wiki。


 とはいえ、この魔晶核はそこそこの値段で売れる。

 まあ、ゴブリンやコボルトの魔晶核なんて腐るほどあるから対して高くはないが。


 今はこんなクズ魔晶核サイズが大きくなれば話は別だ。

 大きなサイズの魔晶核は一等地に家を建てても金が余るらしい……と薬屋は言っていた。

 ただやっぱり今の俺からしたら結局、絵に描いた餅だ。

 まあ、小さなことからコツコツとってやつだ。


 俺がそんな屑魔晶核を拾うと、薬屋がこちらへ来た。


「ったく、相変わらずお前の殺し方はエグいな。魔晶核割れてもおかしくなさそうだよ」


「最終的に壊れてないからもーまんたい」


「とはいえ、素材が売れるような魔物と戦っててもこの戦い方じゃ、かなりもったいなくないか?ハンマーの逆側だって、綺麗に殺せるとは言い難い形してるぞ?」


「多分大丈夫。もし駄目でもその時にはまた別の武器を買えばいい。まだしばらくはここで狩るんでしょ?」


「まあ、そうなんだけどな。ここらへんにいる魔物は金になるの魔晶核だけだから割に合わないんだよなー普通は」


「普通はとは。おっけー薬屋」


「なんだその掛け声。あー普通は、こんなに一日で殺せるもんじゃないんだよ。うろうろ探し回っていつもの半分も殺せてれば全然いい方だ。……なあ、どうやって魔物見つけてるんだ?」


 どうやって、と言われても特に意識したことはないが強いて言うなら……


「おと」


「音?音でどうやって探るって言うんだよ」


「生き物が生きるときは、音が絶対になる。、音がなる。落ち葉を踏む音とか、枝が折れる音とか。そう言うのに向かって歩いたら魔物がいる」


「なるほど……っていや、普通聞こえねえよ」


 そう言われましても、聞こえるからこいつが言うように狩り効率が凄まじいんだろう。

 実際自分の聴覚が人よりいいことは自覚している。


 付け加えるならば、耳が良くなったのはここに来てからとかではなく、俺が覚えている限りは元の世界からそうだった。

 どの位と例えるとしたら、テレビの音量が五ぐらいでも問題なく聞こえるぐらい。


 と言っても意識して聞かなければ、別に耳に入ってこないから雑音が多すぎて街を歩けない……とかそういうのは別にない。

 都合が良くて、ありがたい。


「聞こえるから聞こえるの」


「……まあ、その能力のおかげで稼げてるのも事実だしな」


 なんとか薬屋も納得してくれたみたいだった。えがったえがった。


「そろそろ戻るか」


「りょうかい」


 ちなみに、俺らがいつも狩りをしているのはこの街のダンジョン。

 基本的に大きな町一つにつき一ダンジョン、みたいになっているらしい。

 日本風に言うなら、県ごとにダンジョンひとつ、みたいな感じだ。


 神様wiki曰く十階分下がるごとに地形効果や出没する魔物が変わっていき、下がれば下がるほど強いのが出てくるらしい。

 そりゃあ、いきなり一階層でスーパーハイパーアルティメットドラゴン(存在してるかどうかがわからない)が出てきたらみんな死んじゃうわな。


 今は一階層の森の中。

 出てくるモンスターはゴブリンやコボルトといった雑魚代表魔物ばかりで正直物足りないが、まあ戦闘自体を始めて一週間程度なら納得だ。

 おそらく薬屋はここで基礎的なことを学ばせた上で下に行く予定なのだろう。


 そうこう考えているうちに町に戻ってきた。


 町を歩いても、相変わらず俺は女に近づかれない。

 道で避けられるのは当たり前、女が二人集まっていると俺の悪口を言っているのではないかと疑ってしまうレベルだ。

 まあ、違うだろうけどね。それでも悲しいものは悲しいのだ。


「ほい」


「あざす」


「んじゃあ、また明日」


「ん、ばいばい」


 薬屋に今日の稼ぎをもらうとやっぱり女に近づかれないことによる釈然としない気持ちのまま宿に一人で帰る。

 ちなみに、ここの時点で借金分は天引きされている。世知辛い世の中だなぁ……


 もちろん夕食中に出てきていたのは店主だった。

 一週間かける朝夕の一日二回、それで、店員は四人いる中の男は一人だけだから……


 単純計算で、四分の一割る七割る二。

 五十六分の一パーセント?


 今ソシャゲやったらURでもなんでも出るのではなかろうか。

 ……ソシャゲってやったことないけど、女キャラはガチャで排出されるのか、それだけが心配だな。


「おっ!嬢ちゃんおかえり!」


「ただいま」


 店主が話しかけてきた。この店主、基本的には裏方で別のことしているはずなのに俺がくるときだけは絶対に、頑なに客をさばいている。


 ここまで連続で一緒だと、さすがに顔も覚えられてしまった。


「いつものセットでいいかい?」


「うん、よろしく」


「あいよ、Aセットひとつぅー!」


 Aセットは焼肉のたれっぽいもので炒めたなんかの肉と、野菜。それに薄いコンソメみたいなスープに丸くてふわふわしてるパンだ。

 このパンの側面に切れ込みを入れるように頼んで、ハンバーガーのようにして食べると、周りの客もみんなそれを真似しだしたため、今ではAセットで出されるパンには全て切れ込みが入っている。


 ちなみにだが、ここでもパンには酵母菌が使われているらしく、固いパンではなく、ふわふわした美味しいパンだ。

 小麦本来の美味しさが強くて、人を選ぶかもしれないが今まで食べていた物よりも俺は好きな味だった。


 やっぱり食べ盛りの男子にとっては、適当に焼肉のたれで焼いた肉がこれでもかってほど、美味しく感じるのだ。

 今は女だけど。


 とはいえ、この料理が美味しいことは変わらない。


「ほい、Aセット一つ」


「ありがとう。いただきます」


 うん、やっぱり美味しい。

 ちょっと濃いめのハンバーガーもどきに後の口直しの薄いコンソメがたまらない。

 わざとそうしてるのであれば、あの店主は天才だ。


 もっしゃもっしゃと無言で食べていた。

 俺は、美味しいものを食べているときは無言になる派だ。

 特に理由はないが……癖としか言いようがない。


「ごちそうさま。美味しかった」


「おうよっ!」


 店主の景気の良い挨拶を聞いて、自分の部屋に戻った。


 さあ、これからが俺の本当の戦いだ……っ!

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